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「季節外れのホラー(コメディー)」
その日は、ヘルプに来ていた杉山さんと石井さんが出勤していました。
「ちょっとマネージャー聞いてくださいよ。さっきすごいお客さんが来たんですよ」と来て早々テニスとバレーボールの日本代表みたいな名前のペアに呼び止められました。
「何、どうしたの?」
「なんか、ちょっとご案内するとすぐ忘れちゃうお客さんがさっき来たんですよ。あれっ、これいいねって初めて見たみたいな感じで興味を示してくれる商品はほぼ数分前にご案内したモノばっかりで。ちょっと前にご案内したことを忘れちゃうんですよね。心配になりました。」
心配になりましたと笑って言ってるから、心配してないんだなというのはすぐにわかったもののあえてそこはスルーして、
「あのお客さんだ」
と話しを聞いていて僕もすぐにピンと来ました。
「たしかにあのお客様は一度興味を持った商品を数分後にまた こんなところにいいのあるじゃない って言うよね」と言うと、
「マネージャー知ってるんですか?」
「うん、たぶんあのお客さんだと思う。」
「もうびっくりしましたよ。同じ商品の説明を何回もしましたもん。大丈夫ですかね?」
「でも、実際ちゃんと気に入ったものを買っていかれたんでしょ?お支払いもちゃんとしていただけたんでしょ?何の問題もないよ。現にこうやってまた店に買い物に来てくれているんだから、多分全部理解しているよ。ただスタッフの話しを右から左に聞き流しているだけだよきっと」
「そうですかね?」
とちょっと腑に落ちない表情の日本代表みたいな名前のペア。
この話しが終わって数分後。
「杉山さん、そろそろ売上報告を作ろうと思うんですけど、今日何が売れましたっけ?」
「あれっ、今日何売れたかな?」
いやいや、よくそんなんで物忘れのお客さんの話しを持ち出してきたな。
落語とかのレベルじゃない。
もうここまで来るとホラーだな。
「あっ、マネジャー、そう言えば帰りの電車で乗り過ごして終点まで行っちゃった話ししましたっけ?」
だいたいこういう切り口で入ってくる話しは怪しい。
「私、その時幽霊みたんですよ、これ本当です。」
・・・ほらね。
やっぱりそうだよ。
思った通りだよ。
懲りないね、杉山さん。
さっきお客さんが心配って言いながら自分たちも物忘れしていることに対してツッコミを入れたばっかりなのに・・・。
スルーするわけにもいかないので仕方なく
「その時寝起きでしょう?」
と聞くと
「そうなんです、ちょっと寝ちゃってて。で、起きて窓を見たら知らないおじさんがガラス越しに見えたんですよ。」
「・・・やっぱり。言いにくいけどさ、それ寝起きの自分の顔だよ。」
「違いますよ。乗り過ごしちゃったのも多分幽霊の仕業ですよ。えーっ、自分の顔だったのかな。でも・・・」
とその後もずーっと独り言のようにしゃべり続けています。
語り部の高齢化と強烈な個性を持った後継者があまり出て来ないことが逆風となっている怪談モノにまさかこんな身近なところから候補者が出てくるとは・・・。
僕、ほぼ毎日ホラーに付き合わされています・・・。
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