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[第2話]現実逃避

食事のノルマから解放された私は、食べることに疲れてしまって食欲が湧かなかった。合宿中に増えた体重は、日常に戻ってしばらくで元に戻った。元来、食べることは大好きで、美味しいものには目がなかったが、何を食べたいのか考えるのが面倒になっていた。お弁当を作れなかった日にはお昼代として母からお小遣いをもらっていたのだけど、そんな日はバランス栄養食とうたわれていたお菓子のようなものとジュースで食事を済ませていた。手軽さと、何となく体によさそうな売り文句に心を惹かれていたのかもしれない。成長に必要な栄養なんて気にすることもなかった一方で、他人からどう見られているかだけは気にしていて、食べる量が少なければ太らないと勘違いしていた。

しかし、やはり女子高生、友達との放課後のおしゃべりは大事な息抜きでもあり情報交換の場でもあり、そこに甘いおやつは必須だった。食べすぎることに怖さもあったが、友達とも楽しい時間に水を差したくないし、お昼少ししか食べてないから、と言い訳して間食した。太りたくないから、と毎朝母を困らせては小さなお弁当にご飯とおかずを詰めてもらうのに、その足りない分をお菓子で補っていたのだから、母の努力は水の泡だった。毎日よく動いていたし、食べる”量”だけは気にしていたので、体重が増えることはなかったが、体調は優れなかった。顔も体もむくんで肌荒れもあった。鏡を見て頬をよくつねっていた。

高校2年の夏は調子を取り戻すことなく、引退試合を最後にすべての大会が終わった。納得のいくタイムは残せなかった。もう少しやれたかもしれない…後悔にも似た感じがしたが、あぁこれで全部終わったという安心感の方が大きかった。(個人の成績は芳しくなかったけど、部長としての仕事はやり切った、頑張ったよ)と自分を納得させて、無理矢理に前向きになって部活動のピリオドを打った。

ここから、ひっそりと隠れていた問題がだんだんと表に出てきた。部活の引退後、いよいよ本気で向き合わなければいけなくなった受験勉強、他にも今まで泳ぐことでスッキリさせていた何かが、まとめてストレスになって食欲に向かった。当然体重は増えた。増える=太る=冴えない私。向き合いたくない現実。数字が増えたら、今度は極端に食べないようにした。そのあとは我慢の反動でまた食欲が増す。体重計の数字だけに一喜一憂しながら、食べ過ぎと食べなさ過ぎの悪循環にはまっていった。

~続く~

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