ジャフコトレンドスタディ【米国ヘルスケアスタートアップ事例研究】理系大学院インターン生による考察
インターン生の早舩です。6月16日に開催された【米国ヘルスケアスタートアップ事例研究】に私も参加させて頂いたのですが、とても興味深い内容でした!特に精神カウンセリングなどのメンタルヘルスケア業界に日米の文化の違いが大きく影響しているのではないか?という切り口は面白いと思いました。
もし勉強会にご参加しなかった方はこちらの要約記事をご覧ください!
ただヘルスケア業界についてもっと詳しく知りたい!とも個人的に思ったので、私なりに調査し、勉強会の補足資料としてnoteを書くことに決めました!
今回の記事の2つのポイント!
1. 生体信号は悩みの種が多い💦
1.1 はじめに
ヘルスケアと聞いて、ヒトの心拍データなどの生体信号を利用して健康状態をチェックするデバイスをイメージする方も多いのではないでしょうか? 病気のリスク軽減など、常に自身の体を監視することによるメリットはとても大きいと考えられます。
また、世界のウェアラブルヘルスケアデバイスにおける将来の市場規模予測のレポートを見てみると、
との記載が見受けられ、今後も市場の伸びが期待されていることが伺えます。
そしてその将来の市場を左右する要因として以下のような点が挙げられるとの記載も見受けられました。
ただ、少し身の回りを見てください。個人的な意見ですが、病気の予防というメリットがとても大きいにも関わらず、健康状態を生体信号レベルでチェックするデバイスが身の回りに意外と普及していないのではないでしょうか?(確かにAppleWatchなどのデバイスは存在していますが、健康チェック目的で利用している方が私の周りにはそれほど多くはない印象です。)
本章は、デバイスが身の回りに意外と普及していないという体感に対して、私なりの市場にマイナスに働く要因としての主張が考えられたので、それらを具体的に記述していこうと思います。
先に結論から述べると、市場にマイナスに働く要因として生体信号はデータ取得と解析(機械学習)が難しいということが挙げられるのではないかと考えています。先のジャフコトレンドスタディの勉強会でも
という内容がありました。以降、この要因について更に深掘って行きたいと思います。
*本章は私自身の大学院での生体信号と機械学習に関する研究活動と、2022年6月に開催された第36回人工知能学会に出席した際に得られた知見を元に作成しています。
1.2 生体信号のデータ取得と解析が難しい理由の概要
まずは生体信号のデータ取得と解析(機械学習)が難しい主な要因をデータ取得と解析に分けてピックアップし、その後1つずつ詳細を述べていきます。
以上の内容は、まさに機械学習におけるボトルネックの集合体とも言っても過言ではありません。生体信号以外でも問題になっている内容が詰まっており、人工知能学会においても研究者の方々の悩みの種でした。
1.3 データ取得の難しさについて
良い解析や機械学習を行うためには、いかに綺麗なデータを多く解析するかということにかかっています。ノイズや欠損が多く入っているデータでは、どうしても精度が落ちてしまいます。生体信号についても同様ですが、実際は綺麗なデータがそう多く取れるという訳ではありません。
(機械学習がよく分からないという方は、ある現象のパターンを機械に学習させていると認識すると良いかと思われます。パターンを学習するためには、学習元のデータが間違っていると上手く学習できませんよね!)
