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「兵庫県財政はほったらかしの井戸知事」

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ライプツィヒ大学経済政策研究所 村井大樹

フジテレビのニュース番組「FNNプライムオンライン」で井戸兵庫県知事のセンチュリー公用車問題が取り上げられていた。

「最高級車でないと知事の仕事ができないというわけでは当然ないし、おかしな話だと思います。」

ともっともらしいことを大阪府の吉村知事が言ったが、井戸兵庫県知事は

「契約しているので、直ちに見直すことはない」

だそうだ。マスメディアでは公用車にセンチュリーはふさわしいのかどうか表面的な議論がされているが、根本的な問題は兵庫県の緩んだ財政規律にある。センチュリーに乗りながらでもいいと思うが、悪化が甚だしい兵庫県財政を池戸知事は直ちに見直すべきである。

1989年末にバブル経済が破裂し、日本経済は長期停滞に入った。1990年に対GDP比率で約64%であった一般政府の債務残高は2020年には約250%にまで激増した(こちらの記事の図表3を参照)。日本の財政が世界最悪の状態にまで悪化したこの時期、兵庫県の債務残高も1990年の8731億円から統計を確認できる2018年までに4兆1375億円と約5倍に膨れ上がった。対県内総生産比率で見ると、5%に低位していた債務残高は約20%に増加しており、日本の公的債務問題の一端となっていることがわかる(図表1)。

図表1:兵庫県債務残高の推移(対県内総生産比率)

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出典:兵庫県統計書

日本の公的債務が歴史的高水準にまで膨れ上がった背景に中央および地方政府の緩みきった財政規律がある。1980年代後半に日本経済が空前の好景気にあったとき、兵庫県の税収は約3000億円(1980年)から約6700億円(1991年)へと二倍に増えた。それにもかかわらず、県の債務残高は絶対額でみても対県内総生産比率でみても改善しなかった。まるで税収が未来永劫増え続けると錯覚したかのように、増えた税収はすっかり使い果たされていた。バブル崩壊とともに停滞した県税収は兵庫県の財政に大きな変化をもたらした(図表2)。国から地方への財政移転である地方交付金や国庫支出金への財政依存は高まり(中央政府の国債発行増加要因)、1980年代は1000億円以下が常であった毎年の県債発行額は2000億から3000億円弱にまで増えた。主な買い手はバブル崩壊によってバランスシートが毀損し日銀の金融緩和により利鞘が激減した地方銀行である。

図表2:兵庫県の税収と地方交付金受取額の推移

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出典:兵庫県統計書

センチュリーを公用車にし「走っていても壊れないように」と詭弁する井戸兵庫県知事は2001年8月から現職に就いている。井戸知事が役職に就く前から土木費や衛生費などは減少傾向にあるが、県民の一般生活と深く関わる教育費・農林水産費・警察費などは粛々と削減されてきた(図表3)。反面、増加傾向にあるのは県債務を積み上げたツケである公費費や主に高齢層が必要とする年金や福祉施設、生活保護などの民生費である。

図表3:兵庫県の目的別支出額の推移

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出典:兵庫県統計書

井戸知事のもとで兵庫県は県税収や国からの財政移転よりも過剰に支出をしてきたが、県民の平均所得は右肩下がりのままだ。アジア金融危機を引き金に日本の金融危機が本格化した1997年に約43万円あった月間平均所得は2018年には約35万円まで下落した。

図表4:兵庫県の平均月間給与総額の推移

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出典:兵庫県統計書

下落を続ける給与水準により人々が兵庫県で暮らす動機も弱まった。1997年には12万9000人が他県から兵庫県に転入していたが、2018年には9万4000人にまで減少した。2012年以降においては兵庫県を去る人が兵庫県に入る人を上回るようになり、県の魅力は失われてきている。特にマイホームを購入していない若年層は移動力が高いため、兵庫県より高い給与水準にある東京などに移住する動機は一層高まっているといえる。

図表5:兵庫県の平均月間給与総額の推移

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出典:兵庫県統計書

長年にわたる兵庫県の財政赤字の垂れ流しは弛緩した財政規律の現れである。しかし、住民全体が必要とするサービスやインフラが向上したわけでもないし、兵庫県経済が刺激され県内総生産(1996年22.3兆円、2018年21.3兆円)や所得水準が増加したわけでもない。他県に比べ兵庫県がより魅力的になったわけでもない。1980年代の好景気のときに財政健全化に取り組んでいなかったなど、県民の高齢化により増加する県支出などに対して将来を見通した財政的な運営はできていなかった。その結果である県債乱発による利払い費の増加が県財政を圧迫している現状は自業自得である。もしも30年にわたる日銀の金融緩和により日本の金利水準が低下していなければ、公債費は兵庫県財政をさらに逼迫していただろう。

そんな中、公用車がレクサスからセンチュリーにグレードアップなど報道されれば、県民が憤りを感じるのも当然だ。しかし、たとえメディアや県民が騒ぎ井戸知事が公用車をプリウスに変えたところで、兵庫県の財政は今日明日で健全化しない。兵庫県の財政問題は少なくとも1986年から2001年まで知事を務めた貝原俊民氏にまで遡って熟考する必要がある問題であり、センチュリーで解決できるほど短絡的なものではない。もしも公用車の価格を財政収支に関連する何らかの指標や県民の平均所得水準などに比例させるようにでもすれば、東京都知事や今後の政治家の財政に対する意識改革の第一歩ぐらいにはなるのではないだろうか。

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見出し画像の引用元:

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A8%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%AA%E3%83%BC
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E6%88%B8%E6%95%8F%E4%B8%89





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