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CBDCを通じて、お金と生活のデザインについて考えてみる

はじめまして。Japan Digital Design(JDD)の本田です。
外部金融機関からトレーニーとしてJDDへ出向し、AIチームとデザイナーチームを兼務して働いています。

2022年7月に株式会社FINOLABが主催する「中央銀行デジタル通貨(CBDC) アイデアコンテスト ~ 中央銀行デジタル通貨で変わる私達の生活 ~」にチームJDD BETAとして参加しました。

https://japan-d2.com/news/20220803-001

私達はコンテスト終了後からも引き続き、CBDCのユースケースについて調査研究を進めています。
今日は、その中から見えてきた「新しいお金の形であるCBDCと生活をデザインするための着眼点」についてシェアさせていただければと思います。

アイデアコンテストの内容よりも、CBDCそのものについてお話していく記事となりますが、「CBDCのことが良く分からない」という方にもざっくりとご理解いただけるような解説をお付けして、できるだけ分かりやすく書いてみたいと思います。
あくまでJDDの視点ではありますので、ご了承いただきながらお楽しみいただけますと幸いです。


1.そもそもCBDCって?

CBDCとは、「Central Bank Digital Currency:中央銀行デジタル通貨」という正式名称がありまして、民間銀行が中央銀行に保有する当座預金とは異なる、新たな形態の電子的な中央銀行マネーのことをいいます。

(1)仮想通貨との違い

「仮想通貨と何がちがうの?」といった疑問をいただくこともありますが、一番の違いは「法定通貨」であることです。
日本銀行のQAを見ると、仮想通貨について下記の通り記述されています。

「暗号資産(仮想通貨)」とは、インターネット上でやりとりできる財産的価値であり、「資金決済に関する法律」において、次の性質をもつものと定義されています。

(1)不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる
(2)電子的に記録され、移転できる
(3)法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない

https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/money/c27.htm/

一方で、CBDCは上記(2)の「電子的に記録され、移転できる」という特徴は持ちますが、あくまで法定通貨であり、既存の現金と等価な電子マネーとなります。
やや乱暴に言うと、仮想通貨は民間で発行され、CBDCは国で発行されると捉えていただけると良いかもしれません。

(2)民間の電子マネーとの違い

また、電子マネーと聞くと、銀行の送金アプリや○○Payと名の付くような決済サービスが思い浮かぶ方もいらっしゃるかもしれません。こちらには「民間債務か、中央銀行の債務か」という違いがあります。
銀行の送金アプリや決済サービスでは、預金やチャージなどで「事業者に預けた」お金を使っているので、預かる事業者が「債務者」になります。そのため、民間の電子マネーは「民間債務」と言えるのですが、CBDCは発行する中央銀行が「債務者」となります。
少しややこしいですが、こちらもざっくりと、CBDCは中央銀行が発行するお金そのものであると捉えていただけると良いかと思います。

CBDCのポジション

(3)インフラについて

また、電子マネーと聞くとブロックチェーンを思い浮かべる方もいらっしゃるかと思いますが、CBDCにおいては必ずしもブロックチェーンとは限らない点もポイントです。
CBDCをどのようなインフラで発行するか、という点は各国の中央銀行でも議論が進められています。

CBDCについてはこちらの記事が大変分かりやすく、とてもお勧めです。



2.CBDCに何を期待するのか

さて、読んでいただいている方の中では、「わざわざデジタルにしなくても、普通に現金でいいんじゃない?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
私達は、この素朴な疑問こそがCBDCとの向き合い方を定義する重要な問いだと思っています。

この問いの答えについて、既にCBDCを発行・または試験的発行をしている諸外国に探してみたいと思います。

(1)世界各国のCBDCの政策目標

IMFのレポートを見ると、各国では「天候災害による現金輸送がストップした際のセーフティネット」や「適切で安価な金融サービスへのアクセス」等といった政策目標が立てられています。

ここから言えることは、「デジタルだからこそできる」新しいお金のあり方をCBDCに期待し、社会がより良くあるような使い方をみんなで考えていくことが大事、ということではないかと考えています。

