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上翅は垂直尾翼!?

 いつもの公園を散歩していたところ、珍しい方がいらしたので観察していました。
 その名をオオヒラタシデムシ。
 名前の通り死肉を食ら森のお掃除屋さん、シデムシ(漢字では死出虫と書きます)の仲間です。
 都市部だとゴミ溜め場なんかでも稀に見ることはあるんですが、ゴミ溜めのない都市公園、しかも明るい場所で見たのは多分初めてです。
 この公園は他の有名どころの都市公園と違って意図的に自然が野放図っぽくなっている場所が多いので、きっと本来の死肉食らいで生計を立てているんでしょう。
 このへん、公園の管理方法として面白いなといつも思います。

さて、話をオオヒラタシデムシに戻すと、観察を始めて十数秒。
 さすがにひなた(この昆虫、普通は暗い森の中なんにいるんです)ででっかいオッサンに見下ろされているのが気になったのか、彼は急に草を登り始めました。
 こういう昆虫が高い場所にわざわざ登るときというのは、これはもう飛んで移動したいからに決まっています。
 で、考えてみると大きめのシデムシが飛ぶところなんて子供時代から通しても見たことがないんですよね。
 てことで慌ててカメラを構え、左目は肉眼、右目はファインダー越しに彼の動きを追っていると、パッと羽根が開いた気がしたので(昆虫や取りの飛翔を追っている方なら分かると思いますが、その瞬間は飛んだって言うことをちゃんと認識できてはいないんですよね)、とりあえずシャッターを切ったのがこの写真。
 撮った瞬間は、この昆虫、直射日光下だと案外色の出が豊富で綺麗なんだなあなんて思っていました。
 でまあ、ヒラタさんはこのまま飛んで行かれてしまったので、実はその時の写真はこれ一枚なんですが……。
 ところが帰宅して写真を見てみて驚きました。
 ヒラタさん、なんだか凄く独特な羽根の開き方をしていらっしゃるといいますか、上翅の部分の開き方がかなり複雑なことになっています。
 あ、上翅というのは普段は胴体を覆っている、硬い殻みたいな部分のことです。
 で、カブトムシに代表される飛ぶとき以外は羽根を上翅の下に収納している昆虫の場合、この上翅は、飛ぶ際には左右に大きく開いて飛行機の翼のように固定して飛ぶのが一般的だと思います。
 一部のカメムシのように上翅を開かないものもいますが、多くは上翅を飛行機の羽のように左右に固定し、上翅の下に収納されていた薄い下翅を羽ばたかせて飛びます。

ところがこのヒラタさんはというと、下翅を羽ばたかせるのは一緒なんですが、上翅は開いた上で裏返しに近いような感じで体に沿って立てています。言うなれば横開きじゃなくて縦開きなわけですけど、見た瞬間にいったい接合部の筋肉等はどうなってるの? と思ってしまいます。

ちなみにこのヒラタさん、結構重量級のシデムシだと思うんですが、体に比して下翅の面積があまり広くはなく、飛ぶのに結構苦労しそうな感じです。
 航空機でいう翼面荷重が高いってやつなわけで、なるほどそう考えると上翅を横に開くよりも体に沿う形にしたほうが、飛んでいるときの空気抵抗は低くなりそう。
 なかなか考えられた造り、なのかな?
 ただ、それにしてもやっぱり、上翅の関節部分がかなり気になる飛行形状ですし、そもそも飛行中の安定も悪そうです。
 シデムシというと地面をやたら動き回る虫なので、移動の基本は脚でってことなんでしょうけど、それにしてもユニークな姿で飛ぶものだなあ。――などと、写真を何度も眺め直して思ったのでした。
 今度この場面に遭遇したら、連写もしくは動画で録って、上翅がどんなふうに展開されるのかを見てみたいものですね。

というこれは、変な場所にいたシデムシの飛ぶ瞬間を撮ってみたらかなり面白い姿が撮れてしまったという、写真ならではの偶然が記録された一枚だったのでした。

@三鷹市


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