辛い夜を乗り越える

小学生の頃の話。まだ残暑の厳しい9月でした。

その日は体育の授業で校庭に集められ、クラスのみんなで体育座りしながら先生の話を聞いていました。

当時の僕は、今の根暗では考えられないくらいガンガン笑いを取りに行くタイプ。その日も周りにちょっかいを出して、みんなを笑わせていました。

すると少し離れた列に並んでいたやんちゃな男子がこちらを見て笑っているのに気が付きました。僕のひょうきんな顔で笑っているのです。体を彼らの方に向け、おもしろ顔を見せつけてあげると、彼らは地面をたたきながら笑い転げました。

「僕はそんなにおもしろいのか・・・!?」笑いを取れた嬉しさから恍惚感を感じました。

しかしどうも変です。僕がおもしろ顔をやめても、彼らの方を見るのをやめても、彼らは腹を抱えて笑っているのです。何がそんなにおもしろいのか聞きたかったのですが、授業中だったので立ち歩く訳にもいかず、知らんふりを決め込みました。

すると、横の列に座っていた優しい友達のノボルくんが僕にこっそり耳打ちしてきました。

「金玉見えているけど、大丈夫?」

ノボルくんの指差した方向に目をやると、僕の左金玉が体操着の短パンから飛び出していました。

僕は、金玉が人より大きいタイプ。体育座りしていたことも災いし、大きな金玉が体操着の短パンから飛び出していました。俗に言う「はみタマ」です。

そう、僕はクラスメイトに金玉を出しながらおどけていたのです。

「彼らが笑っていたのは僕ではなく、金玉・・・?」

理解した瞬間、顔からサッと血の気が引きました。短パンからこぼれた、ご自慢の金玉もスススッとしぼんでいきます。

たしかにただの変顔では小学生言えど笑わないでしょう。しかし、ごきげんな小僧が、はみタマしながら変顔を見せてきたらそれは少しおもしろいと言えます。

僕は金玉が出ていたことより、それに気づかずに変顔をしていたことが恥ずかしくなりました。とっさになにか弁解しようと思いましたが、その場を切り抜ける返しは出てきませんでした。

ただ目に涙をぷるぷる浮かばせ、金玉をトランクスの中に片付けました。

そこから家に帰るまでどう過ごしたか、覚えていません。


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僕はその後の人生で、幾多も恥ずかしい場面に遭遇することになりますが、あの小学生の頃のことを思い出すと不思議と力が湧いてくるのを感じるのです。

「恥ずかしいことがあったら過去に戻ってやり直したい」

そう思うのが人間の常です。しかし、つらい出来事を乗り越えることで得られる強さもあります。

もし過去に戻ることができるのなら、僕はあの時の自分にこうエールするでしょう。

まず、人前で金玉を出すことから始めよ

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