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ジャフコトレンドスタディ【米国ヘルスケアスタートアップ事例研究】理系大学院インターン生による考察

インターン生の早舩です。6月16日に開催された【米国ヘルスケアスタートアップ事例研究】に私も参加させて頂いたのですが、とても興味深い内容でした!特に精神カウンセリングなどのメンタルヘルスケア業界日米の文化の違いが大きく影響しているのではないか?という切り口は面白いと思いました。

もし勉強会にご参加しなかった方はこちらの要約記事をご覧ください!

ただヘルスケア業界についてもっと詳しく知りたい!とも個人的に思ったので、私なりに調査し、勉強会の補足資料としてnoteを書くことに決めました!

今回の記事の2つのポイント!

生体信号(心拍・脳波など)はデータ取得も解析も難しい💦
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米国では法人が瞑想アプリやオンラインカウンセリングを導入して
従業員に提供している

1. 生体信号は悩みの種が多い💦

1.1 はじめに

ヘルスケアと聞いて、ヒトの心拍データなどの生体信号を利用して健康状態をチェックするデバイスをイメージする方も多いのではないでしょうか? 病気のリスク軽減など、常に自身の体を監視することによるメリットはとても大きいと考えられます。

また、世界のウェアラブルヘルスケアデバイスにおける将来の市場規模予測のレポートを見てみると、

2021年の162億米ドルから、2026年には301億米ドルの規模に成長し、予測期間中のCAGRは13.2%を示す見通し

MarketsandMarkets
Wearable Healthcare Devices Market by Product
より改変

との記載が見受けられ、今後も市場の伸びが期待されていることが伺えます。

MarketsandMarkets
Wearable Healthcare Devices Market by Product
のデータより筆者作成

そしてその将来の市場を左右する要因として以下のような点が挙げられるとの記載も見受けられました。

市場にプラスに働く要因
・COVID-19による健康意識の高まり
・生活習慣に関連する慢性疾患の急速な増加
市場にマイナスに働く要因
・ユーザーがウェアラブル機器を使用する際の高いメンテナンスコスト

Fortune Business Insights
Wearable Medical Devices Market Size, Share & COVID19 impact Analysis
より改変 

ただ、少し身の回りを見てください。個人的な意見ですが、病気の予防というメリットがとても大きいにも関わらず、健康状態を生体信号レベルでチェックするデバイスが身の回りに意外と普及していないのではないでしょうか?(確かにAppleWatchなどのデバイスは存在していますが、健康チェック目的で利用している方が私の周りにはそれほど多くはない印象です。)

本章は、デバイスが身の回りに意外と普及していないという体感に対して、私なりの市場にマイナスに働く要因としての主張が考えられたので、それらを具体的に記述していこうと思います。

先に結論から述べると、市場にマイナスに働く要因として生体信号はデータ取得と解析(機械学習)が難しいということが挙げられるのではないかと考えています。先のジャフコトレンドスタディの勉強会でも

脳波モニタリング(診断補助)は、日米ともに上場企業なし(現状、マーケットが広まっていない)

ジャフコトレンドスタディ【米国ヘルスケアスタートアップ事例研究】
講演内容をざっくり紹介より

という内容がありました。以降、この要因について更に深掘って行きたいと思います。

*本章は私自身の大学院での生体信号と機械学習に関する研究活動と、2022年6月に開催された第36回人工知能学会に出席した際に得られた知見を元に作成しています。

1.2 生体信号のデータ取得と解析が難しい理由の概要

まずは生体信号のデータ取得と解析(機械学習)が難しい主な要因をデータ取得解析に分けてピックアップし、その後1つずつ詳細を述べていきます。

データ取得の難しさ
①データに様々なノイズや欠損が混入してしまう点
②デバイス装着に(精神的にも肉体的にも)嫌悪感を持つ方が多い点

解析(機械学習)の難しさ
①サンプルとして取得できる量が限定的な点
②入力となる信号が高次元で、対象現象の表現の特定が難しい点
③個人差が強く、比較が難しい点

以上の内容は、まさに機械学習におけるボトルネックの集合体とも言っても過言ではありません。生体信号以外でも問題になっている内容が詰まっており、人工知能学会においても研究者の方々の悩みの種でした。

