看護師の給料から国民皆保険を考える

看護師の賃金について考えてみた。

最近、自身のtwitterで看護師の待遇についてつぶやいてみた。

画像1

 そこそこ反応があったのでこの際、詳しく自身の意見を書いておきたい。

 私が看護師の待遇についてつぶやいたきっかけはあるスタッフからの意見があったからだ。
 そのスタッフはジャパンハートから全国へ派遣している新型コロナウイルス感染症クラスターの対応責任者をしている。
 都会よりもむしろ地方に派遣している機会が多いので地方の状況を主に伝えていたのだと思う。
 
 まず、
①日本の医療システムのベッド数は緊急事態に対応できない。
 なぜならば看護師の人数に合わせてベッド数を決めるシステムになっているから。

 なのに、
② 看護師は待遇が悪すぎる。
 おそらく、主に給料の事を指して待遇といっていたと思う。そのため、看護師の人数を増やす努力を国がしてこずベッド数を増やす事ができていない。

③医療界のヒエラルキーが強すぎて既得権益主義がはびこっている。特に緊急事態下ではこの既得権益主義の為に全く柔軟性が失われ、結果、被害を大きく拡大する事になる。これは人災である。

 これらをまとめて感想をいえば、
  行政に期待したら殺されかねない。
ということ。

 これらを私なりに解釈して
 
 看護師の地位が低すぎるので、看護協会はそれらの改善の為に努力しなければならない。
 とりあえず、直ぐにできる本質的な改善は
 看護師の地位の向上
 ブラック労働やパワハラ環境からの解放
 子どもがいても働ける環境の整備
 やり甲斐ある職場環境
 休暇制度などの充実や保証
などではないかと書いた。

  が、

 それに対する反応として
 
 本質的な改善とは金銭的報酬である!
 あとのことは、金銭的報酬によって代償される、と。

と、何人もの人が意見を呟いてきた。

 私個人の意見を言わしてもらえば、
金銭的報酬は短期的な働くモチベーションにはなるが長期的なモチベーションにならない。
 私はパワハラが横行し、ブラック労働が当たり前の環境に報酬が良くても長居することはないし、そこで働き続ける限り精神を病むのが目に見えている。金の為に精神を病みたくないから。
 多くの人が、鬱を抱える社会の現状でわざわざお金を多少多く手に入れる為に、そこに突っ込んでいくことは馬鹿げていると思っているから。

 それはさておき、では、幾らあなた方は報酬を望むのだともう一度、聞いてみた。
 すると、結構多くの人が
     手取り50万
 という。
 中には35万位欲しいという謙虚な人も結構いたけど。
 まぁ、看護師たちは通常、経営者ではないので知らないと思うけど、50万の手取りならばおそらく企業負担は80万になるだろうか。
 勤務者は厚生年金や健康保険も天引きで払っているが、それは払わねばならない額の半分だけで残りはその所属企業が負担している。私のように個人で国民年金や国民皆保険を払っている人間は全額、自己負担になるのでびっくりするくらいの額になる。

 1人80万も病院が負担したら多くの病院は多分、経営は持たないだろう。

 冷たい事を言うようだが、何故、給料が上がらないかまず知っていてもらわなければならない。
 だからこそ、まずは出来る本質的な待遇改善は先程、私が言ったことになると理解してもらえるかもしれない。

画像4

 日本の看護師の人口は
 正看護師・准看護師、保健師、助産師を合わせると約160万人。
 これは日本の労働人口の約2%で、50人に1人が看護師ということになる。
 世の中には希少性の原理があり、概していうと、需要と供給のバランスで価値が決定されるということ。
 供給量が多いと価値が目減りするということ。
 この為、医者は人数をあまり増やしていない。
 専門医の数を制限したりしているのもそのせいである。
 一方、看護学校や看護学部は近年もどんどん増えているのでさらに将来、その価値は減少する事になる可能性が高い。

 ポイント1.  看護師は労働人口の2%もいる。

次に、例えば、病院に行ったとき若い医者が出てきて手術を行うことになったら、普通はもっと経験年数のある医者にしてくれと患者やその家族は要求するだろう。
 これは医者という職業は経年的に能力が上がるものだと社会が認識しているから。
 経験年数が多い=技術力が高い
即ち、医者は技術職だという社会認識である。

一方、看護師はどうか?
 若い看護師が出てきても、余程、怪しい事をしない限りは多くの場合、年齢の高い看護師に交代してくれ!と患者もその家族も要求はしない。
 看護師に対する社会認識は
 経験年数が多い≠技術力が高い
 となる。というよりは
 看護師は技術職だという認識があまり高くなく、むしろ総合職としての認識が強い。だから、優しいとか丁寧であるとか、そういう事を社会は評価する傾向にある。

 この為、看護師の評価基準はかなり設けにくい。そういう状況を改善しようと専門ナースやナース・プラクショナーというポジションをつくり、医者側の仕事の方向へ踏み込み始めると今度は医者たちによって押し返される。

