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中国の”フェイクニュース対策”

 ご無沙汰しております。今年も夏は暑かったですね。私は今年9月から大学2年生になりましたが、夏の間はPrinceton in Beijingという北京で中国語を約2ヶ月学ぶプログラムに参加していました。幼い頃に何度か中国へは行きましたが、やはり中国社会の変容は凄まじく、数えきれぬほどの異文化体験ができました。
 ジャーナリズム専攻を目指す者としては、アメリカや日本とは全く異なる中国メディアの体制に最も興味を惹かれました。そこで、アメリカへ帰国した後にリサーチをしていた所、アメリカ合衆国議会図書館(Library of Congress)によって面白いレポートがまとめられていましたので、ご紹介したいと思います。(段エディ)

中国の”フェイクニュース対策”とは

 情報技術の変化や政治的戦略、金銭的インセンティブなどによって引き起こされる偽情報の蔓延というのは、世界70ヶ国以上で確認されている世界規模の問題です。特に中国は急激な経済発展により、インターネット利用人口も爆発的に増え、偽情報の抑制が大事な課題となっています。

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和訳:インターネット利用者数(青いバー)と普及率(赤線)の推移。単位は万人。(第 43 次中国互联网络发展状况统计报告 第17ページより)

 さて中国はどういった対策を行っているのでしょうか。中国では偽情報や「噂」に対して、民間と政府による様々な努力がされていますが、Foreign Policyの記事では、中国の対策を下記のように形容しました。

 “共産党主導の「噂対策」は、党への批判や敵を除く為の試みにもみえる。政府がある情報に対して、噂であるとレッテルを貼る時は、その情報が間違っている為ではなく、政府が人々に知られたくない為のようだ。” (MARIA REPNIKOVA)
 “the party-led campaigns against rumors have been seen as attempts to take out potential critics and enemies. When the government labels something a rumor, that information comes to be seen not as fake but as something the government doesn’t want the public to know.” (MARIA REPNIKOVA)

 2019年4月に公開されたアメリカ合衆国議会図書館(Library of Congress)のレポートでは、中国による様々な対策が紹介されています。中でも興味深い取り組みをご紹介しています。

・民間レベルでの対策:テンセント(WeChatの運営会社)は2018年に、運営するプラットフォーム上の84,000の噂(偽情報)を削除した。3,994の噂に対抗する記事がWeChatを通じて公開され、約3億人に読まれた。

様々な新法律の制定
1、2015年8月30日に刑法修正案(中华人民共和国刑法修正案 九)が可決され、下記の懲罰が追加された。

”災害状況や緊急状況、流行的な情報について偽造して流す者、または偽造されたものである事を明らかに知りながら、公共の秩序を深刻に乱そうと情報ネットワークやその他メディアを通じて広めた者に対しては、3年以下の懲役。影響が深刻である場合は3年以上7年以下の懲役を科す。(中华人民共和国刑法修正案九、第32条より)"

2、2016年11月7日にインターネット安全法(中华人民共和国网络安全法)が制定され、その中でSNS利用時に実名登録を義務付けた。違反したサービスプロバイダーは5万人民元から50万人民元の罰金が科せられ、個人には1万人民元から10万人民元の罰金が科せられる。
3、2017年5月2日に制定されたニュースサービス管理規定(互联网新闻信息服务管理规定)では、例えブログやSNSのアカウントであれと、ニュースを届ける目的であるものはライセンスを取得しなければいけない。罰金は1万人民元から3万人民元。また、マスメディアは、省政府や地方政府がは発表したもの以外は再版してはならず、罰金は5千人民元から3万人民元。

・民間x政府:2018年には【辟谣 Piyao】(和訳:噂が偽であると証明する)という仕組みの運用を開始。市民は嘘だと思う情報を通報できる。偽であると証明されたものは、SNSアカウントやアプリ、共産党の管理する局や新聞社から訂正情報が発信される。

・正確な法的情報へのアクセス:2015年に中華人民共和国法(PRC law)を改定した際、2つのウェブサイト(NPC中国政府法的情報ネットワーク)公式に追加。全国人民代表大会やその委員会によって制定された法律や、地方政府が新たに定めた法律などが載せられる。加えて、2013年からは、最高人民法院の命令によって下法院が判例(一部を除く)をオンラインに公開するように。

政府による規制 vs 民間による取り組み

 社会によって、偽情報に対する取り組みは異なります。Poynter研究所は、世界中の政府がどのように対策を行っているかを以下の記事にまとめています。

 日本では総務省が定期的な研究会を開いており、偽ニュース対策は法規制ではなく基本的に民間の取り組みに委ねる方針を発表しました。引き続き、日本の社会に適した対策のカタチを議論し、実践していかねばなりません。

参照:https://www.loc.gov/law/help/fake-news/china.php