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英文学の書き出しその3:「クリスマス・キャロル」

こんにちは。こんばんは。

「英文学の書き出し」とうとう三回目まで到達できました。
まだ三回目なのに、正直言ってネタが尽きそうです。3回目でネタが尽きるってどういうこと?!って言われそうですが、理由は著作権。まだ初心者なもんで、どこまで引用しちゃって良いのか分からなくて怖いので、どうしても著作権切れの古い作品をえらびたくなります。それでどうしても作家や作品が限定されてしまいますが、頑張ってひねり出します。

ということで今回の作品はイギリスの小説家チャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」(著作権切れ!)です。「クリスマス・キャロル」は1843年に出版された中編小説で、今も世界中で読まれているクリスマスの定番小説。この名作は奇妙な語り出しから始まります。

Stave I
"Marley's Ghost"

Marley was dead: to begin with. There is no doubt whatever about that. The register of his burial was signed by the clergyman, the clerk, the undertaker, and the chief mourner. Scrooge signed it: and Scrooge’s name was good upon ‘Change, for anything he chose to put his hand to. Old Marley was as dead as a door-nail. Mind! I don’t mean to say that I know, of my own knowledge, what there is particularly dead about a door-nail. I might have been inclined, myself, to regard a coffin-nail as the deadest piece of ironmongery in the trade. But the wisdom of our ancestors is in the simile; and my unhallowed hands shall not disturb it, or the Country’s done for. You will therefore permit me to repeat, emphatically, that Marley was as dead as a door-nail.

A Christmas Carol|Charles Dickens

本文に入る前から気になる点があります。
それは”Stave”という言葉。
普通に第一章と書きたいなら”Chapter”を使えば良い所を、敢えてこの”Stave”を使ったのはなぜでしょうか。
そもそも”Stave”という単語には音楽で五線譜の一つ一つの線という意味があります。
一つ一つの章を五線譜になぞらえることで、すべての章が合わさって一つの歌、すなわちキャロルを作っているという印象を作り出しているのです。

ではいよいよ本文。部分的に抜粋して話をします。
Marley was dead: to begin with. There is no doubt whatever about that.
「始めに;マーリーは死んでいた。これに関しては何の疑いの余地もない。」
この一番最初のパラグラフで作者が伝えたい事実は一つのみ。
「マーリーが死んだ」ということです。それなのにこれだけ長々と念押しのように読者にとっては初耳のマーリーという人物が死んだことが如何に絶対的な事実かが伝えられています。
The register of his burial was signed by the clergyman, the clerk, the undertaker, and the chief mourner.
「埋葬の登録は牧師、書記、葬儀屋、喪主が記名したのだ。」
次に物語の主人公がさりげなく登場します。
Scrooge signed it: and Scrooge’s name was good upon ‘Change, for anything he chose to put his hand to.
多くの人がこの文章の意味をすぐには理解できないと思います。なぜなら” ’Change ”が紛らわしいからです。これは「変化」という意味ではなく、実は取引を意味する”exchange”の略で、この文脈では株の取引きを意味します。(難しい表現ですが、現代ではexchangeをこう略すことはほぼないのであまり気にする必要はないかと思います。)現代どう思われるかは分かりませんが、当時は株主のサインには相当の信頼性があり、またもやマーリーの死を強調しています。ここまで死が強調されているわけで、章のタイトルも「マーリーの幽霊」ですから、この後のストーリー展開は大方想像がつくでしょう。
Old Marley was as dead as a door-nail. Mind! I don’t mean to say that I know, of my own knowledge, what there is particularly dead about a door-nail. I might have been inclined, myself, to regard a coffin-nail as the deadest piece of ironmongery in the trade. But the wisdom of our ancestors is in the simile; and my unhallowed hands shall not disturb it, or the Country’s done for.
この文章に特に重要な意味はありませんが、ユーモラスな文章でおもしろいと思います。簡単に意味を説明すると、英語には”Dead as a doornail”という慣用句があり、直訳するとわかるように「鋲釘の如く死んでいる」という言い回し自体特に意味はなく、deadとdoornailが同じdで始まって語呂が良いだけのことです。
 そのため、ディケンズは「でも鋲釘のなにが死と関係あるのか分からないよね~」「どっちかというと棺桶の釘のほうが『死』って感じするよね~」「でもこれは昔からある言い方だから、まぁ使ってもいいよね~」みたいな感じでだらだらと書いています。この中身のない話を間に挟み、改めて主張を繰り返します。
You will therefore permit me to repeat, emphatically, that Marley was as dead as a door-nail.
マーリーはどっからどう見ても死んでいるらしいですが、実際はどうなのでしょうか。それについては読んでからのお楽しみに…

今回はチャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」の書き出しを見てきました。いかがだったでしょうか。

来週もお楽しみに。

参考文献など

"What does "stave" mean in the novel A Christmas Carol?" eNotes Editorial, 5 Nov. 2017, https://www.enotes.com/topics/christmas-carol/questions/what-is-the-actual-definition-of-stave-in-the-571638. Accessed 10 Mar. 2024.

https://www.ibiblio.org/ebooks/Dickens/Carol/Dickens_Carol.pdf

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