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ちょっと休憩 「映画むかしばなし・錦ちゃん、ひばりさん、橋蔵さん」

これは大昔
ジャスミン(←私よ)が 小学校低学年の頃だから
70年近く前のお話。

私が住んでいたのは 東京の下町で
駅の周辺には 三つくらい映画館があった。

〇〇東映とか 松竹△△座とか・・・。
上映中の映画の 大きな絵看板や
人気俳優さんの写真なんかも ショーケースに飾ってあって
映画館の前には
いつも人々が そぞろ集まっていた。

そして映画会社は
近所の映画館の プログラムが変わるたび
周辺のお風呂屋さんなんかに ポスターを貼らせて貰い
そのお礼というか代償に 入場券を何枚か置いて行く。
お風呂屋さんは それをお客さんに配っていた。

私たちチビッ子はタダだから
よく子供同士で
映画を観に行くというより 映画館に遊びに行った。

一番多く行ったのは
駅裏の 〇〇東映で チャンバラばっかり。
その頃の東映のスターは
中村錦ちゃんや、ひばりさんや、大川橋蔵さんで

ジャスミンは 男装の美空ひばりさんを見て
てっきり男の人だと思い 
素敵な人だなあ、なんて 憧れたりしたけど

やがて少々、色気づいて
本格的に 中村錦ちゃんが好きになった。
私のお母さんは
橋蔵さんが綺麗だわ、と言っていた。

映画は 2本立てや、3本立てのときもあって
フィルムは 近隣の映画館と使いまわしだから
1本終わると 次のフィルムが到着するまで休憩。

子供たちは うろうろ 
映画館を出たり、入ったり・・・
それでも入り口のおばさんは 何にも云わない。

ときどき  映画館の裏口から
おじさんが自転車で
フィルムを交換しに行くのを見つけて
「おじさん、おじさん」と 取り囲んで
フィルムの入った缶を 触らせてもらった。

後年 読んだ、日本映画の歴史の本によると
この昭和29年頃は 「東映」が
それまでトップに君臨していた「松竹」を抜いて
興行的に一位になった年だそうで 
まさに 時代劇の黄金期であり

特に『真田十勇士』や『猿飛佐助』など
一本の上映時間が 三十数分ほどの
子供向け時代劇を 三本立て興行にし
お正月の子供の観客を 総ざらいしたとある。

そうそう・・
立ち見のお客さんを どんどん入れちゃうので
いつも扉が閉まらないで 廊下から光が差し込んでいた。

そんな感じでジャスミンも  3年生くらいまで
この〇〇東映には お世話になりました。

それにしても あの頃は
よく途中でフィルムが切れた。
不思議に クライマックスで ぷっつん、と切れることが多くて

どっかのおじさんが
「おーい、犯人が逃げちまうよ! 」なんて
大きな声を出したりするけど
本気で怒り出す人なんていない。

おじさんたちは みんな煙草を吸っていて
薄暗がりの中、青い煙がもうもうと漂っていた。

なんにしても のんびりした話だけど
映画館とはそういうものだと みんな楽しんでいた。

上映中、真っ暗な中で振りむくと
後ろの壁の小さな窓から
ピカーッと 光の筋が突き出てる。

映写室ということは あの頃だって知っていたけど
でもなんだか 今、あの中で
なにか不思議なことを やっているという感じがした。


おしまい

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