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虫愛づる2

兄さんは椰、弟はグァバ、わたしは虫で(ひとりっきりで)野原へ帰る

虫の物語を書く。また異界譚かと言われる。しかしこれは異界譚ではない。
いかにも異界譚を繰り広げるようなふりをして、実は、単純な私小説のようなものでもあって、なんのことはない、いつかどこかで失ってしまった自分を、喪なわれてしまった自己を、苦心惨憺の上、異界を彷徨ったり、過去と現在をワープしたりした上で、どうにか取り戻すという物語なのであると言われる。しかしこれは私小説ではない。ありふれたテーマ、ありふれた自己再確認の物語が、こんなにもまわりくどく、そして奇妙で不思議で、読み手の脳を特製の毒で痺れさせるような物語に仕上げられてしまう。まあいいさ、読み手としてはこんなものもあんなものも丸ごと引き受けて、充分に楽しめるくらいの度量があるってものさと言われる。しかしこれはそうではない。そうではないのだが。

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