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環境・社会・ガバナンスのトレーサビリティの専門家チーム始動

【初出:月刊JASTPRO 2021年12月号(第512号)】

本年の第27回総会の議題10. 持続可能な漁業/持続可能なバリューチェーンに関する専門家チームが、環境・社会・ガバナンスのトレーサビリティに関する活動を開始した旨のNewsがありました。 News内容に加え、第27回総会に提出された文書や第1回セッション議事等から、この活動の背景や経緯、活動概要、作業計画などについて補足します。

<<News>>

UNECE ESGトレーサビリティ専門家チームを立ち上げる

UNECE launches a Team of Specialists on Environmental, Social and Governance Traceability

24 November 2021

【要旨】

複雑なグローバル・バリュー・チェーンには、世界中に散在する生産設備が含まれる。時には、違法な下請けや申告していない非公式な作業を伴うこともあり、その複雑性と不透明性のために、環境や社会経済への影響がどのようにどこで起こるかについての正確な情報を得ることは、実際、非常に困難である。

バリューチェーンをより持続的に管理し、より低炭素で循環型の経済に移行する能力を高めるためには、まず消費者と企業の双方がこれらのリスクの性質と重大さを認識し、それらを測定、緩和、防止する手段を持たなければならない。それ故、環境、社会、ガバナンス (ESG) のトレーサビリティとバリューチェーンの透明性を向上させることが優先課題となっている。

このようなニーズに応えるため、UNECE(国連欧州経済委員会)は専門家チームを設置し、バリューチェーンにおける ESG のモニタリングと報告を改善させる。これは、循環型経済への移行のための主要産業における横断的変革を促進するための努力を支援する。

2021年11月10日の初回ミーティングでは、170人以上の専門家が議論(オンライン)に参加した。議長にはフランス経済財政省のメイリス・スーク氏が、副議長にはIISDヨーロッパのナタリー・ベルナスコーニ氏とブルクコム・コンサルティングのハーム・ヤン・ヴァン・ブルク氏が就任した。参加者は、トレーサビリティを通じてバリューチェーンにおけるESGパフォーマンスを前進させるためのアプローチと展望、および2021~2023年のチーム作業計画について議論した。

専門家は、持続可能な/循環型サプライチェーンと透明性・トレーサビリティ標準との間の調整における広範な課題について議論した。その中で、地域社会、小規模企業及び小規模自作農、特に移行経済国及び新興経済国を含む不利な立場にある者に特別な注意を払うよう呼びかけた。労働者の技能向上と再技能化のための能力開発、および生産方法をより持続可能にし、認証を容易にし、技術ベースのトレーサビリティソリューションを実装するための資金調達は、重要な役割を果たす。

専門家はまた、国際貿易ガバナンスについても議論し、公平な競争条件と開かれた市場機会を確立するためには明確な貿易ルールが必要であり、政策の一貫性と監査の整合性は、多数の基準やラベル表示スキームの遵守コストを削減するために重要であると強調した。ブロックチェーンや物理マーカー、デジタルマーカーなどのイノベーションや先進的な技術は、現在および将来のリスクを特定し対処するための潜在的なソリューションを提供するものとして認識された。しかしながら、バリューチェーンに沿った情報交換のための共通言語の利用可能性と相互運用性は不可欠である。また、循環型ビジネスモデルがスケールアップされた場合、バリューチェーンにおける価値維持のための二次原料・副産物のトレーサビリティは、重要な分野として認識された。

このような観点から、新たに設置された 「循環型経済のための持続可能なバリューチェーンの環境・社会・ガバナンスの透明性とトレーサビリティに関する専門家チーム」 は、以下の分野を担当する。

  • 政策対話・指導

  • 技術的モニタリング、評価及び助言

  • 能力開発とパートナーシップ

  • コミュニケーションと対象者のすそ野を広げる活動

これにより、専門家チームは、UNECEとその傘下の政府間組織である国連CEFACTによって開発された既存の手段の上に構築することができる。規範、標準、政策ガイドラインを含むこの広範な実践的手法は、農業食料、衣料・履物、漁業、運輸などの重要な分野における行動のバックボーンとなりうる。

WTO加盟国が第12回閣僚会議に向けて準備を進めている中、ジュネーブや本国の貿易外交官の間では、サプライチェーンのESGトレーサビリティに関する問題が大きく取り上げられている。貿易と環境の持続可能性に関する構造化された議論に関する閣僚声明は、サプライチェーンと技術的及び規制的要素、並びに ①資源効率の高い循環型経済の実現;②持続可能なサプライチェーンの促進と持続可能性基準及び関連測定法(特に開発途上加盟国のためのもの)の利用から生ずる課題への対処、そして ③環境関連製品及びサービスへのアクセスを容易にし促進すること(新たに出現しつつある低公害技術やその他の気候に優しい技術の世界的な普及促進を含む)。という目的に言及している。

