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ヴァイキング関連まとめ

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考古学発見からの考察、その他
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ヴァイキング時代の窓ガラス

デンマーク国立博物館の X(旧Twitter)で興味深い研究論文についてポストされていました。 「これまで中世の教会や城にしかなかったガラスをヴァイキングは窓ガラスに使っていた」というものです。 窓ガラスは、これまでスカンディナヴィアでは1050年以前につくられていたとは考えられていませんでした。 スカンディナヴィア地域での窓ガラスはキリスト教の普及により教会建築などに使用されたのが最初だと考えられてきたのですが、キリスト教以前の異教時代の遺跡からガラスビーズや飲み物を入

ヴァイキング時代の遺物(個人コレクションより)

スカンディナヴィアをはじめ、アイスランド、英国、東欧諸国など、ヴァイキングの故郷や彼らが移住または活動の拠点にしていた地域の博物館には、同時代の出土品が数多く展示されています。 また、欧州の歴史研究者や考古学者のコレクションの一部や、愛好家が自ら発掘したヴァイキング時代の遺物が現地のアンティークショップで販売されていることがあります。 この記事では、数は少ないですが、そのような個人やショップから入手した私自身のコレクションを紹介したいと思います。 エストニアのコレクター

ヴァイキング時代の典型的な家屋について

ヴァイキング時代(793年頃~1066年頃)のスカンディナヴィアでの典型的な家屋には下記の3つがあります。 10世紀のスカンディナヴィアでは上記の図7.8 Cが主流となっていたようです(アングロ・サクソン地域では6世紀初めから標準型)。Bは納屋、作業場など。 リンホルム・ホイエはヴァイキング時代の墓地遺跡(船型墳墓の集合地)です。 柱に施された細やかな彫刻が見事な広間は、王または侯(ヤール)の館にあったものでしょうか。 ヴァイキング時代を舞台にした海外ドラマ『VIKI

北欧の竜はドラゴンではなく蛇?

映画 『ノースマン 導かれし復讐者』 のコンセプトブック(洋書)に載っていた「ヴォルスンガ・サガ」(ドイツのジークフリート伝説の北欧版。シグルズ伝説とも)のタペストリーに、シグルズがファーヴニル(竜)を討伐する場面があります。 穴に隠れ、下から心臓を一突きにするという伝承に忠実なのも良いのですが、何よりもファーヴニルがいわゆる西洋らしい翼を持つ竜ではなく、ヨルムンガンドを想像させるデザインになっています。 ヨルムンガンドはミズガルズ蛇。北欧神話に登場する、世界をぐるりと取

ヴァイキング関連書籍で最初に読みたい3冊

北欧神話関連本、サガの翻訳本の紹介は以前記事にしたので、今回はヴァイキング関連書籍(社会史、文化史など)のうち最初に読みたい3冊を紹介します。 熊野 聰 著 小澤 実 (解説・文献解題)『ヴァイキングの歴史 実力と友情の社会』創元社 2017年 日本におけるヴァイキングの社会史研究での第一人者、熊野聰氏の著書は数多く出版されているが、すべてはこの本から始まっていると言っていいだろう。 私は10代半ばの頃、旧版の『北の農民ヴァイキング』を愛読していた。 ヴァイキングといえ

ヴァイキングの父称についてのメモ書き

ヴァイキング時代にはまだ姓がなかったので、当時の人々は自分の名前(ファーストネーム)の後に「父称」をつけていました。 男子には〇〇ソン(― son)、女子には〇〇ドーティル(― dóttir)が付きます。 ※〇〇は父の名前(属格) ヴァイキング時代を舞台にした歴史創作などをする時に気を付けたいのは、古ノルド語では個人の名前も格変化すること。 エイリーク(Eiríkr)の息子はエイリークスソン(Eiríksson)になりますが、ビョルン(Bjǫrn)の息子はビャルナルソン(

映画『ノースマン 導かれし復讐者』の感想など(ネタバレあり)

2023年1月29日、『ノースマン 導かれし復讐者』 を観て来ました。 この記事ではネタバレを含む感想を書いていますが、あくまで一人の北欧&ヴァイキング好きな人間の主観であることをご理解ください。 父王を謀殺し、母を連れ去った叔父に復讐を誓った少年アムレート。 成長して東欧を荒らすヴァイキング戦士となった彼は運命に導かれ、アイスランドで農場を営む叔父に復讐を果たすべく、奴隷のふりをして敵地へ乗り込む――。 シェイクスピアが 『ハムレット』 の題材にしたというスカンディナ

