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着物知識その3 「着物の値段の表と裏」

 第三回目は着物の値段について、専門的なものより、商売側の視点からより深い部分を書いていきます。

 USED着物などを含め、いろいろなお店をまわると、同じような着物でもお値段がぜんぜん違うなどの事に気が付くと思います。

 また、どうやってお値段をつけるのか疑問に持つことも多くあると思います。

 ということで、まずは新品の値段から説明していきます。

1 新品の値段について(着物自体)

 一番高い設定なのは「作家物」(ここではブランドも含めます)。作家物はその作家がどれだけ細かいことをしたか、どれだけ手がかかったかなどで値段が変わります。様々なパターンがありますが、a:作家が問屋など代理販売者に希望小売価格に相当する希望を伝え、その値段で販売するパターンと、b:問屋側が作家から仕入れて値段を決めるパターンの2種類が主です。

 この場合、後者のbパターンだと、値段がいくらになるかは最終的に販売を行う末端店舗(呉服屋など)によって値段がごろっと変わります。

 そもそも、bのパターンの場合は1反限りのオーダーメイドではなく、作家側が同じ模様で色違いを100反とか作るわけです。

(これに関しては本加賀でそういうものはありませんが、京加賀ならある程度量産します)。

 そうなると、量産したうちの売れる色だけは高く売り、売れない分は安く売るわけです。

 ということは、最初出回る新作のころは高く売り、その期間が過ぎたら安く出回るわけです。

 これがどういうことか?

 同じ作家のものをある呉服屋は仕立て済みで300万で売り、また別の呉服屋は同じ作家のものを80万で売るというおそろしいことが起きるわけです。

 また、一部の呉服屋や販売者によっては、反物の仕入れがたとえば10万として、有名百貨店などで仕立てて300万なら、うちはちょっと安い250万で売ろうということになるわけです。

※今は時代が違い当時ほど着物が高くないので、どちらかというと今の時代の新品が適正価格だなぁという感じです(とは言え、百貨店などは今でも高いです)。

 こうなると、同じ作家のものを、どこで買ったかでその持ち主の価値観が変わるわけです。

 ということは、たとえば個人がネットで売る場合は、基本的に購入した値段から逆算で考えてしまいます。

 どういうことかというと「私はこれを80万で買ったから、ちょっとシミがあるけど今でも20万の価値があるだろう」とかその着物とほぼ同じ物を「私はこれ30万で買ったから今の時代だから3万でいいかな?」となるわけです。

 そんな販売者によって値段が変わるなんて!と思う方もいるでしょうが、これが事実です。

 そういうことがないように、化粧品などの大手メーカーは「希望小売価格」というものを定めていますが着物業界にそんなものは基本存在しません。

※一時期はメーカー希望価格とか表記してた時代もありましたが、逆にいつの間にか消えてしまいました(この部分はさすがに詳しくありませんが推測する限り、着物業界の場合、希望小売価格をめちゃくちゃ高くして、お客さんにそれより安く売ってお得感を出すために主に使われていたから問題になったんじゃないかと思いますが)。

 一方では80万、もう一方では30万で販売して、どちらも反物の仕入れは3万円とか普通にあってた時代があったわけです。

※特にバブル期はなかなか悪質な販売者も多かったようです。

2 新品の値段について(仕立て代)

 新品の値段設定の中に仕立て代も関わってきます。

 たとえば小紋を仕立てる値段を例にすると、abという呉服屋があり、どちらも同じ仕立て屋を使ってるとします。

 aの呉服屋は仕立て代が5万

 bの呉服屋は仕立て代が3万

というパターンがあります。

 え?同じ仕立て屋なのに?という意見が出てくると思いますが、これは呉服屋が自分達の手間賃まで上乗せしてるかしてないか、上乗せが少ないか多いかという話です。

 また、同じパターンで八掛や胴裏にもちゃんと利益が上乗せしているか、サービスでしてないかによってもガラッと変わります。

 ということはちょっと下に例として計算を出します(こちらもaとbでパターンを分けます)。

 どちらの呉服屋も:反物仕入れ30000+胴裏10000+八掛8000+仕立て代15000=63000が仕入れと仕立て代とします。

 a呉服屋:反物販売600000+胴裏20000+八掛20000+仕立て代50000=690000がお客様への販売値。

 b呉服屋:反物販売100000+胴裏10000(店舗利益はサービス)+八掛8000(店舗利益はサービス)+仕立て代15000(寸法を測った手間賃などはサービス)=133000がお客様への販売値。

ということです。

 嘘だ~と思うかもしれませんが、これが現実です。

3 USED着物の値段基準

 では、上記の1と2を頭に入れてから、現在の主流であるUSED着物(人によってはリサイクル着物と言いますね)の値段に触れていきます。

 1と2で説明したように、同じ着物でも購入した場所などによってとてもとても大きな差がでます。

 このことから、同じ着物があったとしても、メルカリなどで素人の方が販売したときに値段に差が出るのはよくわかりますよね?

