北欧投資家の投資傾向
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北欧投資家の投資傾向

2021年8月14日
執筆:内田真生
編集:北欧研究所

2021年6月2日、北欧のスタートアップコミュニティに向けた非営利オープンソースサイト「ノルディック・スタートアップ・ニュース(Nordic Startup News)[1]」は、欧州のベンチャーキャピタル(Venture capital、 以下VC)やプライベートエクイティ(Private Equity、以下PE)ファンドの動向に関連する2つのレポートについてまとめた。欧州のVCやPEファンドはコロナ渦でも着実に成長しており、北欧ではエネルギーと持続可能性関連に焦点を当てているとしている。

本稿では、北欧のベンチャーエコシステムとインパクト投資の概観を把握することを目的として、当該ニュースの概要と、分析の元となったレポートについて紹介する。

ニュース概要

ノルディック・スタートアップ・ニュースは、2021年6月2日に「2021年の北欧・バルト諸国の投資は持続可能性に向けた先進的な傾向を示している(原題:NORDIC AND BALTIC INVESTMENTS SHOW PROGRESSIVE TREND TOWARDS SUSTAINABILITY IN 2021)」[2]と題し、欧州のエコシステムについて調査した2021年 欧州キャピタルレポート (The 2021 European Capital Report)[3]と北欧のインパクト投資*について調査したインパクトレポート: 北欧投資家 - 2019年 北欧のインパクト投資家に対する調査と解析(IMPACT REPORT: Nordic Investors - A survey and analysis of impact investing in the Nordics 2019)[4]の2つのレポートを基に、北欧・バルト地域の投資傾向についてまとめている(この2種類のレポートについては、後章「関連レポート」にて説明する)。

*インパクト投資:財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動を指す。従来、投資は「リスク」と「リターン」という2つの軸により価値判断が下されてきた。これに「インパクト」という第3の軸を取り入れた投資、かつ、事業や活動の成果として生じる社会的・環境的な変化や効果を把握し、社会的なリターンと財務的なリターンの双方を両立させることを意図した投資を、インパクト投資と呼ぶ。(GSG国内諮問委員会. 「インパクト投資とは」. https://impactinvestment.jp/impact-investing/about.html (2021.8.9 Retrieved))

当該ニュースによると、北欧・バルト地域には、54のVCファンド、37のPEファンド、9のコーポレートベンチャーキャピタル(Corporate venture capita、以下CVC)ファンドの計100の当該地域を拠点としたファンド(投資家)がある。投資家数の多い国順に並べると、スウェーデン(59ファンド)を筆頭に、デンマーク(27ファンド)、フィンランド(26ファンド)、ノルウェー(19ファンド)となり、続いてリトアニアとエストニアが同数(4ファンド)となっている。これらのファンドのうち、最も影響力のあるVCファンドはノボホールディングス(Novo Holdings)であり、PEファンドはノルディックキャピタル(Nordic Capital)がリードしている。2020年の投資活動数に基づく、最もアクティブな投資家はバタフライ・ベンチャーズ(Butterfly Ventures)で、29の投資を行った。また、過去24ヶ月間に、12の新ファンドが設立された。運用資産に基づく最も強力な新規参入者は、Röko(スウェーデン)、NordicNinja VC、(フィンランド)で、CVCのHelen Ventures(フィンランド)とDNV GL Ventures(ノルウェー)がエコシステムに影響を与えている。

2021年の欧州全体のファンドの人気投資先は、ライフサイエンスと健康で、IT、メディアと通信、全B2Bとインダストリー4.0が続いている。欧州全体で過去24ヶ月間に、インダストリー4.0、ライフサイエンス、ヘルステックへの初期投資に重点を置いた64の新ファンドが設立された。これに対し、北欧・バルト地域では、ノルウェー、デンマーク、リトアニアが、欧州の他の地域に比べ、エネルギーと持続可能性への投資に重点を置いている[3]。