ソルビョルンの娘グズリーズの旅

11世紀前半を生きたグズリーズは、アイスランド西部ラウガルブレッカに住んでいた裕福な農民ソルビョルンの娘でした。 グズリーズはおそらく、当時もっとも長い距離を旅した女性であったと考えられます。 彼女については、1300年代に書かれたアイスランドのサガ『赤毛のエイリークのサガ』、『グリーンランド人のサガ』に詳しい記述があります。 幸村誠氏の人気漫画『ヴィンランド・サガ』の主人公トルフィンの妻グズリーズは、彼女がモデルになっていると思われます。 幸村先生が描かれる、明るくて魅力

ハラルド美髪王(ノルウェー)とアゼルスタン勝利王(イングランド)

9世紀前半、群雄割拠のノルウェーに、圧倒的なカリスマ性を持つ強力な王が現れました。〈美髪王〉と綽名されたハラルド1世(ハーラル1世)です。 ヴェストフォルドの王であった彼はホルダランドのエイリーク王の娘ギュザに求婚した際、「ノルウェー全土を支配する王となられましたら、わたくしは貴方の妃となりましょう」と、つれなく断られたことで奮起、各地を征服し、領土を広げていきました。最後の戦いとなったのが、有名なハヴルスフィヨルドの戦いです。 そして、ついにノルウェーの大部分を治める王に

ヴァイキングの結婚指輪

海外ドラマの人気シリーズ『VIKINGS』や『ラスト・キングダム』の影響もあってか、北欧諸国をはじめ欧州ではヴァイキング時代のマーケット等を再現したフェスティバルの開催や、出土品のレプリカジュエリーや日用品などを販売するショップが以前より増えています。 ジュエリーの幾つかはカップルで楽しめるようなペアアイテムも多く、ルーン文字を刻印した結婚指輪もあるようです。 先日、SNSでも話題になっていたのですが、そもそもヴァイキング時代に結婚指輪はあったのでしょうか。 一概に否定はで

ヴァイキングの綽名いろいろ

ヴァイキング時代の北欧人には姓がなく、名前の後に父称をつけていました。 エイリーク・ホーコナルソン(ホーコンの息子エイリーク)、オーラヴ・トリュグヴァソン(トリュグヴィの息子オーラヴ)、テュリ・ハラルズドーティル(ハラルドの娘テュリ)などです。 男子には息子を表わすソン、女子には娘を表わすドーティル(ドッティル)が付きます。 同じ名前の人物が多かったので、父称や綽名で区別していたようです。 『エギルのサガ』の主人公エギル・スカラグリムソンはアイスランドのスカルド詩人で、典型

楯の乙女 ― ヴァイキングの女戦士

2017年9月、スウェーデンで発掘されたヴァイキングの上級戦士(指揮官クラス)墓に埋葬されていた人物が最新のDNA鑑定の結果、女性であったことが判りました。 最初に発掘されたのは1880年代で、当時は有力な首長クラスの男性の墓だと思われていたようです。 場所はヴァイキングの交易都市ビルカ、時代は10世紀中頃。 剣、斧、弓矢などの武器と2頭の馬、ゲーム盤と駒 (ネファタヴルでしょう) がともに埋められていました。 彼女は神話に登場するヴァルキュリア(ヴァルキューレ)のよ

ヴァリャーギ(ビザンツの北欧人親衛隊)とルーン石碑

北欧人は、ヴァイキング時代以前からすでに東方へ進出していましたが、コンスタンティノープル(現在のイスタンブール)に滞在したスヴェア人(スウェーデン人)の存在が初めて知れるのは、839年のこと。 ビザンツ皇帝がフランク王国に派遣した使節団の護衛を務めていたようです。 その後、有名なところでは、ノルウェーのハラルド苛烈王 (1015頃~1066) が異父兄オーラヴ(聖王)が戦死した1030年のスティクレスタズの戦いの後、スウェーデン、ロシアを経由してビザンツ帝国に向かい、500

ハラルド美髪王の家系

ハラルド美髪王(ハーラル1世、c.850 - c.932)の家系とフラジル(ラーデ)の侯家との関係を中心にした相関図を作ってみました。 美髪王の妻は重要と思われる6人のみ記載、ほかにも兄弟多数とか端折ったところもありますが、此処に並んでいる人達だけでもいろんなサガに語られる沢山のエピソードがあります。 右端の〈徒歩〉のフロールヴはノルマンディー公ウィリアム(ギョーム)の先祖ロロです。彼とフラジル(ラーデ)の侯家は親戚だったのですね。 ノルウェー王家(美髪王の家系)とフラ