【非公式】第7期SF創作講座 第4回課題梗概「電影森林」

はじめに

早いものでSF創作講座も聴講生ですが、実のあるひと時を過ごせています。
第3回はサボってしまいましたが第4回は頑張って梗概を書きました。初回課題の実作もいつかは書きたいです。
ゲンロンSF講座については手前味噌で恐縮ですが、以下の記事にHPのリンクがありますので、ご興味があったら是非ご覧ください。
https://note.com/jagaimotobutter/n/n31dc0b1f8db7

第4回課題:最新技術をテーマにSFを書いてみる
梗概 「電影森林」


 森林管理官である柴崎徹は事務所の予定表を一瞥して思い出した。今日は閉鎖生態系の施設に勤める研究員が訪問する日だった。
 どうやら自分が管理を請け持っているブナ原生林をVIMに展開する景観サンプリングを行うそうだ。目的は森林教育のため──と記載されている。
 二十一世紀も末期となり、著しい気候変動はもはや食い止められない域にまで達した。世界は失われつつある植生を保存する計画に踏み切った。数年前の締約国会議COPでその枠組みが合意された中、今は実行に移る段階だった。徹も毎月配られるジャーナルでは各国がさまざな手法で取り組んでいることはよく知っている。その一環でVIMを用いた環境教育運動を推進していることも。

 VIM──『植生情報モデリングVegitation Infomation Modeling』とは簡潔にいうと植生帯に関する三次元の設計図のことだ。造林、造園、エコトーン再生と、さまざまな緑化事業のコンサルタントのために採用されたシステムだが、仮想現実のテクスチャに応用が効いてからは、利用の対象はほとんど娯楽に対してという風潮だった。壮年に差し掛かったばかりの徹だが、この立体図面の正当な使われ方に回帰したことに懐かしむほどの古風な人柄でもない。
 応接室で待っていると、約束の時間の五分前にノックが鳴った。職員の案内で入ってきたのは一人の女性。菅原美波と自己紹介した彼女が研究員その人だった。とても礼儀正しく、いつもやってくる横柄な態度のグラフィックデザイナーを比べたらかなりの好印象を徹はもった。

 美波が数台のドローンを放つと、それらは金属の蜻蛉のように空中を渡り歩く。樹木の合間を縫い、カメラとレーザーで極相林を幾何学的に光学的に固定していく。
 しばしの談笑の中、徹はつい口を滑らせてしまった。
「外面だけ捉えても、環境保全には本質的にはどのような意味があるのですか」 ほとんど本心だった。このような取組みが森林の保存にどのようにして繋がるのかが彼には理解しがたく、懐疑的な立場をとっていた。
 美波は、徹の予想と裏腹に首を縦にふった。
「確かに、この行為に本質的なことはないです。私たちが閉鎖生態系を管理するのと同じように。自然を完璧な形で閉じ込めるなんて夢物語です」
「では、この行為は一体、どのような意義が?」
「私たちの何世代後も続く、連綿とした『物語』を描くためだと思います」

 百年後。 
 博物館の資料室にいる青年はゴーグルを外す前の世界を想起していた。緑色に輝く落葉広葉樹林。それは高温化した地球においては閉鎖生態系のドームの下か、高緯度かつ高標高帯の僅かな場所しか残っていない。風に揺らめく闊達な木々たち。土壌に潜む膨大な微生物群。動物たちの関わりあい。それらはすっかり幻のようになってしまった。
 あの森林のモデルとなった森は少数の管理官のもと、今でも健在であるらしい。そのことを知ると青年は掻き立てられた。次の守り手は自分がなると。(1197文字)

内容に関するアピール

AI搭載ドローンによる森林内空撮(森林総合研究所:https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/saizensen/2021/20211006-01.html)と主に建築/土木で用いられている3D設計図BIM/CIMを最新技術というエッセンスをお話に組み込みました。林業は三代先を見る職業と言われるように、森林に関わることは必然的に未来を凝視することに変わりはありません。僕たちが現代からいなくなったところで、太陽は昇るし樹木たちは営みを続けます。そのような世代の連続性を実作では書いていきたいです(書けたら)。


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