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最高の石焼き芋を作れるのはどんな石ですか?

そらみさん(小学1年生)からの質問
(回答:高知コア研究所 濱田)

最高の石やきイモ!いいですね!私もやきイモ大好きです。調べてみたところ、どのような石が石やきイモに向いているのか、という研究は見つけられませんでした。ですが、「甘藷(サツマイモ)をどのように温めたらおいしいやきイモになるのか」という研究はたくさんされていました。1974年から2014年までの研究をまとめると、イモを70~80℃で1時間ほど時間をかけて加熱をすれば、一番あまみが出ると考えられているようです。しかし同じ温度を1時間も保つのはなかなか難しいことですね。石やきイモの石としては、熱をたくわえる力がつよく、いっぽうでイモに熱を伝えやすいという両方の性質をもった石が「最高の石」といえると思います。私の調べた限りでは、(ギリギリ手に入る中で)その両方の性質を持っているのは「鉄橄欖石(てつかんらんせき)」という石かと思います。こちらは水晶(石英)の二倍近くも熱をたくわえることができ、色も黒くてたくわえた熱をイモに効率よく伝えることができます。でも石やきイモを作るほど集めるのはとても大変そうです。よく使われている石やきイモの石はどうやら、ち密な 安山岩や黒丸石(泥質ホルンフェルスや蛇紋岩)らしいのですが、これらもふつうに河原に落ちているような砂岩や泥岩よりかは石やきイモにむいている性質をもっているといえそうです。今度海や川に行ったときには、ち密で黒い「石やきイモにむいていそうな石」を探してみてください。ちなみに、最近では電子レンジでもおいしくやきイモを作れるようなイモの種類がつくられているそうです(クイックスイート)。ふつうのサツマイモと食べ比べてみてもおもしろそうですね!

 

保護者の方へ

ご質問どうもありがとうございました。焼き芋のことはもちろん専門外でしたが、調べてみると様々な焼き芋の研究がなされていることを知り、興味深く文献調査をいたしました。

焼き芋がおいしくなる(甘くなる)ためには、デンプンを糊化(α化)し、アミラーゼで糖に変化させる、というプロセスを経る必要があります。これは中学校の理科の授業で経験されていらっしゃるかと思います。身近な例では、ご飯を炊くことで糊化して、唾液やすい液のアミラーゼで糖に変えて吸収する、ということでしょうか。調べたところ、このイモデンプンの糊化温度が70~75℃なのに対し、アミラーゼの活性温度が80℃程度のため、70~80℃という狭い温度範囲をキープしつつ、糊化が終了する1時間程度加熱を継続する必要がある、とのことでした。

電子レンジなどで急速加熱をしても甘くない焼き芋ができる原因は、
・短時間加熱のためにイモデンプンの糊化が不十分
・イモ内部の温度が80℃を超え、アミラーゼが十分に働かずに糖が作れていない
というこうことだったわけですね。

また、回答中で石の能力として挙げている二点(熱を蓄える能力・熱をイモに伝える能力)は、それぞれ体積比熱容量と輻射率という物性値で判断しました。熱容量は漢字そのまま、熱を蓄える容量を表します。手近なものでは石は密度が高く、熱容量も大きいほうだと言えます。石焼桶鍋もこの石の大きな熱容量を利用して、スープを一気に加熱させていますね。一方の輻射率は、熱を光として放出する効率を表します。黒い物体は日光で暖まりやすいのと同様に、蓄えた熱を光(例えば赤外線)として放出し、近くのものを温めやすいと言えます。そこで石焼き芋クラスタでは、一般に黒い石を使用しているのかと推察されます。以上から河原や海岸に落ちている黒っぽい石でも十分においしい焼き芋を作ることができるかとは思いますが、そのような石(特に堆積岩)は少なからず水を含んでおり、加熱によってひび割れ・飛び散りが生じるかもしれませんし、有毒な元素を含む石(特に火成岩)かもしれません。ご自身で試される際には、「石焼き芋に使える石」として販売されているものの中から比較するほうが無難かと思います。

上記の回答は以下の文献を参考にしております。特に焼き芋についての論文はインターネットから簡単に見ることができます。この成果がすでにレシピサイトでも使われているという点は、研究成果が社会へのフィードバックになかなかつながらない地球科学の視点からはうらやましい限りです。

参考文献:

<焼き芋について>

  • 桐淵壽子・久保田紀久枝(埼玉大学)「甘藷の加熱調理に関する研究(第1報)生成糖とβ-アミラーゼ活性」

  • 1976年松田寛子(東京海洋大学)「マイクロ波加熱によるサツマイモの糖度変化」2009年

  • 中村善行(食品産業技術総合研究機構 作物研究所)ほか 「サツマイモを蒸した際のマルトース生成に及ぼす塊根のβ-アミラーゼ活性およびデンプン糊化温度の影響」2014年

<石の熱容量データ>

  • Waples and Waples, 「A Review and Evaluation of Specific Heat Capacities of Rocks, Minerals, and Subsurface Fluids. Part 1: Minerals and Nonporous Rocks」 2000年