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自助という名の地獄(3)

前回・前々回の記事で、日本が目指している自助社会の実現のためには、それを支援するプロフェッショナルが必要不可欠という話をしてきました。

ところで、今年の老人週間(9月15日~9月21日)に、私どもの年中無休電話相談サービス『お困りごとホットライン』を過去3年以内に利用したことのある後期高齢者100名を対象に、電話による意識調査を行いました。

質問したのは「終活、やってますか?」の1点のみです。その結果、9割の後期高齢者が本来の終活をしていないことが判明しました。併せて、終活に係る意識は、大きく4つのタイプに分類されることが見えてきました。

それは、わかりやすく言ってしまえば、終活していない人たちの「履き違え型・先送り型・能天気型」と、(及第点レベルではありますが)終活していると回答した人の「断片型」です。で、この4タイプの比率は、「履き違え型:先送り型:能天気型:断片型=4:3:2:1」となっています。

履き違え型は、せっかくエンディングノートを書いても、内容について子どもと共有されていない。話題にするだけで記録もとっていない。遺言作成や葬儀予約イコール終活という誤解をしている。ロートル法律屋が運営する身元引受・身元保証会社に数百万円もの預託金・保証金を託して「これでもう安心だ」等と高をくくっている…。

先送り型は、ハッキリ言って、まさかは突然やってくるという認識が欠落している。能天気型は、根拠なき楽天家としか言いようがない。そんな感じです。

また、及第点の人たちも、みな終活の一部を手掛けただけにとどまっていて、エンディングまでの想定リスクすべてにそなえている人は皆無でした。

特に警鐘を鳴らしたいのは、履き違え型40名のうち、高額の預託金・保証金を支払って終活を終えたかのような勘違いをしている数名の人たちです。

実は、数百万円の保証金や預託金の代わりに身元保証や死後事務を受託するビジネスには、預かったおカネに手をつけてしまうといったスキャンダラスな匂いが漂っています。過去にいくつもの詐欺事件がありました。

いわゆる「おひとりさま」や、親子関係上の問題で子どもを当てにできない高齢者がターゲットになるわけですが、そもそも天涯孤独の人の場合、認知症になった場合のことや、死んだ後のことなど考える必要はありません。

必要がないというと語弊がありますが、少なくとも子どもたちに迷惑をかける心配はありません。ご近所や地域に手間をかけさせることにはなるでしょうが、そういう孤立無援な人たちを救ってくれるのが国の仕事(共助・公助)であるはずです。

最悪、近くの役所か病院まで這って行ってそこで倒れさえすれば、その後はベルトコンベアーのごとく円滑に事が運びます。いずれにしても、余生を過ごすための貯えを見ず知らずの専門家もどきに渡してしまうなど考えられないことです。すでに冷静な判断能力が失せているといっても過言ではありません。正直、その神経が理解できませんが、その手の話を迂闊にも信じてしまう人がいるというのは驚愕の事実です。

可愛いわが子に過度な負担を強いぬよう、仮にそうした団体や法人に自助を支援してもらおうというのであれば、両者間には長い時間をかけて醸成された信頼関係が絶対的に必要不可欠です。

契約を結んでおカネを払ったが最後、以降「まさか」が起きるまで顔を合わせないなどというのは論外です。でも、これがほとんどなのです。

最低でも月に一度は(様子伺いや安否確認の意味もかねて)時間を共有し、ひとりの人間同士として友人のような関係にまで高めていかない限り、預託金の持ち逃げリスクを低減できません。

判断能力と意思疎通能力が確かなうちに一緒になって老後設計のプロセスを担ってもらい、加えて、「まさか」が起きた時の同行や代行や、わが子と密に連携して対処してもらう旨、必ず書面で確約をとるようにしてください。

これは親子関係においても言えることです。わが子が思春期を迎えたころから長年かけて離れていった心の距離。これを一朝一夕に埋めるのは無理があります。意識的に接触頻度を高め、(くだらないバカ話や説教ではなく)実のある話を積み重ねていくことです。

とくに注意すべきは、老後の支援だけをあれやこれや頼んでおいて、そのために必要となるコストや引き継いでもらう財産の話を一切あきらかにしないこと。それでは、子どもの側にも親の老後を支えようという覚悟が定まりません。

人生の幕引きは自助だけでは成り立ちません。親は子の助けなしに、自分ひとりで死んでいくことはできないのです。そのことを肝に銘じて、親子の絆を取り戻す創意工夫に取り組むことをおすすめします。

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