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【読書感想】この部屋から東京タワーは永遠に見えない。・麻布競馬場

何者かになろうとして、何者にもなれなかった人たちの物語。だと思っていた。

そんな甘ったるい物じゃなかった。

港区女子、パパ活、港区という住所欲しさに港区に住む男、Tinderで出会いまくる男女。清澄白河の2LDKに一人で住み、昔好きだったダサい男が結婚したことを鼻で笑い、全身ユニクロに染まり、流山おおたかの森に住むその男を見下す独身女。

東京への憧れから東京に出てきて、地元の人を見下すことでしか自我を保つことができずにいる人々。

既に自分たちがどんな境遇にいるのか悟っている者もいる。

おばあちゃんから預かった桃を捨てた時に河童と目があったという人物がいた、自分が捨てたのにも関わらず見られたという事実が生まれたことで芽生える罪悪感。

「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」

ニーチェ

そしてその登場人物の境遇を憐れみ、一つのストーリーとしてその境遇を消化する読者・自分。

その自分は果たして何者かになれるのだろうか。彼らの生活を蔑み、憐れんでいる自分は彼らと何の違いがあるのだろうか。

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