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新卒で AWS に入るという選択肢 - Part 1.

はじめに

こんにちは、じゃが(@jagaimogmog)です 🥔
この度、3年間勤めた Amazon Web Services Japan (以後 AWS )を退職しました。

本記事は、主には以下の2つのモチベーションから執筆しています。

  • 新卒で AWS の Solutions Architect (以後 SA) に興味を持つ人が少しでも増えれば嬉しい

  • 忘れっぽいので、少しでも記憶が新鮮なうちに AWS での体験と学びをまとめておきたい

気の赴くまま書いていたら、読み辛い長さになってしまったので分割しました。

  • Part 1. AWS へ新卒入社した理由 + 新卒研修(前半)

  • Part 2. 新卒研修 (後半)

  • Part 3. 配属後の2年間

の3部作でお届けする予定です。(構成は変更する可能性あり)

詳しい転職の経緯は別途、転職エントリで書く予定です。転職の理由を一言添えておくならば、「入社前から AWS で3年働いたらスタートアップにチャレンジしようと思っていたから」です。

注意事項

  • 2022/06/14 時点の記憶・情報を元に執筆しました。内容は古くなっている可能性があります。最新の AWS の新卒採用について知りたい方は公式の採用ページをご参照ください。

  • 私の知り合いの方へ。すでに記憶がおぼろげなところもあるので、明らかにここは違うよ、という点を発見されたら教えてください。

私は誰か?

2019年、情報系の修士号を取得した後、AWS へ新卒2期生の SA として入社しました。AWS では一年の新卒研修のあと、スタートアップチームに配属され、主に医療系スタートアップのお客様の技術支援を担当しました。

その傍ら、ウェブアプリやモバイルアプリを高速に構築する AWS Amplify を世に広める活動をしていました。スタートアップや新規事業を始めるチームにとっての新しい選択肢になるといいなという思いが背景にありました。具体的には、Amplify の資料作成や公演、イベントの立ち上げ、コミュニティのお手伝い、社内メンバーの研修などを担当しました。

AWS とは?

AWS を初めて聞く、あるいは聞いたことはあるけど詳しくは知らない、という方向けに、公式ホームページの紹介文を引用します。

アマゾン ウェブ サービス (AWS) は、世界で最も包括的で広く採用されているクラウドプラットフォームです。世界中のデータセンターから 200 以上のフル機能のサービスを提供しています。急成長しているスタートアップ、大企業、主要な政府機関など、何百万ものお客様が AWS を使用してコストを削減し、俊敏性を高め、イノベーションを加速させています。

AWS(アマゾン ウェブ サービス)とは

AWS は Amazon のグループ会社のひとつです。本エントリでは、AWS に限らずAmazon 全体のカルチャーや仕組みについて触れるときは Amazonを。それ以外の場合は AWS という言い回しをします。

なぜ AWS に入ったか?

スタートアップの経営に興味を持ったことが、結果的に AWS の新卒入社に繋がりました。

スタートアップの経営に興味を持ったきっかけ

元々、知人が起業したり、大学のアントレプレナー講座を受講したり、プログラミングの知識をつけるためにスタートアップでインターンしたりする中で、裁量を持って働けるスタートアップへの就職に魅力を感じていました。

が、スタートアップの経営に興味が湧いたのは、修士1年の頃、毎日のように会話していたインターン先のスタートアップ COO に、「じゃがさんは自分で会社作ってみたらいいと思うよ、楽しいから」と、言っていただいたのがきっかけだったと思います。

これを機に、自分でスタートアップを経営して、仲間を集めて、社会的にインパクトのあることをやるのは楽しそうだな、という気持ちが芽生えました。

スタートアップの経営に携わるには?

経営とは言ったものの、なんの実績もない自分を経営幹部に取り立ててくれるスタートアップなど存在しません。では自ら起業すれば? となりますが、ここなら熱くなれる!という事業領域もピンときません。また、当時スタートアップエコシステムを欠片も理解しておらず、起業しても難しいだろうという予感がありました。

そんなとき、サマーインターンをした AWS の存在を思い出します。AWS にはスタートアップチームがあり、スタートアップの技術支援をしているという話を聞いたことがありました。実際に面接などで AWS の人と話す中で、

  • スタートアップエコシステムについて理解を深めたい

  • 幅広く様々なビジネスをみた上で、興味を持てる事業領域を探したい

  • 技術的な専門性を深めたい

という自分の期待値に、AWS はフィットしそうに思えました。反対に言えば、AWS 以外に自分のニーズを満たす環境はそうそうないように思えました。

まとめると、将来スタートアップで経営に携わってみたい、そのために AWS で経験を積みたい、というモチベーションから、AWSへの入社を決めました

新卒研修前半 - Tech U

座学と技術相談を繰り返して基礎体力をつける

基本的な SA の業務は、営業とペアを組んでお客様の技術支援を行うことです。技術相談では、可用性の向上、最低限のダウンタイムでの データベース移行、分析基盤の構築、セキュリティ対策、機械学習のビジネス適用など、幅広いトピックを扱います。

入社直後から「お客様と技術課題について話してきて!」と言われても…難しいです。(言われないのでご安心ください。) AWS には Tech U と呼ばれる、一年に渡るトレーニングプログラムが用意されています。

研修・育成プログラム(Tech U): AWS Tech Uは新卒を対象とした12か月のトレーニングプログラムです。修了後にはお客様に対して、柔軟かつ弾力性のある高いクラウドの知識を提供できるようになってもらいます。12か月のプログラムの中には、6か月間の座学と6か月の実践的なフィールドトレーニングの研修が含まれます。一年間を通してAWSの各領域のエキスパートから主要な技術を学ぶことでプロフェッショナルとしてお客様に向き合えるようレベルアップを図ります

