【日本学術会議 任命拒否問題】 誰がために研究する

 日本学術会議に関して様々な意見がネット上を飛び交っています。新聞記事に書く場合、学術会議とは何かを説明してからでないと、本題に入れない。そんな知名度の低い存在でした。

 保守系とされる論者が問題にしているのは、2017年に発表された軍事的安全保障研究に関する声明ですが、声明が出されたときよりも関心が高いというのは、考えてみれば不思議です。

 ネットで起きているのは、エコーチェンバー効果と呼ばれる現象です。この問題を研究した論文を引用します。

「ユーザーがイデオロギー的に整合した仲間とのみ対話することを好むオンラインソーシャルネットワークのエコーチェンバーは、誤った情報の拡散を促進し、政治的言説の急進化に寄与すると考えられています」

 今回、残念なのは、ネット上だけでなく、新聞やテレビなどのマスメディアにも、そうした影響を受けた言説が出され、仲間内の外側まで影響が広がっていることです。フェイクニュースは、マスメディアの信頼を損ないます。

 一方、ネット上ではファクトチェックが行われています。エコーチェンバーの内部の人には届きにくいでしょうが、フェイクニュースを食い止める力があると信じます。

 フェイクニュースではありませんが、ネット上の議論で気になることがあります。
 それは「科学者は国家のために働け」という論調です。政治家は世界のためではなく、国家のために働くのでしょう。しかし、科学者はそれでは困ります。

 万有引力の法則で有名なニュートンは「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それは巨人の肩の上に乗っていたからです。」と手紙に書いたそうです。科学は先人たちの成果の積み重ねの上に新たな成果を加えることで進歩していくのです。科学の成果は国家のためではなく、人類のために使われるべきものです。

 国家のための研究成果が第一次世界大戦の毒ガスであり、第二次世界大戦の原爆です。

 そういうことを踏まえて議論してほしいと思います。それを教養と呼びます。教養は学歴や肩書には関係ありません。

2020年10月16日 理事 井上能行

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