1.3 データ取得の難しさについて

良い解析や機械学習を行うためには、いかに綺麗なデータを多く解析するかということにかかっています。ノイズや欠損が多く入っているデータでは、どうしても精度が落ちてしまいます。生体信号についても同様ですが、実際は綺麗なデータがそう多く取れるという訳ではありません。

(機械学習がよく分からないという方は、ある現象のパターンを機械に学習させていると認識すると良いかと思われます。パターンを学習するためには、学習元のデータが間違っていると上手く学習できませんよね!)

①データに様々なノイズや欠損が混入してしまう

例えば、腕で測る脈拍(*1)を見てみましょう。脈拍は心拍データを反映しているものですが、心電図(*2)と比較してみると、どうしても心臓から腕が遠い分、遅延が生まれる上、生体内の様々な信号に混ざり、ノイズや欠損が生まれてしまいます。(そもそも心電図でもノイズは混ざります)

(*1) ここでいう脈拍は正確に述べると、容積脈波という光学センサーを使用して、赤血球の量を測定して算出するものを示しています。(AppleWatchもこの測定方法をとっています)
(*2)心電図は心臓の鼓動に起因する電気信号を測定するものです。

更にウェアラブル端末は激しく動くので、かなり大きくデータの値が変わってしまいます

ただ正直このようなノイズや欠損が発生することは仕方がない側面も存在するので、現在は前処理として、様々な統計処理を施して、できるだけデータの特徴を抽出しやすいようにしています。

②デバイス装着に(精神的にも肉体的にも)嫌悪感を持つ方が多い点

これはよく記事になっているとも思いますが、やはりウェアラブルデバイスを装着する事は負荷がかかります。時計型であれば負荷は比較的小さいですが、脳波測定の為のヘルメット身体にシールをつけるなどといった事はやはり嫌悪感を持つ方が多いと思います。(VRゴーグルでさえも装着したくないという方は多いですよね)
更に、個人情報の扱いに関しても問題になっています。自身の生体データを見られたくない、また知りたくないという方もいるかと思います。確かにドロドロの豚骨ラーメンを食べて気分が良い時に、健康状態の悪化を知らせるアラートが鳴ったら少し嫌な気分になるかもしれません。


筆者のつぶやき
このような点を解決する1つの方法として、もう少しヒトの身体内にコミットする方法が挙げられるのではないかと考えています。現在は身体外からの非侵襲計測が多い印象ですが、身体内でもう少しピンポイントで測定することが可能になれば、データの精度自体は良くなるかもしれませんね!


1.4 解析(機械学習)の難しさについて

①サンプルとして取得できる量が限定的な点

例えば、心房細動の例を考えてみましょう。心房細動とは、心房といわれる心臓の上の部屋が小きざみに震え、十分に機能しなくなる不整脈のひとつです。これらのデータを十分に収集するには、病院などの医療機関と連携する必要がある上、普段から頻繁に起こる現象でもないため、どうしてもデータ量が小さくなってしまいます。そしてデータ量が小さいと機械学習の精度が出ないという結果になってしまいます。

②入力となる信号が高次元で、対象現象の表現の特定が難しい点

少し難しい内容になるので簡単に触れるだけにしますが、ある生体現象のパターンを機械学習で学習させたい時、入力の生体信号が心拍1つではなく例えば心拍と体温など複数にまたがる場面がしばしば存在します。その場合、特徴ベクトルが高次元となり学習が難しくなる問題があります。そのため次元圧縮をしなければいけない場合が多いですが、そうすると逆に対象現象がきちんと表現できなくなってしまう可能性があります。