 結果、看護師という職業は技術職として宙ぶらりんな状況に置かれている。

 ポイント2. 看護師の技術力を相対化しにくい

そして、これがおそらく看護師の給料が上がらない最大の理由となるが、
 大きくは理由は2つ
1つ目は、国民皆保険制度が大赤字である。
2つ目は、日本政府、財務省のプライマリーバランスを取るという方針のため。

まずは、国民皆保険制度は既に経営的には上手く回っていない。
 医療費は年間約41兆。
うち、保険料と実質負担では60%しか手当てできていない。
 年間15.5兆円の赤字なのだ。
本来の皆保険は皆で出し合って、困ってる人に使いましょう!というが趣旨だが、既に皆で出し合うお金がそもそも全然、足りてない。
 既にこの時点で皆保険制度の理想的運用は成立していない。
 しかし、国民の健康は何より大切だから、赤字になっても運用すべきだという意見もある。
 が、そこで問題なるのは、日本政府や財務省のプライマリーバランスの方針で、これは簡単に説明すると税収と歳出を均衡しますという事で、毎年税収が足らず国債を発行してしのいでいる国家財政で、15.5兆円赤字のタレ流す国民皆保険は改善すべき最たるものの1つということになる。
 今、在宅医療を進めているのも医療費削減のためであり、病院の収入である診療報酬が厳しくなっていってるのもその為である。
 私が医者になった頃は、針1つや点滴1つから経費請求できたので資材費用は全て国から返金されたが、いつからかある病気はいくら、この手術はいくらと、全て最初から診療報酬点数が決められ、いくら針や点滴を使おうが国からもらえる金額は疾病毎にほぼ一律になり増えなくなった。
 そして医療資材もどんどん高価になり、病院の経営を圧迫している。日本全体でみれば、既に医療資材は1兆円以上の輸入超過で大赤字である。
 日本の病院は、院長、すなわち最高経営責任者は医者でなければならないと法律で決められているので、昨日まで外来やっていたある科の部長が今日からいきなり経営責任者で経営をするということが発生しえるので、総じて経営下手だと言える。そして、看護師からもそういう経営下手のため自分たちの給料が上がらないという意見が散見された。どの病院もプロ経営者を雇い上手く経営していくと確かに短期的には経営状態が良くなり給料は一時的に上がるかもしれないが、時間が経つと、どの病院もプロ経営者を雇い現行の診療報酬制度下で利益を上げはじめ、やがてその経営手腕や経営状態のレベルを元に再び、診療報酬制度を国は厳しく締め付けて来るだろう。結局は診療報酬とのイタチごっこになり、そこでは看護師の給料は上げることはできないとわかる。
 
 ポイント3. 国民皆保険制度は大赤字
 ポイント4.    日本政府のプライマリーバランスの方針


 診療報酬額が厳しくなり、医療資材が値上がりしたら、もう経営のクッションとなり圧縮できるものは人件費しかない。
 しかも、技術的に評価しにくく、数の多い看護師は格好の的となる。

 日本はある程度は学歴主義で、高卒より大卒、准看護師より正看護師の方が給料が高くなる。

 医者は6年間。薬剤師は6年間。
 看護師は3年間か4年間。
 
学歴上も看護師は不利である。

 一方、海外の看護師はどうか?
アメリカはカルフォルニアなどは1000万位看護師の給料が普通にもらえるし、カナダも看護師の給料は高い。
 アメリカは皆保険制度はなく任意保険で運用されている。
 カナダは皆保険制度があって国が面倒をみている。
 イギリスもドイツも皆保険制度はある。
しかし、どの国も任意保険を多くの人が併用している。

しかも、皆保険内容は日本と全く違う。
 通常、どの国も家庭医がいて、まず彼らに診てもらいその後必要に応じて検査や治療の為に、大きな病院に紹介される。
 まず、家庭医の予約が取りにくい。彼らは普通、1日3人から5人しか診ない。それで十分、経営が成り立つ。上手く家庭医に診てもらい胃カメラが必要、CTやMRIが必要ということになる。
しかし、予約が取れるのは数か月先になる。
 その間は待っているしかない。
だから、お金を払って任意保険に入る人が多い。皆保険ではなく、それを使って早く診療や治療を進めていく。
 日本だと、数か月先になりますとやったら病院の受付は患者とその家族によって大騒ぎになるだろう。
 例えばカナダは家庭医を持たない人は、行政がやっている簡易な診療施設に行けば診てもらえる。しかし、待ち時間は数時間。しかも、血液検査もレントゲンもない。もちろん、CTやMRIはいわんやである。
 世界を知らない日本人には理解しにくいが、既に日本人は世界でいう任意保険を全国民が享受していることになる。そりゃ、赤字になるわ!ということだろう。これは政治の功績なのか?それとも政治の怠慢なのか?
 ちなみに、アメリカはニューヨークでは一泊入院すると50万円、コロナで呼吸器がつくと1500万円、救急車呼ぶと5万円するらしい。
 アメリカは別として、先進国ではやはり皆保険と任意保険が並列して存在している。
 これらの国で看護師の給料が日本よりも高いのはこの任意保険による収入があるからではないかな。
 そう考えると、日本で看護師の給料を上げる方法は皆保険外の任意保険での収入を上げる他にない。
 しかし、日本の皆保険は大赤字をタレ流しながら多くの国民に高額な先進医療を提供し続けている。このままでは、働く人の給料は上がらず、ブラックな労働環境も改善しにくく、離職率も高止まるだろう。ましてや、赤字が続くと税金は必ず上がり、特に日本の場合、高齢者の医療費の為に若い世代がさらに高い税金を課せられるという状況になると思う。