循環経済における持続可能なバリューチェーンの環境・社会・ガバナンスのトレーサビリティに関する専門家チームのメンバーになるには、https://unece.org/trade/uncefact/ToSTraceabilityによりUNECE事務局に連絡してください。

<<補足>>

専門家チームについて

持続可能な漁業に関する専門家チーム(ToS:Team of Specialists)は、漁業部門のサプライチェーン全体にわたるデータ交換のための基準の開発と実施を支援するために、欧州経済委員会(UNECE)執行委員会が、2010年3月31日の第35回会合で承認した「UNECE内の専門家チームの設立および機能に関するガイドライン」(ECE/EX/2/Rev.1)に基づき設置されている。

専門家チームの中心的な機能は、親機関によって割り当てられた任務に応じて、助言的若しくは運営的な性格のものであってもよく、その二つの組み合わせでもよい。

専門家チームメンバーは、政府機関、国際機関、市民社会、ビジネスコミュニティ、学術・研究機関から地理的バランスも考慮し選ばれる。

今回、この持続可能な漁業に関する専門家チームは、初期の作業計画が成功裏に完了したことで、「より責任ある消費と生産パターン」(SDG12)と循環型経済への移行のため優先分野である環境・社会・ガバナンスのトレーサビリティに範囲を拡大された。

国連CEFACTの農業およびアグリフードに関するeビジネス標準に基づく漁業、衣服・履物、廃棄物の越境移動、衛生または植物検疫の管理下にある製品の取引、絶滅のおそれのある野生動植物(CITES)の取引についても、「持続可能なバリューチェーンのためのESGトレーサビリティ」アプローチ及び標準の開発に統合することにより、この目的を達成する。

背景・経緯(ECE_TRADE_C_CEFACT_2021_23E_Rev1-ToR-ToSSVCより)

消費と生産は世界経済を動かしているだけでなく、天然資源の持続不可能な利用を通じて地球の健康にも大きな影響を与えている。国連環境計画(UNEP)は、現在の消費と生産のパターンが続けば、地球は2050年までに毎年1830億トンの物質を必要とするだろうと報告している。これは現在の3倍の量であり、維持することは不可能です。毎年、4.8から1270万トンのプラスチックが海洋に投棄され、4000万トンを超える電子廃棄物が発生し(毎年4から5%増加) 、生態系、生活、健康に深刻な被害をもたらしている。そして、毎年生産される食料の1/3が廃棄されているにもかかわらず、食料安全保障に対する懸念が高まっている。

業界のバリューチェーンをより持続的に管理する能力を高めるためには、消費者と企業の双方がまずこれらのリスクの性質と重大さを認識しなければならない。それ故、環境、社会、ガバナンス(ESG)のトレーサビリティとバリューチェーンの透明性を向上させることが優先課題となっている。標準化された方法で情報を提示することは、共通の理解、アクセス可能性、明確性及び比較をサポートし、信頼できるコミュニケーションを促進する。

UNECEは、SDGs12の達成におけるESGトレーサビリティの重要性を認識し、UNECEを通じて既に得られている豊富な専門知識と基準を考慮し、ToSの焦点を「循環型経済における持続可能な消費と生産のESGトレーサビリティ」に拡大した。

対象となる国連CEFACTの取組み状況

UNECEは、国連CEFACTを通じて、生産の持続可能性、環境に配慮した資源の利用、およびサプライチェーンに沿った労働基準を含む社会基準へのコンプライアンスに直接関連する一連の標準と手順を提供している。

例えば、国連CEFACTは国連漁業言語ユニバーサル交換標準(UN/FLUX)を開発した。この標準は、漁業に関するすべての欧州連合の報告に必須である。これにより、各国政府及び地域漁業管理機関(RFMO)は、漁船から、船舶の識別及び位置、漁獲区域、漁獲時間、漁具及び労働条件に関するジャスト・イン・タイム情報を受け取ることができる。この情報は、持続可能な漁獲割当量を設定し、違法・無規制・無報告(IUU)漁業と闘うための統計を作成する上で、極めて重要である。国連FLUXデータは、国連CEFACTトレーサビリティ標準を使用してサプライチェーンに沿ってさらに伝達され、海洋と生物資源の未来を守る認証スキームをサポートしている。

絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)は、野生生物の違法取引と闘い、絶滅のおそれのある種の取引の持続可能性を強化するため、エンド・ツー・エンドの電子的トレーサビリティ及び管理システムの導入を目指している。CITES締約国会議は、関連する国連CEFACTのeビジネスおよびトレーサビリティの基準に基づいてシステムを実施することを締約国に明示的に勧告する。UNECEは、アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)と共同で、最近作業部会を設置した。そこでは、関心を有する経営当局が試験的実施に関する経験を交換し、CITESの貿易取引を追跡し、管理するための新たなアプローチについて議論することができる。衣料および履物業界では、原産地のトレーサビリティと人権の遵守において、環境、健康、安全基準が市場の原動力となっている。バリューチェーン全体の可視性と企業の主張に対する説明責任は、消費者と企業にとって容易な情報に基づく選択肢を提供するための要件である。UNECEプロジェクト「衣服・履物分野における持続可能なバリューチェーンの透明性とトレーサビリティの向上」は、国際貿易センター(ITC)と共同で実施され、欧州連合(EU)の資金援助を受けて、政策提言、実施ガイドライン、情報交換基準を策定し、業界の公約を集め、好事例と教訓の交換を促進する行動を呼びかけた。

UNECE ESGトレーサビリティ標準は、業界関係者に対し、製品、プロセスおよび施設の持続可能性パフォーマンスに関するデータを交換するための、統一され標準化されたアプローチを提供する。規制やコンプライアンスに関する情報交換のために広く適用されている国連CEFACT eビジネス標準をトレーサビリティ・システムにさらに統合することで、政府、業界、消費者は貿易取引の持続可能性を評価し、意識的な選択をすることができるようになる。

 

第1回セッション議事概要(ToS-TSVCCE/2021/INF.1より)

https://unece.org/sites/default/files/2021-11/ToS-TSVCCE_INF01_Agenda.pdf

2021年11月10日(水)にオンラインで開催された。主な内容は以下の通り。

  • 役員の選任

  • トレーサビリティを通じてバリューチェーンにおける環境・社会・ガバナンス (ESG) パフォーマンスを向上させるためのアプローチと展望。

  • 循環経済における持続可能なバリューチェーンのESGトレーサビリティに関する専門家チームの作業計画 (TSVCCE) に関する議論。

目的と活動概要(ECE/TRADE/C/CEFACT/2021/23/Rev .1より)

https://unece.org/sites/default/files/2021-04/ECE_TRADE_C_CEFACT_2021_23E_Rev1-ToR-ToSSVC.pdf

ToSの目的は、国際的なバリューチェーンに沿ったデータと情報交換のための環境・社会・ガバナンス(ESG)のトレーサビリティ・アプローチとシステムを通じて、持続可能な生産と消費のためのより良い情報に基づいた意思決定に貢献することである。この目的を達成するために、ToSは次のことを行う。

①      国際貿易における持続可能性と循環性に関する情報交換のためのESGトレーサビリティのための政策、基準、ツールを推進する。

②      持続可能で循環型の生産・消費パターンを進展させるために、グローバル・バリューチェーンにおける情報交換のESGトレーサビリティに関連する国連CEFACT基準の更新を提案する。

③      持続可能な生産と消費のためのESGトレーサビリティに関するベストプラクティスを開発・共有し、それを支援する教材、ガイド、キャパシティ・ビルディング活動を開発する。

④      ESGトレーサビリティ・アプローチとシステムの導入に関する経験と教訓を共有するためのプラットフォームをステークホルダーに提供する。

 

作業計画(ECE/TRADE/C/CEFACT/2021/23/Rev .1より)

 作業計画(PoW)は、次の作業領域 (WA) を中心に構成される。

  • WA 1:政策対話と指導

  • WA 2:技術的モニタリング、評価および助言

  • WA 3:キャパシティ・ビルディングとパートナーシップ

  • WA 4:コミュニケーションとアウトリーチ

WA 1:政策対話と指導

この作業領域には、政策レベルでの基準の導入と実施に対する支援が含まれ、世界規模での政策立案者との積極的な関与も含まれる。この作業領域のアクティビティには、次のものがある。

  • マルチステークホルダー政策対話プラットフォームへの主要アクターの参加と関与を拡大することにより、政策対話を強化する。

  • 国際機関が主催するような関連する地域的及び国際的な政策会議、条約及びフォーラムに貢献する。これには、CITES、欧州委員会、FAO、ILO、ITC、OECD、国連貿易開発会議(UNCTAD)、UNDP、UNEP、国連グローバル・コンパクト、国連気候変動枠組条約 (UNFCCC) 、その他の主要業界関係者が含まれる。