①データに様々なノイズや欠損が混入してしまう
例えば、腕で測る脈拍(*1)を見てみましょう。脈拍は心拍データを反映しているものですが、心電図(*2)と比較してみると、どうしても心臓から腕が遠い分、遅延が生まれる上、生体内の様々な信号に混ざり、ノイズや欠損が生まれてしまいます。(そもそも心電図でもノイズは混ざります)
更にウェアラブル端末は激しく動くので、かなり大きくデータの値が変わってしまいます
ただ正直このようなノイズや欠損が発生することは仕方がない側面も存在するので、現在は前処理として、様々な統計処理を施して、できるだけデータの特徴を抽出しやすいようにしています。
②デバイス装着に(精神的にも肉体的にも)嫌悪感を持つ方が多い点
これはよく記事になっているとも思いますが、やはりウェアラブルデバイスを装着する事は負荷がかかります。時計型であれば負荷は比較的小さいですが、脳波測定の為のヘルメットや身体にシールをつけるなどといった事はやはり嫌悪感を持つ方が多いと思います。(VRゴーグルでさえも装着したくないという方は多いですよね)
更に、個人情報の扱いに関しても問題になっています。自身の生体データを見られたくない、また知りたくないという方もいるかと思います。確かにドロドロの豚骨ラーメンを食べて気分が良い時に、健康状態の悪化を知らせるアラートが鳴ったら少し嫌な気分になるかもしれません。
1.4 解析(機械学習)の難しさについて
①サンプルとして取得できる量が限定的な点
例えば、心房細動の例を考えてみましょう。心房細動とは、心房といわれる心臓の上の部屋が小きざみに震え、十分に機能しなくなる不整脈のひとつです。これらのデータを十分に収集するには、病院などの医療機関と連携する必要がある上、普段から頻繁に起こる現象でもないため、どうしてもデータ量が小さくなってしまいます。そしてデータ量が小さいと機械学習の精度が出ないという結果になってしまいます。
②入力となる信号が高次元で、対象現象の表現の特定が難しい点
少し難しい内容になるので簡単に触れるだけにしますが、ある生体現象のパターンを機械学習で学習させたい時、入力の生体信号が心拍1つではなく例えば心拍と体温など複数にまたがる場面がしばしば存在します。その場合、特徴ベクトルが高次元となり学習が難しくなる問題があります。そのため次元圧縮をしなければいけない場合が多いですが、そうすると逆に対象現象がきちんと表現できなくなってしまう可能性があります。
③個人差が強く、比較が難しい点
生体信号は個人によって平均が異なります(体温など)。更に、その個人の体質によっても病気のかかりやすさが異なるという特徴もあります。それゆえ、ある人のパターンが他の人に当てはまるか否かが不透明です。よって、全ての人に当てはまるような汎用的なモデル精度の評価が難しく、その個人に合ったモデルを適応させるという手段を取ってもデータが足りないというジレンマに陥ってしまいます。
.5 最後に
2. メンタルヘルスケア業界のサービス例
先の勉強会で、メンタルヘルスケア業界で日米の差が大きいとの内容がありましたが、実際にどんなサービスがあるかという具体的な事例が気になったので、現在までに1億ドル以上調達しているサービスの例を2つピックアップして紹介致します!
2.1 Headspace(瞑想アプリ)
概要
設立:2010年
主なサービス提供地域:アメリカ
調達金額:$215.9M
サービス概要:瞑想アプリ、日々のメンタルケアサービス等の提供
皆さんの知り合いで、習慣的に瞑想をしている方はいらっしゃいますか?私の周りには少ないですが、ちらほら見かけるといった印象です。瞑想することによってリラックス効果が得られ、良い心身状態を保つことができると言われています。しかし、瞑想をした事がない!という方も多いと思われるので、一度以下のHeadspace公式のミニ瞑想プログラムの動画をご覧になってはいかがでしょうか?雰囲気を体験できると思います。
参考文献
①Newspicks
②Headspace HP
2.2 Lyra Health(オンラインカウンセリング)
概要
設立:2015年
主なサービス提供地域:アメリカ
調達金額:$910.1M
サービス概要:メンターマッチングとオンラインカウンセリング
オンラインカウンセリングについては、勉強会でも少し言及していましたが、ターゲットを法人にしていたり、女性向けにしていたり、細かい差異はあるものの、基本的にビジネスモデルはシンプルなものです。このサービスもHeadspaceと同じく法人向けにサービスを展開している点が面白いですね!なんとStarbucksも本サービスを数千人の従業員とその家族に対するメンタルヘルスの福利厚生として提供しているそうです。
参考文献
①Health Watch
②Lyra Health HP
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