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強がるのが好きなアメリカ人

今日の会見でクオモ氏は、みんなは”How are you?"と聞かれたら、必ず”I'm fine!"”Good!"と答えるけれど、このパンデミックの危機で本当にオッケーな人間なんてどこにもいないはずだと言った。

だから、本当に落ち込んだり弱っている自分にはもっと正直になって、メンタルの危険を感じたら、いつでもカウンセリングのホットラインに電話するべきだ、と主張した。それは決して恥ずべきことではないと。

これはどういう事か、長年アメリカに住んでいると良く分かる。
ここでは、例えば芸術家タイプとか、詩人とか小説家タイプなんかの暗めの自分を普段から素で堂々と開示している人たちでもない限り、多くのアメリカ人は、”How are you?"と聞かれたら、身体的に調子が悪い時以外は、通常は必ず”Good!"とか”I am OK!"とある程度元気な表情で言う。

もしも何か大変な問題を抱えていたとしてもせいぜい”So So."(まあまあかな。)と手振りと無理やり作った笑顔で軽めに表現するか、最悪でも”Not so Good.."と少し冗談みたいな感じで半分笑顔で言ったりして、それ以上突っ込まれないように話題を変えたりする。

要するに”メンタル的に調子が悪い”、と言うことを絶対に悟られないように振る舞うのがある意味スタンダードにもなってしまっているところがあるからだ。

そして、精神的な問題に関して、人から”Are you ok?”としつこく聞かれたりする事を、特に恥ずかしいと感じるみたいなプライドがあるようだ。

これはNYだけなのかどうかは分からないけど、私が知る限り、多くのニューヨーカーは多かれ少なかれそういうところがある気がする。
職業的ステイタスが高い人々の世界では特にこういった傾向が強いようにも思う。

元々はフロンテイア精神溢れるヨーロッパからの移民が作ったとも言えるこの国には、やはり、自己表現してなんぼ、口で相手を負かしてなんぼ、強いアメリカ人でいてこそなんぼ、みたいな傾向が脈々と流れていて、とにかく強くある事=良い事、高いステイタス、みたいな価値観があまりに浸透しすぎているのかもしれない。

だから、その反動と言ってはなんだけど、こんな風に外で”I am good!"と言って強がっている高学歴な人たちなんかが、実は何年もカウンセリングを受けていたりする事も珍しくはない。そして、みんな、それに対しても、暗黙の了解的に、まあそんなもんでしょ、と軽く思っていたりする。

カウンセリングはアメリカほど一般的ではないにせよ、最近の日本もかなり欧米化していて、表面的には元気で当たり前、元気が一番、みたいな傾向は少なからずある気もする。

そんな昨今、私はアメリカ人でもこういう価値観の人もいるんだなあって思ってすごく嬉しかったのは、スーザン・ケインという人が書いたこの本の存在を何年か前に知った時だ。

プリンストン、ハーバード大学などの一流エリートが学ぶロースクールを卒業したこのチャーミングな女性弁護士は、一流のアイビーリーグで勉強する中で、幼少期から感じて来た自身の内向的性格傾向に対する違和感をつぶさに観察し、外交的、活動的でアウトゴーイングな振る舞いを好む典型的なアメリカ人エリート達とは違う内向性人間の強みというものを発見し、その思慮深さの中にこそ、本当のリーダーシップが隠されているという真実への気づきを書き綴ったのがこの本だ。

結果、書籍が出版された当時の彼女のTEDでのスピーチの影響力もあったせいか、この本はニューヨークタイムズでのベストセラーにまでなり、結果として、世界40カ国の言語にまで翻訳されている。

そんなわけで、元気な振りをする事=本当に強い、って言うことにはならないという最も基本的なロジックに、一人でも多くの人が気づいて、元気であらねばならない、というある種の強迫観念から解放される事、本当の意味で素直になれる事によって発生するべき癒しが、今のこの国には本当に必要とされているのかもしれない。




 

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