 じゃあ、業者はどうやってUSED着物に値段をつけているのかを書いていきます。

a 当時仕入れていた反物の値段と今売れそうな値段を照らし合わせる。

 ずっと昭和もしくは平成初期ぐらいから今まで着物を売ってきた方は、ここで判断する方が多いです。まず、当時の着物のほとんどは今と違ってオーダーメイドであると認識してください。そしてブランドもそうですが、個人が業者に買い取ってもらう場合、オーダーメイドの価値は含みません。あくまで、その物の現在、売れそうな価値でしか計算しません。そのことから、80万で買おうが、当時出回っていた反物での値段が3万ならそこからしか見ません。着物は財産ですと売っていたのは、買わせるための都合のいいキャッチフレーズです。また、生地はくすんだり劣化したり、見た目が大丈夫でも縫ってる糸が弱ってたり、いわば少々古い程度では逆にマイナスでしかないのです。


b 今売れそうな模様か色合いかで値段が変わる。

 たとえ当時高くても、今売れそうな色や模様ではなかったら売る時に安くしますし、買取業者も安く買うでしょう。特に最近はどでかい矢絣とか明治時代風(そういうものを大正ロマンとか言いますが、そういった派手なものは実際大正ロマンの着物ではありません。そのうち詳しく書きます)に感じるものか、上品な気品のあるものが良く売れます。

 ということは、逆にハンパにモダンだったり、色が中途半端にピンクだったりしたら売れないわけです。そういった判断でも値段は変わります。

c アンティークかそうじゃないかで値段が変わる。

 少々古いものはマイナスでしかないとaで書きましたが、逆に戦前の特に明治から大正にかけての着物で、生地も比較的きれいでしっかりしていると売れます。そうなると、その辺りの着物は高めに設定して売ります。ですが、アンティークにも模様の良し悪しがありますので、そこでも変わります。

e 汚れ具合で値段が変わる。

 汚れ次第では着られないものもあります。しかしながらそれが絹、もしくは化繊でも模様が良いと安く単品で売れないこともないですが、大概はまとめ売りしています。

 まとめ売りをするということは、1枚単価にしたら捨て値でしか買うことができません。

f 寸法で値段が変わる

 USED着物の場合、昔のものになりますので、一番多いサイズがだいたい身長145~150cmの方にピッタリのサイズが多いです。なので、これよりサイズが小さいとなると安くなりますし、身長155cm以上の人になると数も少ないのでお値段を高めに設定します。なお、昭和~平成5年までの着物で160cm以上のものというのは本当に少ないです。また、168cmとかになると、もう新品を仕立てるか、着物を仕立て直すしかありませんが、小紋などは仕立て直してもそこまでサイズが大きくなることは稀です。


 着物の値段における判断基準は細かく言えば、もっとありますが、大きく考えるとこの5つだと言えます。

 と簡単に説明してきましたが、着物の値段におけることを書いている方が多いのですが、そのほとんどは「お客様」側の視点のものが圧倒的に多いです。

(まあ、今回のような業者側からの値段の話をしていたら、自分の首を絞めるようなものです)。

 そんなこんなで、今回は業者側(販売者)側からの値段に関する話を書きました。

 これを書く一つの理由に「呉服屋によるぼったくり行為が今でも行われている」ということがありました。

 相談を受けた中には、百貨店ですら69800円で販売している七五三のセットと同じものを40万で買わされたというとんでもないケースが今でも存在します。

そんなことがあるから、着物を着る人がどんどん減っている一つの要因になっていると思うからです。

 お値段の件は結構ネットでも相談を見ます。

 本当に信頼できるお店などを探して、適正な値段で着物を買って、楽しんでください。


■今回のまとめ

1 着物の値段は購入した場所などによって全然違う。だからUSEDの着物の値段も人や店によって変わる。

2 呉服屋のマージンが異常なケースが多い。なので、その購入した時の価値はあてにならない。

3 着物は劣化するもの。特別な価値のものではない。

4 値段を決めるのに基本的な基準は存在しない。すごくざっくり言うと「この着物はこの値段で売れるな」という考え方で値段を決めている。

ということです。

 でもだからといってじゃあ安く買いたいという考え方も正しくはありません。

 特にUSED着物は、当時の人たちがそうやってお金を出しているからこそ、今お安く楽しめるわけです。

 ではどうすれば良いのか?ということになりますが、好みで買うしかないです。

 自分はこの着物にここまでお金をだしてもいいかなぁという基準に見合う値段のものを探してください。

※稀にとても値切ろうとしたりする人をメルカリや販売店で見ますが、そこまでしていい着物を安く叩いて着ても、あまり意味はないと思います。背伸びするより、それに見合ったレベルに近づく努力が必要だと思います。


補足説明

画像1

↑説明用写真。見づらいですが、両方とも小紋です。

 上の白の小紋は当時反物で仕入れが2万~3万(呉服屋によってはもう少し高いかも)。

 下の小紋は当時、仕入れが8千~2万程度

 ちなみに、仕入れ値の差がなぜあるのかというと、これは問屋などの力関係にもよります。

 ある問屋は大きい取引するので1万本買うから安くしてくれとなる。

 小さい問屋は20本しか買えないから安くならない。

 そうやって後は問屋が卸す呉服屋さんによって最初の仕入れから差が出てしまいます。

 また、安く仕入れたからといって呉服屋などの販売店が安く売るとは限りません。

 たまたま安くはいったけど、あそこの百貨店は30万で売ってたから、うちは25万ぐらいにしておこうか。

とかなる場合もあります。

 まあ、大量にさばくところは仕入れ値から計算して売りますので、適正価格ですが、少量しかさばかないところなどは基本的にその時の売れそうな値段になります。

 ちなみに上の白の小紋だと当時なら仕立てて、安い所で12万程度、高いところで25~30万。

 下の小紋で安いところは10万程度、高いところで18~22万だと思います。

 今回写真とらせていただいたお店は(写真の着物はどちらもUSEDです)、上の白の小紋は7000円、下の小紋は2500円で販売されています。

(どちらもシミ、ヨゴレなしでその値段です。今売れる値段と過去の価格から逆算するとちょうど良い値段だと思います)。

 参考までに追加で書きました。


着物の基礎知識を裏の話も含めて記事にしています。初歩の初歩から裏話まで。飾り内容無しの本音で書いています。よろしくお願いします。