③個人差が強く、比較が難しい点

生体信号は個人によって平均が異なります(体温など)。更に、その個人の体質によっても病気のかかりやすさが異なるという特徴もありますそれゆえ、ある人のパターンが他の人に当てはまるか否かが不透明です。よって、全ての人に当てはまるような汎用的なモデル精度の評価が難しく、その個人に合ったモデルを適応させるという手段を取ってもデータが足りないというジレンマに陥ってしまいます。

.5 最後に


筆者のつぶやき
以上のような内容が、実際生体信号を主に使用しているベンチャー企業が抱えている苦悩の1つだと思います。特に脳波はかなりノイズが多く、私の知り合いも苦労していました。それゆえ、脳波モニタリング(診断補助)のマーケットが広まっていないという理由も納得ができる気がします。
更に、このような悩みの種があるので、AndroidとiOSの両方に対応して、生体信号が取得できるアプリケーションがAppleWatchとFitbitくらいしかなく、少しカスタマイズしようとすると自分でアプリを開発するしかないと、あるベンチャー企業の方も嘆いていました。もう少し多くの精度良いデータが簡単に手に入る環境が整えば、ウェアラブル端末市場はもっと加速していくのではないでしょうか?



2. メンタルヘルスケア業界のサービス例

先の勉強会で、メンタルヘルスケア業界で日米の差が大きいとの内容がありましたが、実際にどんなサービスがあるかという具体的な事例が気になったので、現在までに1億ドル以上調達しているサービスの例を2つピックアップして紹介致します!

2.1 Headspace(瞑想アプリ)

概要

設立:2010年
主なサービス提供地域:アメリカ
調達金額:$215.9M
サービス概要:瞑想アプリ、日々のメンタルケアサービス等の提供

皆さんの知り合いで、習慣的に瞑想をしている方はいらっしゃいますか?私の周りには少ないですが、ちらほら見かけるといった印象です。瞑想することによってリラックス効果が得られ、良い心身状態を保つことができると言われています。しかし、瞑想をした事がない!という方も多いと思われるので、一度以下のHeadspace公式のミニ瞑想プログラムの動画をご覧になってはいかがでしょうか?雰囲気を体験できると思います。


筆者のつぶやき
私自身も体験してみましたが、正直に申し上げて瞑想した後にリラックス効果が得られたかと言われると、あまり効果が実感できませんでした💧
しかしGoogle Playのアプリストアでは星4.7もの評価が付き、レビューを見ても高評価の意見が多かったので、かなり効果を実感している方も多いと考えられます。
米国では瞑想アプリを使用している方が多いようですが、個人的には企業が導入して従業員の精神的回復力の獲得や、ストレスへの対処に役立て生産性の向上に繋がっているという部分が面白いと感じました。実際にGoogleなどの名だたる企業が取り入れています。
また、日本でもヨガや瞑想を朝のルーティンに取り入れている企業をちらほら見かけるので、今後日系企業がこのようなメンタルヘルスアプリを積極的に取り入れていくと、瞑想アプリが普及する可能性もあるのではないでしょうか?


参考文献
①Newspicks

②Headspace HP


2.2 Lyra Health(オンラインカウンセリング)

概要

設立:2015年
主なサービス提供地域:アメリカ
調達金額:$910.1M
サービス概要:メンターマッチングとオンラインカウンセリング

オンラインカウンセリングについては、勉強会でも少し言及していましたが、ターゲットを法人にしていたり、女性向けにしていたり、細かい差異はあるものの、基本的にビジネスモデルはシンプルなものです。このサービスもHeadspaceと同じく法人向けにサービスを展開している点が面白いですね!なんとStarbucksも本サービスを数千人の従業員とその家族に対するメンタルヘルスの福利厚生として提供しているそうです。

参考文献
①Health Watch

②Lyra Health HP

※本記事の内容の一部は、信頼できると考えられる公開情報に基づき作成しておりますが、その正確性を保証するものではありません。また、記載した見解は、必ずしも会社の立場、戦略、意見を代表するものではありません。掲載された内容によって生じた直接的、間接的な損害に対しては、責任を負いかねますので、ご了承ください。

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