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犬と和解

中学1年の春、子犬がうちに来てしまった。
私は犬が苦手だとあんなに主張したのに。
どうしても犬を飼いたい妹に両親が根負けしてしまった。

茶色いトイプードルのメス。「サクラ」と名づけられたこの犬は、神経質な癖して家の中ではやんちゃだった。
居間を全速力で走り回り、ワンワンと鳴く。
机の上の目ぼしいものはとりあえず口に入れて噛む。犠牲になった鉛筆と消しゴムは数知れず。
トイレの覚えが悪く、そこら中で粗相をする。

さすがに撫でたり抱っこしたりはできたものの、犬が苦手な私は、サクラとどう接したらいいのか分からなかった。

サクラが来てから数ヶ月後。私は不登校になり、一日中家で過ごすようになった。
両親は仕事に、妹は小学校に行ってしまった家で、私はサクラとふたりだけで過ごした。

サクラはマイペースにいたずらをしたり、走り回ったり、粗相をしたりする。
私は傷心で何もしたくないのに、サクラのペースに巻き込まれる。居間で横になっていたいのにちっとも落ち着けない。
心がぼろぼろな上に苦手な犬に振り回されていた私は、泣きながらサクラに怒ったり、帰ってきた母に「なんとかして!」と言ったり、サクラが上がって来れない2階に引き篭ったりしていた。
私とサクラの仲は最悪だった。後に母が「あの頃は本当にやっていけないと思った」と言うくらいには。

ある朝のこと。
何が原因だったかはさっぱり覚えていないが、私は何か嫌なことがあり、朝からクッションの上にうずくまって大泣きしていた。
家族は、「いつものやつが始まった」という感じで、私のことをよく言えば見守り、悪く言えば無視していた。
そんな家族の態度がまた癪に障る。
もう誰も私を助けてくれない。私は終わりだ…。
そんな思いで胸がいっぱいだった。

ふと、腕にぬくもりを感じた。
顔を上げると、サクラが私にぴったりくっついていた。
いつも居間をかけずり回ってワンワン鳴いているサクラが、静かに私に寄り添っている。
「こいつ、私を心配しているのか…?」
サクラはおとなしく、私が泣き止むまでそばにいてくれた。

サクラは、私の気持ちをちゃんとわかって、慰めてくれたんだ。
そう思った瞬間、今までのサクラのやんちゃはどうでもよくなった。
サクラは、優しい優しい犬だったのだ。

(後で調べたところに寄ると、犬は人間が泣いていると心配して寄り添う習性があるとのこと。サクラは気まぐれではなく私の様子をきちんと分かって来てくれていた。)

以来、私とサクラの仲はすっかりよくなった。
第2の妹のような可愛い存在で、今や私も犬好きになってしまった。サクラが平気になったら、他の家の犬も全く怖くなくなった。

そんなサクラも、すっかりおばあちゃん犬になってしまった。
一緒に住んだ時間より、離れて住んだ時間の方が長くなってしまったが、帰省すると毎回全力で出迎えてくれる。

サクラは、私の大切な家族だ。

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