 これを解消する為には、私はニ重の保険制度しかないと思っている。
 国民皆保険と任意保険のニ重の保険。
自動車の自賠責保険と任意保険のイメージ。
 皆保険では、ジェネリックを中心にして既存の安価になった診断や治療を行う。一応、セーフティネットとしてほとんどの病気をカバーはする。メインは家庭医であり、その地域の病院となる。基本的に医者は選べない。
 最新の医療や高額医療そして患者希望の医療は、任意保険の適応とする。
 保険によって自由に病院や医者や治療を選べる。
 この任意保険料は病院の収入になり、医療者の給料に転嫁されていく。

ポイント5. 任意保険制度を大きく導入する

画像4

 最後に懸念点がある。
それは日本の医療費が安すぎることだ。安くて悪いことはないかもしれないが、それは患者本位過ぎる目線だ。海外では患者の人生と同じく、いや、それ以上に医療者の人生が大切にされている。
 家庭医は通常、1日に3〜5人診察すれば経営が成り立つと書いたが、日本では何十人も診察しなければ病院が持たない。だから、医療者が疲弊していく。何でこんなにも安く医療費が抑えられているか?
 医療費を安くしないと、財政赤字が膨らむから。
だから、医療者を酷使し何とか国民の贅沢な医療を担保している。酷使するのみならず、とても安価な労働資源として使っている。
 どんなに能力があろうと、どんなに難しい手術が出来ようと、逆に、どんなに能力が劣ろうと、まわりに助けてもらいながら医療現場にいようと、経験年数や卒業年度で医者や看護師の基本給は皆、同じだと国民は知っているだろうか?
 こんなに社会主義の様な労働体制で誤魔化しながらやっている皆保険制度だと知っているだろうか?
 私が研修医の頃、東京の私立大学病院の研修医の給料は月額2万とかいうレベルが当たり前に存在していた。ここはどこの国なんだろうか?
 私が若い頃に、国立病院に努めた時、入職時の契約書には
 時給1530円(税込)
 勤務時間午前8:30~午後4:30
            うち1時間は休憩とする
   平日の月曜日から金曜日
 契約は1日間とし、自動更新とする。

即ち、1日7時間の労働

 ということは、夕方4:30以降深夜までどんなに患者をみて働いても、お前が好きでやってますよね?ということで、金銭は発生しない。
翌朝8:30までは。
 土日休日も勝手に病院に来て患者みてますよね?ってことで一切、金銭報酬は発生していなかった。緊急手術があろうが報酬は発生しない。全部、その人が勝手にやったこととして処理されてきた。

 これで日本の医療はもってきたんだ。
 国民皆保険は立派な制度で、壊すな!っていう人がいたけど、それは光しかみてないのよ。陰を知ってから言ってもらいたいと、ずっと陰にいた人間としては思うけど。

 そして、今も国民皆保険という素晴らしいらしい制度の陰に多くの医療者がいて、アメリカ人の半分の時給で働いてる。そして、自分の精神や家族生活を犠牲にして何とかこの素晴らしいらしい国民皆保険制度を維持している。

画像2



 それから最後にもう一言。

 もしも看護師の給料が今よりも随分上がれば、今いる人の何十%かはいなくなると思う。
 なぜならば、給料が高い職種には優秀な人材が集まるから。優秀でない人たちは弾き出されていくか、安い給料の環境のブラックな場所で働くかしかなくなる。給料が上がるというのはそういう結果を招くと思う。

 看護師の給料を上げるとは、この様に国家の仕組みを変えることに直結する程のオオゴトなんだ。看護師たちは、単に自分の給料あげろよ!と思っているかもしれないがそんなに単純じぁない。
 だから近未来に現実的にできる本質的改善は

 看護師の地位の向上
 ブラック労働やパワハラ環境からの解放
 子どもがいても働ける環境の整備
 やり甲斐ある職場環境
 休暇制度の充実

 になる。
これらのほとんど、病院内で解決できる課題だから。

 とはいうものの、個人的には大変な環境の人たちには田舎でも35万円位はせめてあげてよ!とは思っている。

 それから、一応、政治家の人たちには意見をくれた人たちの声は届けようと思っている。

画像5


▼医療の届かないところへ医療を届ける

特定非営利活動法人ジャパンハート ホームページはこちらからご覧ください。

▼ジャパンハート公式note

ジャパンハートにかかわる方々の想いをつなげるノートです。

ぜひご覧ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?