北欧のインパクト投資に関する2019年の調査では[4]、「エネルギー効率と再生可能エネルギー」が、北欧の投資家の間で最も注目されているインパクトテーマであった。回答した投資家の92%が、インパクト投資が共通の社会的課題を解決するために効果的な方法であると認識していた。また、同投資家の83%が、インパクト投資が市場もしくはそれ以上の収益で提供されることを期待していた。

北欧各国の投資傾向

本稿は、上記『インパクトレポート: 北欧投資家 - 2019年 北欧のインパクト投資家に対する調査と解析』[4]と、翌年に発行された同調査レポート『インパクトレポート: 北欧投資家 - 2020年 北欧のインパクト投資家に対する調査と解析(IMPACT REPORT: Nordic Investors - A survey and analysis of impact investing in the Nordics 2020)[5]の北欧各国の動向に注目した。

2015年9月に193ヵ国が持続可能な開発のための2030年国連アジェンダと17の持続可能な開発目標(以下SDGs)に署名、採択した。国際連合は、目標を実行するための世界的なギャップは年間3兆~5兆米ドルと推定しており、「より良きビジネス、より良き世界(The Better Business Better World)」によれば、SDGsソリューションは商業的機会において、12兆米ドル規模の市場を形成し、3億8000万人規模の雇用を創出する可能性があると言われている。この持続可能なソリューションへの投資をどのように加速できるかということが課題となっている[4]。

2019年の調査[4]では、北欧4ヵ国のデンマーク(41%)、スウェーデン(29%)、フィンランド(20%)、ノルウェー(10%)から84名の投資家が参加した。北欧の投資家がインパクトを達成するために注目しているSDGsは、ゴール3(すべての人に健康と福祉を)、ゴール7(エネルギーをみんなに、そしてクリーンに)、ゴール9(産業と技術革新の基盤をつくろう)、およびゴール11(住み続けられるまちづくりを)であった。
北欧の社会やビジネス環境でSDGsが広く実行されているにも関わらず、自身のインパクト投資戦略を策定するために、SDGsを積極的に使っている投資家はほぼいない。その理由として、新たな資金調達分野であること、未熟な市場であり、インパクト投資が主流となる前に克服すべき課題と障害があるとしている。その他、回答者の55%が、ポートフォリオの80%以上をテクノロジー関連のソリューションに当てていると回答した。

この調査ではSDGsに加え、経済的利益を含めた回答者(投資家)の注目テーマについても確認している。北欧の民間投資家は、多くが現地の市場に資本を集中しており、再生可能エネルギー(回答者の76%)、ヘルスケア(同47%)、万人のための教育(同46%)に力を入れている。この国別の内訳は図1となっており、北欧4ヵ国では、全体的に再生可能エネルギーやエネルギー効率の比率が高いが、フィンランドではヘルスケアが、ノルウェーでは農業が特に注目を集めている。

国別インパクトテーマ

図1. 国別インパクトテーマ
( IMPACT X. IMPACT REPORT: NORDIC INVESTORS. A survey and analysis of impact investing in the Nordics 2019[4], pp.14)

2020年の調査[5]では調査対象を拡大し、デンマーク(64%)、スウェーデン(21%)、フィンランド(7%)、ノルウェー(3%)、エストニア(3%)、リトアニア(1%)から、128名の投資家が参加した。この調査では、回答した投資家の88%が、インパクト投資が彼らにとって非常に重要であると述べており、地理、要因、業界、ソリューションの多様化が進んでいた。また、同投資家の67%がインパクト投資の増加を期待していると回答している。
インパクトを達成するために注目しているSDGsは前年と異なり、ゴール13(気候変動に具体的な対策を)、ゴール7(エネルギーをみんなに、そしてクリーンに)、ゴール3(すべてのい人に健康と福祉を)、ゴール12(つくる責任、つかう責任)であった。回答者の注目テーマは、気候変動、農業と食物、エネルギーであった。

