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[第1話]食べることが辛くなった日

目の前のどんぶり飯を食べ終えるまで部屋に戻れない。おかずも、私のだけ1.5倍盛りに見えるのは気のせいだろうか。早く横になって休みたい…と思いながら味のしないご飯を口に運び続けた。

高校2年の夏休み、選手としては最後の水泳部合宿。思うようにタイムが伸びない私に顧問の先生は言った。「お前は体力がないんだ。もっと食べてしかっり体を作っていけ!」

それで、その日の晩から私のご飯は大盛りになった。泳いで泳いで疲れ果てた後の食事は、待ちに待った時間で、何を食べてもいつも以上に美味しく感じた。しかし、もうおなかいっぱい!と感じてからの、食べなければいけない食事はただ苦しいだけで、さっきまでおいしかった目の前のご飯は途端に味をなくしてしまった。

ノルマを終えて、倒れるように横になる。うっ…苦しい。私の胃袋はもうわずかな隙間もないくらいいっぱいだった。横になるのは辛いので、布団を重ねて背もたれを作り、寄りかかって体を休めた。

翌朝のご飯も大盛りだった。相撲部屋に体験入部したんだっけ⁈と思うほど昼も夜も苦しくなるほど食べて、これで体力つくんだ!と思い込んで練習に励んだ。合宿最終日、自由形、自分の種目、チームメドレーのタイム計測をする。あれだけ苦しい思いをしたんだから(プールじゃなくて食堂で🤣)やれる!と信じて挑んだ結果は…散々だった。体が重だるいのに加えて心までずーんと重くなった。

5日間の合宿を終えて家に帰ったときは、母親が心配そうな顔をして迎えてくれた。気持ちが落ち込んでいる私を心配してくれていたのか、むくんだ顔を見て体調を心配したのか、その両方か、分からないけれど。毎年、合宿のあとは体重が落ちていた。ぎりぎり維持していれば、あぁ今年はうまく調整できたなって実感があるが、今回はなにひとつうまくいかなかった気がしていた。毎日たくさん泳いで、部屋に戻る階段を上るのに手すりが必要なくらいくたくたになっていたのに、私の体重は5日間で2㎏ほど増えていた。確かに体は大きくなったけど、全身むくんで気だるくて、しばらく不調の日々が続いた。食べなければすぐ戻る、でも食べたい、相反する欲が出てきたのはこの頃だった。

~続く~

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