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カレーライス、ライチ入りヨーグルト風味。

最初の転勤先である某地方都市には、学生時代のサークル仲間が一人だけ近所に住んでいた。
お互い実家が離れていた事もあって、寂しさを紛らわすために仕事の合間を縫ってよく遊んだ事を覚えている。

遊ぶと言っても食事に行ってひたすらお喋りしたり、唯一在ったゲームセンターでバーチャロンをやったりバーチャロンをやったりバーチャロンをやっていた。いや、他のゲームも遊んでいたよ。ラストブロンクスとかファイティングバイパーズとか。
仕方ないよ、セガのゲームセンター位しか遊ぶ場所が無かったんだから。

生まれて初めてパチンコを経験したのも彼女と一緒だった。あっという間に三千円が消えた横で、溢れるばかりの球が排出されているのを見て、パチンコは二度とやらないと誓った事のもその頃。
そんな時代のお話。

彼女は料理が好きで、私もたまにご相伴に預かることが有った。基本的には美味しい、ただ稀にモンスターを産み出す。

私も一度だけその被害に遭った。

その日彼女が産み出した怪物はカレーライス。
普通に考えれば失敗しようがない代物だけど、何か味がおかしい。不思議な酸味を帯びている。
いただく立場として言いづらかったが、私は恐る恐る彼女に尋ねた。

「ねえ、これ。何か入れた?」
「ヨーグルトを入れたけど」

バターチキンカレーにヨーグルトは必須だし、今ほどカレー屋が乱立してなかった当時でさえ、隠し味として使う事は珍しくなかった。
それにしても何かおかしい。ヨーグルトの酸味とは別の異質な風味を感じる。

「そのヨーグルト、普通のやつ?」
「家に有ったから『ライチ入り』のを入れてみた」

はいぃ?

食べ進めていくうちに彼女もこの味はおかしいと気づいたようで、次にヨーグルトを入れる時は『普通の』ものにしようと意見が一致。いや、本来考えるまでもないことなのだけど。
それにしても味見をしてなかったのだろうか。今となっては真相は闇の中だ。

このカレーは彼女の職場の方にも提供されたらしく、どんな反応をされたかは私も知らない。
違和感を覚えたとしても、社員同士じゃ言いづらかっただろうなぁと、思い出すたびにチベットスナギツネのような目をしてしまうのである。

しばらくして私は転勤し、彼女も転職してその土地から離れた。たった二年間の在勤地だったが、彼女の存在が無ければかなり寂しい二年間だったと今でも思う。
あれから何度か会う機会は有り、ネットを介して細々と付き合いは続いていたものの、ある日Twitterからも消えてそのまま連絡が取れなくなってしまった。
彼女が元気であることを祈るばかりだ。

そして、二度とライチ入りヨーグルトをカレーには入れるな、と。


何やらサポートをすると私の体重が増える仕組みになっているようです