さらに、もう少し具体的に各国の政策目標を解釈すると、「提供者視点」と「利用者視点」という2つの観点があることに気が付きます。
前者は社会システム・政策的なマクロな視点での目標であり、後者は一般生活者の日々の経済活動をより良く・快適にするためのミクロな視点での目標です。
どちらも重要な視点であることは間違いありませんが、お金としてのCBDCが広く社会に普及・ワークしていくためには、利用者にとって使いやすいこと、使いたいと思えることがより重要です。

(2)CBDCに向き合うための1イシュー&3デザイン

以上のことから、民間事業としてCBDCと向き合うためには、先ずは利用者視点での課題設定を行うこと、そしてサービスのUI/UXの設計に加えて、テクノロジーのエンジニアリングと価値循環を生むメカニズムとしての意味を含めた広義な「システム」の設計を踏まえた、3つのデザインを総合的に検討していくことが重要であると考えています。

利用者視点での課題設定:ISSUE         

インターフェースの設計:UI design       
ユーザーの体験の設計:UX Design            
システムの設計:System Design     

例えば、サンドダラーを発行するバハマ中央銀行では、島々で構成される地理的な条件を前提に、「商業的な事業が展開できない地域に住む人々が金融サービスから排除されている」という課題に対し、ブロックチェーン技術を用いたCBDCとプラットフォームとなるウォレットアプリを提供し、生活者・事業者双方がウォレットを通した送金サービスへ手軽にアクセスできるようになっています。

詳しくはこちらのリンクをご参照いただくのもお勧めです。



3.お金と生活のデザインへのアプローチ

(1)人間中心のCBDC:Human Centered CBDC

ここまでのお話を踏まえ、私達が考えるアプローチは
「人間中心のCBDC:Human Centered CBDC」です。

これは、生活者を事業考案のコアに据え、とりまく生活課題を解決するサービスとともに、デジタルならではの付加価値の創造が循環することを目指すものです。

人間中心のCBDC

例えば、生活課題にはストレートに「金融包摂」が入るかもしれませんし、「仕事と育児の両立」が入るかもしれません。はたまた「企業決済」という領域が入るかもしれません。

いずれも重要なのは、課題を感じているターゲットは誰なのかを定義共感することと、それを支えるリアルマネーではできないデジタルならではの付加価値を生むサイクルがどんなものなのかをデザインしていくことであると考えています。

(2)コンテストでのアイデア事例

私達がFINOLABのコンテストに出場した際のアイデアでは、「デジタルデバイドが想定される方々」をメインターゲットに、生活課題を解決するサービスには「キャッシュレス経済に参加するきっかけとなるサービス」と設定しました。

そして、デジタルならではの付加価値を生むメカニズムは下記3つの観点で定義しています。

  • UI design:シニアでも使いやすいシンプルなデザイン

  • UX Design:家族とのあたたかいコミュニケーションに繋がるP2P送金

  • System Design:成りすまし詐欺対策と税務手続きの簡略化による、贈り手の安心と受け手の便益の確保

その結果、「デジタル・デバイドを埋める、家族のためのCBDCウォレット」というコンセプトとなりました。

CBDCウォレットのコンセプト

より詳細なコンテストの提案内容が気になっていただいた方は、ぜひ下記のリンクから動画をご覧ください。


(3)改めてお伝えしたいこと

最後に、繰り返しになりますがCBDCとの向き合い方の根底には下記の観点が大事であると考えています。

「デジタルだからこそできる」新しいお金のあり方をCBDCに期待し、社会がより良くあるような使い方をみんなで考えていくこと

この記事を読んでくださった皆さんとも一緒に考えていけたら嬉しいです。



4.おわりに

今回は僭越ながら、CBDCを通じて検討を進めているお金と生活のデザインへのアプローチをシェアさせていただきました。少しでも楽しんでいただけましたでしょうか。
私達は引き続き調査研究を進めていきますので、アップデートがありましたら、またこちらでお話できればと思います。

最後までご覧いただきありがとうございました!


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