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デンマークのオンライン・ドクター

文責:松永和成、安岡美佳
2019年6月2日
デンマーク発: ハピネステクノロジ vol.4

はじめに オンライン診療と官民連携

多くの先進諸国同様、高齢社会を迎えているデンマークでは、医療の質を担保しつつ最適な医療サービスを国民に届ける一つの方法として、オンライン診察の導入の議論がここ数年見れらている。
オンライン診察は医療費削減の一手段として位置付けられ、2018年1月に発表された医療戦略において迅速な導入が求められている項目の一つだ。オンライン診察はデンマークの各地域で進展がみられるが、例えばコペンハーゲン郊外に位置するホルベック病院はイノベーション局の2019年度優秀デジタル賞に選出されている[1] など、特に評価が高い。ホルベック病院ではすでに200を超える外来患者がオンライン診療にかかり、4月には450を超える患者がオンライン診察にかかる予定であるという[2]。
対面式の診察に比べたオンライン診察の利点として、患者の病院まで訪問する移動の負担及び待ち時間を少なくし、また病院側には人材リソースの有効活用ができるということがあげられる。その利点を生かし、主に対面式の治療でなくとも十分な質のケアを与えられると判断された領域に限り、オンライン診察が導入されている。実際にデンマークにてオンライン診察が行われている例として、例えば下記の動きがみられる [3]。

・オーフス大学病院における妊婦を対象とした家庭モニタリング
 外来患者の数は減少し、病院スタッフのモニタリング時間は75%削減された。妊婦の病院での滞在日数は44%削減された。
・オーフス大学病院における早産の赤ちゃんを持つ家庭に対する家庭サポートの提供
 診察によって危険性がないと判断された場合は、病院で入院する代わりに、家庭でサポートを受けられる
・南デンマーク地域における、メンタルヘルスに対するオンライン診察クリニックの設立
・北ユトランド地域におけるオンライン診察の導入実験[4]

オンライン診察の仕組みは極めてシンプルだ。オンライン診療では診療用に開発されたアプリをスマートフォンやタブレット、PC機器などでダウンロードし、そのアプリを通じて医師と患者の間でコミュニケーションが行われる。シンプルであるため、特別に細かい動作やテクノロジーの知識を必要としないという点で、高齢者にも使いやすい点がよい。
このような使い勝手の良いサービスを可能にしているのが、民間企業との提携だ。デジタル賞に選出されたホルベック病院の試みは、民間企業である「ViewCare」との連携で進められている。また北ユトランドの例では、民間企業であるHejdoktor.dk(こんにちは、ドクター)と協同して開発されたオンライン医療アプリ「My VideoLæge(私のビデオドクター)」を利用して、オンライン診察の推奨をしている[5]。
このように、官民が協力してテクノロジーをサービスに取り組む動きがオンライン診察の領域で行われているのである。

*¹ イノベーション局は各年のデジタル技術を活用した公共部門の取組のなかで、特に優れた取組に対して賞を与えている。
*² View careはオンライン診察など医療アプリを開発、提供する民間会社。以下がHP:http://www.viewcare.com/index.php/home

民の参入は既存の医療サービスを補填するものか?

福祉国家として名高いデンマークは、無料で提供される公共の医療サービスが一つの特色だ。一次診察は公的医療サービスであるGP(国民一人一人に割振れられた公的機関が提供するかかりつけ医)にて無料で行われる。そのため、GPで対応できないケアや緊急の場合などは一部民間の病院や海外で治療を行うということが一般的である。
一方、北ユトランド自治体と協力体制をとるHejdoktor.dkでは登録された民間の医者が有料でオンライン診察を行うサービスも提供している。Hejdoktor.dkは「Hello Doctor」と呼ばれるアプリを提供しており、本アプリを登録することで患者がサービスを利用できる仕組みになっている。

図1:「Hello Doctor」のアプリ(HPより抜粋)患者はアプリをスマートフォン、タブレット、PCにダウンロードできる。

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図2:左図上から医者とのオンライン通話、メールでのコンタクト、処方箋の履歴。右図のようにオンライン診察時間をアプリ上で予約することも可能。

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1か月75クローナ*³で定期サービスの登録ができ、また未登録者は1回250クローナでオンライン診察を受けられる。平日は16時から21時、土日に9時から14時半まで診察を受け付けている。診察は医師免許を有する民間ドクターが行っている。
民間ドクターへお金を払ってまで相談をすることの理由の一つにGPが時間外の時のサービス提供がある。デンマークのGPサービスは主に平日8時~16時であることが一般的であり、サービス時間をGPのサービス時間外においていることからも分かるように、GPサービスを利用できない時間にも医療サービスを手軽に受けたい人たち向けのサービスとなっている。
また、本サービスを利用するものの声として、GPの利用の際の待機時間やGPに会うまでの移動時間の解消もある。デンマーク版のインタビュー記事には、GPに比べて待機時間が短く、時間の節約ができるのが大変便利だという声があげられていた[6]。

*³ 1デンマーククローナ≒16.78円(2019年4月3日)75クローナは約1258円

オンライン診察の今後の考察

高齢者社会を迎えるデンマークは医療の効率化のための一手として、オンライン診察を官民連携で進めている。しかしながら、まだオンライン診察の領域をは、妊婦のモニタリングやメンタルヘルスなど一部に限定しており、民間オンライン診察サービスもはじまったばかりである。さらに、例えば肌アトピーを抱える患者は適切な処方を受けるためにオンラインではなく対面式でみてもらいたいという要望がある [7]ように、ケースバイケースでオンラインと対面を使い分けるということが、今のところは現実的だということであろう。

国のシステムにITツールを積極的に取り入れてきたデンマーク*⁴は、IT技術を国のシステムに取り組むことについて高い評価を得ている。ヘルスシステムもデジタル推進活動の異なる日本とは土壌が違うが、デンマークの取組はオンライン診察の有り様を検討するうえで大いに役立つのではないか。

紹介した民間ドクターで診察を受ける「Hello Doctor」を一例に、今では自分の空いた時間に自宅から医療サービスを受けられるようになっている。今まで時間や場所の制約で診療サービスを利用できなかった人たちをはじめとした多くの人が医療サービスを利用しやすくなることで、人々の健康を守り、幸せをつくるサービスとなっている。
今度ともヘルス領域におけるデンマークの取組を追い、都度紹介していきたい。

*⁴ デンマークのIT活用の結果として、例えば世界電子政府ランキングでは1位となっている。参照サイト また、ヘルスの領域でも病院やGPサービスのIT活用にて世界1であるといわれている。参照サイト

参照

[1]Digitaliseringsprisen ”Vinderne af Digitaliseingsprisen 2019” : LINK
[2]Region Sjælland ”Virtuelle konsultationer er en vinder”:LINK
[3] Healthcare Denmark (2018) Denmark -a telehealth nation White paper
[4]Brønderslev Avis ”Public-private co-operation alleviates medical shortages” (2019.03.28):LINK
[5]ibid
[6]B.T. ”Private læger er i vækst: 'Det er alle pengene værd'” (2018.11.19):LINK
[7]Limfjord Update ” Nu kan du videokonsultere en læge efter lukketid” (2018.6.19):LINK


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