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水仙の花に変身するまえに薔薇を渡しておけばよかった 芦雪の薔薇図を見た。襖絵の画面は二分…
篝火の方へ逃げ去る金色の甲虫とっても金色である (承前) 掌をひろげると、甲虫はまだそこ…
きみがラジオをつけるといつも美しい水が流れる一分間だけ テレビは、家電工場の製造ラインに…
おそろしき詩形なるかな足元の猫のしっぽのはてなのかたち でも、誤解しないように。この三…
たき火って十年ぶりだ弟のコグマ月の輪から燃えてゆく あなたは裏庭にいろんなものを埋める。…
なによりも気を散らされるのが好きだったブリキの月のぎしぎし昇る いつも歌ばかり歌っている…
この歌がいちばんいい歌、その次の歌ができるまでのあいだは 彼は、今、歌を頭にかぶっている。歌には花模様が描かれている。歌をかぶった理由は、ひょんなことからである。くだらない理由である。少年らしい理由であると言えなくもない一方、歌を脱げないのに理由はない。ただ脱げないのである。 物語の結末は至って単純だ。病院に行って取ってもらおうとした瞬間に歌が割れて取れてしまうというのだから。大人には、物足りないくらいと言ってもよい。せめて、割れた歌からはいっぱいの宝物が出てきましたとさ、
コーヒーの空き缶を蹴る(この惑星の)川の水はわたしを楽しく見つめかえす 作品集には、次の…
物置と化した生家の味噌部屋の奥にちいさきものらの気配 あなたは、手土産を買いに行く。少し…
ひんやりと触れる左の耳朶に二つの星を引っかけている 悲しみにくれたり打ちのめされたりした…
循環バス二十三回乗り継いだけどまだ海に辿り着かない 海は比喩ではないです、まんま海。原初…
硝子扉をひらけば夜の匂いたつ書棚にシェヘラザード眠れり 勿論、ホールデン・コールフィール…
完璧な手土産とでも言いたげにテイクアウトのスターバックスラテ・ショート・桜ブロンド 一人…
電線のなかは静まりかえりこの夜の呻きを光に換える 厚手のボウルの中で線が湯気を立て、時折ぴしゃぴしゃ音を立てていた。 ぼくは皿に一ポンドの線を取り分け、一パイントのソースをかけ、十個分のレモンをしぼって線とテーブルと自分の服に均等にふりかける。それは、どちらへいらっしゃるんですかを、どこまでも行くんですを、そんな会話を、ぼくの眼前にちらつかせる、星の夜。