自分の声を聞いたオタク

■自分の声はキモかった
会社でオンライン会議をしました。

うちの会社ではオンライン会議を録音して議事録代わりにしています。

こないだ、発言の内容を確認しようと録音した音声を聞き返したのですが、自分の声の気持ち悪さにゲロ吐きそうになりました。

自分の声がこんなにもネチャネチャした粘り気や、ボソボソした湿度があるとは思ってませんでした。

あと声が臭そうでした。

「録音した声と自分が思ってる声は違う」
という話はよく聞きます。
自分の中でも覚悟はしてました。

だから十分に引く体勢を整えていたのです。

そんな自分の覚悟をやすやす飛び越える気持ちの悪さでした。

考えすぎとか自分の思い込みというわけではなく、他の人が聞いても違和感のある声だと思っています。

昔、京都で遭遇した、八ツ橋大量発注事件を思い出したのです。


■京都で発声
大学生の頃、京都旅行の終わりにお土産を買いに行きました。

家で一人で食べる用の八橋がほしくて、京都タワーの売店を見ていました。

手ごろな八橋を見つけ、売店のおばちゃんにショーケースに入った八橋を取ってもらおうと声をかけました。

「すみません、この八橋を一箱もらえますか?」

指を差しながらお願いしました。

おばちゃんは何も言いません。
でもこちらをじっと見ていて、完全に目が合っています。

「あれ?聞こえなかったかな?」

不安な気持ちになっていると、一瞬間を置いて、おばちゃんは

「this?one?one?」

英語で聞いてきました。

ぼくは朗らかに発声したつもりでした。

でも僕の声はおよそ日本語とは思えないものだったのでしょう。
おばちゃんは僕を外国人観光客と勘違いしたのでした。

おばちゃんの勘違いを察しましたが、ここで

「日本人デス・・・」

と言うと、おばちゃんを傷つけることになります。

ぼくはとっさの機転で英語で答えました。

「イエスイエス!プリーズ!」

お会計までの間、外国人観光客に徹することに決めたのです。

ダメ押しに、レジ横の小ちゃな提灯のキーホルダーに興味津々な小芝居をして、日本文化が大好きな外国人観光客を演出しました。

おばちゃんを見ると、ノーリアクションで八つ橋を袋詰しています。

それどころか、頼んでもいないファミリーサイズのジャンボ八橋を袋に詰めしていました。

焦りました。

「それじゃなくて横のやつ!」

という言葉がぐっと喉まで出かかりました。

でも今日本人であることを明かすと、先ほどの小芝居が意味不明になります。

でも自分用のお土産が欲しかっただけで職場で配るようなジャンボサイズ八橋は困ります…。

そんなことを考えている間に、どんどんラッピングが完成していきます。

ぼくはどうするべきかめちゃくちゃに悩みました。

あまりのパニックにそこから記憶がなくなりました。


10分後、気がつくとぼくはファミリーサイズの八つ橋を持って、京都駅のホームに立っていました。

帰りの新幹線に乗りました。


旅行帰りの新幹線は貴重な時間です。

写真に撮った景色を見返したり、旅行先でのやり取りを思い出したり、旅行の振り返りの時間もまた、旅行の醍醐味と考えています。

しかしその日は違いました。

さっきの八橋事件のショックで頭がいっぱいで、感傷に浸る場合ではありませんでした。

車窓を見ながらさっきのやりとりを反芻して、何が悪かったのかを考えていました。

そんなことを考えていると、荷物置き場に入り切らず、膝に乗せていた八つ橋が床に落ちて、ズズズと前の席へ滑っていきました。

ぼくは大急ぎでいらない八ツ橋を匍匐前進で追いかけました。

「アァ、アノ!ゴメンナサイ!!」

2つ前の席の乗客の足元に突撃し、謝罪しながら地面に這いつくばって八ツ橋を回収しました。

もう、これはほぼ土下座でした。


「なんで僕ばかり損するんだ・・・。
お金がないから安宿を選んで必死で1000円浮かせたのに、なんで八ツ橋で溶かさないといけないんだ・・・。
まさか、あのおばさん観光客を狙った詐欺師か?」

被害妄想混じりで、そんなことを考えながら惨めな思いと八ツ橋を持ち帰り、ぼくの京都旅行は終わりを告げました。


「アッ、アノ!イッタンカクニンシマッス!!」

オンライン会議から聞こえてくる、ネチャネチャ、ボソボソ声は湿気がすごくて耐えられず、すぐに耳からイヤフォンを引き抜きました。

土下座に近い屈辱を味わい、京都のおばちゃんを呪ったこともありました。

でも、今考えると、完全に僕が悪いです。

京都タワーのおばちゃんに謝罪したい気持ちでいっぱいです。
ジトジトした6月に、ジトジトした思い出が蘇りましたね。

それでは!

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