新卒採用 - ソリューションアーキテクト | AWS Japan Recruitment

6ヶ月間の座学では、2週間ずつ、ネットワーク、 サーバレス、データベース、アナリティクス、機械学習、IoT、セキュリティ、など、様々なトピックについて学びます。前半一週間は講師による座学、後半一週間は最終日に実施される模擬技術相談の準備や、ホームワーク的な課題、先輩 SA のミーティングを見学を実施します。模擬技術相談では、先輩 SA をお客様役として、実際に技術相談を行いフィードバックをもらいます。座学と模擬技術相談を繰り返すことで、学んだ知識の定着と、ソフトスキルの向上を狙います。

研修前半で学んだことをアウトプットする

座学とフィールドワーク (以後 OJT) の間には、半年の座学の成果発表をする場が用意されています。一人で、または新卒同士でチームを組んで、3週間ほどかけてAWSを使ったプロダクトを開発し、先輩 SA に向けて発表と質疑応答をします。

多くの新卒 SA は取り組む課題を決めるにあたり、業務上の困りごとがないか、先輩 SA 向けにアンケート調査を行います。この背景には、Working Backwards の精神に則り、 PR/FAQ 執筆からプロダクト開発を始める、というTech U の特徴があります。

Working Backwards と PR/FAQ

"地球上で最もお客様を大切にする企業" である Amazon では、Working Backwards の精神を大事にします。Working Backwards は"お客様起点で考えること"を指す言葉であり、同時に、お客さまの体験から逆算してプロダクトを作るためのフレームワークでもあります。Working Backwards は以下の5つの質問から始まります。

対象となるお客様は誰ですか?
お客様が抱える課題や改善点が明確ですか?
お客様が受けるメリットは明確ですか?
お客様のニーズやウォンツをどのように知りましたか?
お客様の体験が描けていますか?

「あなたのお客様は誰ですか?」から始まるアマゾンの
イノベーションのメカニズム、その手法をハンズオン

この問をストーリー仕立てにわかりやすくまとめ上げるフォーマットが、PR/FAQ です。PR/FAQとは、PR (Press Release) + FAQ (Frequently Asked Questions) のことで、実際のプレスリリースやよくある質問を考え抜いて書くことによって、顧客がどのような価値を得るのか、誰が見ても分かる形に落とし込むことができます。
(補足: PR/FAQ は対外発表に使用するものではなく、社内での利用が目的です。)

これにより様々な関係者から低コストでレビューを受けることが可能になり、ビジネスアイデアをブラッシュアップしたり、支持(Endorsement)を得ることが容易になります。Amazon 社内の意思決定やディスカッションはドキュメントを介することがほとんどで、PR/FAQ はその一例です。

どんな課題を解くことにしたか?

最後に、私が成果発表で作成したプロダクトについてお話します。

同期と実施したアンケートで最も多かった回答の一つが、ワークショップ資料の管理が煩雑であることによる業務効率の低下でした。

AWS を実際に触って体感するイベントのことを、AWS では ワークショップや、ハンズオンと呼んでいます。例えば、 WordPress のウェブサーバーを冗長化する、Amazon Rekognition を利用して顔認識をしてみる、といった内容です。ワークショップ資料とはワークショップで使用される配布資料のことで、AWS を使ってワークショップの目標を達成するための手順が書いてあります。

SA は業務の一環として、ワークショップ資料を作成し、講師としてお客様に提供します。導入検討時にワークショップを通じて実際にお客様に手を動かしていただくことで、利用イメージが膨らみます。

AWS Workshops には様々なワークショップが掲載されています

当時、ワークショップ資料はパワーポイントで作成されていることが殆どでした。社内のドキュメント管理ツールで管理されているものの、どれが最新のバージョンかわからなかったり、メンテナンスが属人化してしまう問題、また資料をお客様に配布するのが大変、といった問題がありました。

どうやって課題を解いたか?

そこで新卒同期と私の2人で、マークダウン形式のファイル群が保存された Git リポジトリを登録すると、ファイル群をウェブサイトに変換してホストできるサービスを開発しました。マークダウンファイルを Git 管理することでバージョン管理とコラボレーションが容易になり、お客様への資料共有も URL を渡すだけになります。これが予想以上の反響をいただき、実際に現場で活用されることになりました。

これが Working Backwards で顧客の望むものを提供できたときの反響なのか!と高揚した感覚を覚えています。今でも有志の新卒 SA で構成されるエンジニアリングチームでメンテナンスしつつ、日本の SA に利用されています。

このように、プロダクト開発を通じて、 Amazon の根幹にある文化や仕組みを体感することができたことは、非常に価値があったと考えています。論より証拠で、ただ「顧客起点で動く会社」と聞いていた頃よりも、実際に顧客起点での開発経験を行った後のほうが、自分の思考に Working Backwards の精神が定着した感じがしました。

おまけ: Amplify との出会い

実は、これが初めての Amplify を利用した開発体験でした。当時フロントエンドもバックエンドも土地勘のない 2人。にもかかわらず、ほとんど一から Amplify を学び、3週間程度でサービスを完成に持っていけたことはかなりの衝撃でした。これが原体験となって、その後 Amplify を世に広める活動をすることになります。

また、このサービスは新卒研修後半の OJT で、US の開発チームと仕事をするきっかけにもなりました。Part 2. では US の開発チームでの経験についてお話します。

Part 2. に続く…



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