  • 労働と人権、環境の持続可能性、責任ある倫理的な企業行動、循環型経済に関するESGのトレーサビリティとパフォーマンスの透明性を通じて、持続可能なバリューチェーンを推進するために、国、地域、国際的な政策と規制の枠組みを強化する研究論文や政策ブリーフを作成する。

WA 2:技術的モニタリング、評価および助言

この作業領域は、技術レベルでのESGトレーサビリティ・アプローチとシステムの開発と導入を促進し、サポートする。この作業領域のアクティビティには、次のものがある。

  • 責任ある消費と生産のためのESGトレーサビリティ標準の開発と実施のニーズを特定する。

  • 業界の意思決定者を対象とした実用的で使いやすいツールとガイダンスを開発し、技術的な実装事項に関する優れたプラクティスと経験を共有。

  • ESGトレーサビリティ標準(規制、財務、IT要件など)の導入に必要な一般情報の説明。

  • エキスパートグループを通じて、実装要件に関するテクニカルサポートを提供する。

ブロックチェーン技術、モノのインターネット (IoT) 、人工知能 (AI) などのイノベーションと先進技術は、持続可能性のためのESGトレーサビリティをサポートし、移行を加速し、バリューチェーンの関係者間のつながりを促進する上で重要な役割を果たす。テクノロジー・ベースのソリューションは、データの関連性と正確性に基づいて、ESGトレーサビリティ・システムで使用するための質の高い信頼できる情報の交換を保証する。

WA 3:キャパシティ・ビルディングとパートナーシップ

パートナーシップを求めることにより、この作業分野はESGトレーサビリティ・アプローチと標準の推進と実施のための強固な基盤を確立し、持続可能な貿易に取り組む。また、責任ある消費と生産に関するSDG 12の下で関連する次の目標の実施を支援する。働きがいと経済成長に関するSDG 8、気候変動に関するSDG 13、海・海洋資源の保全と持続可能な利用に関するSDG 14、陸上生態系の保護、回復及び持続可能な利用の促進、持続可能に管理された森林、砂漠化の防止、土地劣化の停止及び回復、並びに生物多様性の損失の停止に関するSDG 15、パートナーシップに関するSDG 17。

ESGトレーサビリティ・アプローチと標準を採用し実施するための知識も財政的手段も持ち合わせていない、特に移行経済国と開発途上経済国の地域社会、小規模な関係者、小規模自作農家に対して、特別な注意、助言、支援を行う。

コラボレーションはすでに確立されており、さらに発展させる必要がある。次のエンティティと重点分野がある。

  • バーゼル条約 (事前のインフォームド・コンセント手続及び関連する移動のトレーサビリティを支援するための通知の電子的交換に関する条約)

  • ワシントン条約 (絶滅のおそれのある種の取引のエンド・ツー・エンドのトレーサビリティのための電子的許可の国境を越えた交換に関する条約)

  • 海洋漁業総局 (DG MARE) 及び国際協力開発総局 (DG DEVCO) に代表される欧州連合

  • FAOと世界保健機関 (保健関連問題とCODEX 2)

  • サプライチェーンにおける支店組織(例国際持続可能なシーフード財団)と認証組織(例:FAIRTRADE、Marine Stewardship Council)

  • ILOベター・ワーク・プログラム

  • ITC持続可能な貿易プログラム

  • 世界税関機構

  • 世界貿易機関の基準・貿易開発ファシリティおよび国際植物保護条約 (電子植物検疫交換の実施を支援するため)

WA 4:コミュニケーションとアウトリーチ

この作業領域のアクティビティは次のとおり。

  • 責任ある消費と生産のためのESGトレーサビリティに関するハンドブックと導入ガイドの普及。

  • ポリシー・ブリーフ、プレス・ブリーフ、チラシを使用して、ToSの作業に関する情報を作成する。

  • ToSのWebサイトを整備し、コンテンツの設計・維持に貢献するとともに、必要に応じてソーシャルメディアや動画を活用する。

  • チームの仕事を促進するために関連する会議、フォーラム、イベントに参加し、貢献する。

  • 追跡調査やリスク管理など、持続可能な貿易のための他のアプローチや基準の利点を強調するためのアウトリーチ活動を実施する。

  • 持続可能な貿易に関する他の基準設定・認証機関と協力する。

指針

ToSの作業とこの作業プログラムの実施は、以下の原則に基づいている。

  • 専門家のアドバイス

  • あらゆるレベルの関与または貢献を尊重し、相互に受け入れること

  • ToSの作業と参照条件および関連する国連規則および規則との完全な整合

  • 特に開発途上国及び移行経済国において、小規模な主体及び脆弱なグループを支援する開発協力

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