関連レポート

ノルディック・スタートアップ・ニュースによる分析の対象は、下記の2レポートである。

2021年 欧州キャピタルレポート (The 2021 European Capital Report)[3]
オーストリアの投資会社i5invest[6]とウィーン経済大学の独立組織であるウィーン経済大学起業家センター(WU Entrepreneurship Center)[7]による、欧州のベンチャーエコシステムについて調査したレポート。欧州全土の意欲的なスタートアップチームと投資家を繋ぐことを目指し、欧州の全てのVCおよびPEについて2015年から調査を行っている。レポートは常時更新されており、現在はversion 1.1版が公開されている。

インパクトレポート: 北欧投資家 - 2019年 北欧のインパクト投資家に対する調査と解析(IMPACT REPORT: Nordic Investors - A survey and analysis of impact investing in the Nordics 2019)[4]
インパクトビジネスと投資のための北欧のオンラインプラットフォームIMPACT Xにより、デンマークの特定非営利活動法人NPOであるThe One Initiative[8]が、北欧のインパクト投資について分析したレポート。投資家視点から見て最も有望なインパクトソリューションは何であるのかを理解するため、必要なデータ、全体像、洞察を得ることを目的とした調査を行っている。2019年に初めての調査が行われ、自社ネットワークとソーシャルメディアによるオンライン調査に、北欧全域から84名の投資家が参加した。
2020年、第2回目のレポート作成が行われ、インパクトレポート: 北欧投資家 - 2020年 北欧のインパクト投資家に対する調査と解析(IMPACT REPORT: Nordic Investors - A survey and analysis of impact investing in the Nordics 2020)[5]として公開されている。

まとめ

北欧全体のVC、PEの投資家は、地元企業に対する投資を好む傾向にあると共に、気候変動やエネルギーなど、環境に関連した分野に注力している傾向が見られる。彼らは、インパクト投資戦略においてSDGsを積極的に用いていないが、2030年の目標達成に向けて各国が注力している分野であり、投資家の利益と社会への貢献のバランスが比較的とれている市場であると言えるだろう。

2019年と2020年を比較すると、健康や食物産業が注目されるようになった。レポート『インパクトレポート: 北欧投資家 - 2020年 北欧のインパクト投資家に対する調査と解析』内で指摘されているように、投資先の多様化が進んでいる結果と言えるだろう。

これらの調査の継続した観察により、北欧のSDGsへの対応と、日本からのスタートアップまた既存企業の欧州進出に有益な情報が得られるものと考えられる。

参考文献

[1] Nordic Startup News. https://nordicstartupnews.com/ (2021.8.8 Retrieved)
[2] Nordic Startup News. NORDIC AND BALTIC INVESTMENTS SHOW PROGRESSIVE TREND TOWARDS SUSTAINABILITY IN 2021. (JUNE 2, 2021)
https://nordicstartupnews.com/nordic-and-baltic-investments-show-progressive-trend-towards-sustainability-in-2021/ (2021.8.8 Retrieved)
[3] i5invest, &. WU Entrepreneurship Center. (2021). The 2021 European Capital Report. https://www.europeancapitalmap.com/ (2021.8.8 Retrieved)
[4] IMPACT X. (2019). IMPACT REPORT: NORDIC INVESTORS. A survey and analysis of impact investing in the Nordics 2019.
https://danskebank.com/-/media/danske-bank-com/file-cloud/2019/9/impact-report-nordic-investors-2019.pdf?rev=8c7f70ca80d442d3a1a0ca23b3a8e253&hash=C21B02B5419F20C4FF0290412A853AA1 (2021.8.8 Retrieved)
[5] IMPACT X. (2020). IMPACT REPORT: Nordic Investors - A survey and analysis of impact investing in the Nordics 2020.
https://www.oneinitiative.org/wp-content/uploads/2020/12/Impact-Report_Nordic_Investors-2020_singlepage.pdf (2021.8.9 Retrieved)
[6] i5invest https://i5invest.com/ (2021.8.8 Retrieved)
[7] Wirtschaftsuniversität Wien. Entrepreneurship Center. https://www.wu.ac.at/en/starting-up (2021.8.8 Retrieved)
[8] The One Initiative. https://www.oneinitiative.org/ (2021.8.8 Retrieved)

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