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「 宝石箱は食べられない 」

 ゼリー的な物がトッピングされたケーキを眺めていたら、私の非常にあてにならないゴーストがまたぞろ囁いたんです。
「これ、後ろから過剰に光を充てて透過光にしたら、きっと面白いぞ」と。
 でまあ、ちょっと大袈裟な感じでやってみたらこんなことになってしまいました。

 ところで私は、食べ物を撮るという行為は人を撮ることに似ているなと昔から思ってるんですよ。
 日常の食べ物を撮るならスナップ的な感じだし、個性を撮ったり、或いはことさら美味しさなんかを強調して撮ろうと思うなら各種ポートレイトみたいなもんだし、と。
 フードポルノなんて言葉がありますけど、それも、ポルノグラフィが性的欲求が根底にあるのに対して、フードポルノは食欲が底にあるからこその形容みたいなもので、よく言ったものだなあと思いつつ、やっぱり食べ物を撮るってことは人撮りに似ているなと思うわけです。

 でまあ、このケーキの場合は多分、モデルさんなんかをショーアップして撮る系のポートレイトに似ているんだと思うんです。
 ほら、よくあるじゃないですか。モデルさんのポートレイトで、後ろから光を充てまくって後光みたいにして、髪の毛をやや透過気味にして撮るヤツ。
 この写真は、ちょうどあれの食べ物版といったところじゃないかなあなどと、撮っているときに思っていたんですよ実は。

 で、ここからは私の私見ではあるんですが、そういったショーアップされた“ポートレイト”って、見た目は綺麗だし目を惹きもしますが、モデルさん自身の魅力みたいなものは、私はあまり感じることがないんですね。
 簡単に言えば、例えばモデルさんが女性だったとして、私はそういう写真ではその人の性的な意味での魅力を感じることはありませんし、その人のナマの性格も、まあ滲み出ているとは感じられないことがほとんどです。
 言ってしまえば、その写真の分類はきっと“ポートレイト”だけど、その人の人となりを現わす写真ではないので、本当はポートレイトとは呼びたくないみたいな。
 いや分類なんてことはどうでもよく、その人の人となりをさておいて別のなにかを創造しちゃってる時点で、その人自身が魅力的には私には映らないんですよ。
 後光が差してる女の人を見ても、好きになったりきっといい娘さんなんだろうなあなんて、まあ思いませんもん。

 翻ってこの写真も、まあ一瞬は面白いでしょう。
 人によっては、アイコン的に目を惹くかもしれません。
 でもこの写真を見てこのケーキが美味しそうに見えるかと言われると、ぜんぜんですよね。
 つまり食欲の部分はあまり動かないわけです。
 そりゃ一生懸命見れば、もともとのケーキの雰囲気みたいなものを想像はできるでしょう。
 けど、ぶっちゃけ言えば、普通に撮った写真のほうがずっとケーキの美味しさみたいなものは伝わると思うんですよ。
 このへんも、なんだかショーアップされた“ポートレイト”写真に感じることとちょっと似ているなあなんて。――やや後付け気味に、そんなふうに思ったりしたのでした。
@自宅

●撮影ノート
「Nikon D850」+「AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED」
焦点距離:60mm
FNo:4.0
シャッター速度:1/60
合成ISO:100
合成露出補正:+0.5EV

 撮影動機は、本文にある通りです。
 ケーキのゼリーの部分を見て、ああこりゃあ透過光過多にして撮ったら面白い写真がでっち上げられるかもなあと感じたのが発端で、右手にカメラ、左手にLEDの照明を持って撮りました。
 LED照明の位置は、完全逆光から15度くらい左。上下的には45度上くらいだったと思います。
 上下角は、ゼリーの部分が一番宝石っぽく透過して光るところで、かつお皿が後光のようにまばゆくなるあたりを選びました。
 またこの写真の場合、白色光よりもやや赤みがかった色の方が宝箱の中みたいな雰囲気が演出でき面白いかなと感じたので、LED照明の色温度はやや低めの暖色光にしてあります。
 まあ、写実性とか記録はそっちのけにしたお遊びではありましたけど、仕事が忙しくてまったく外に出られない生活の中、在宅のままお手軽に楽しくなれたので、これはこれで私にとっては良い一枚ではありました。

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