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僕と演劇:感謝を込めて

昨日は、第18回演劇ワークショップ「Jack Out the Box」~風~を開催しました。全国各地から10名がオンラインで集まり、午後のひとときを共にしました。まだまだ言葉にならないところが多いのですが、自分にとってもすごく心に響く場だったので、湧いてきた気持ちを書き留めておこうと思います。

演劇に救われた

私が演劇に出会ったのは、アメリカへ留学したばかりの19歳のとき。世界の平和を願って国連職員を目指すと同時に、半ば逃げるようにアメリカへわたり、自分探しをしていた。

それまで、僕は、いわゆる「優等生」であり、学校の成績はよく、進学校へ行き、「東へ行け(東大を目指せ)」の号令を聞きながら勉強と運動に励んでいた。ただ、大学受験を控え、親や先生の期待に応えている自分と、本当は何がやりたいのかわからなくなる自分がいて、目的意識を持てぬまま受験し、合格は得られず、アメリカへわたることを決めた。

大学で演劇を専攻していた先輩に出会い、芯が強く自分の信念をもって生きる姿に憧れた。その先輩が脚本・演出をした卒業演目を観に行き、稲妻が走るような衝撃を受けた。舞台上の役者は、私がこれまで出会ってきた人よりもはるかに感情を表現し、身体を動かし、のびのびとイキイキと生きていた。「彼らのようになりたい」「彼らと一緒に学べば、自分の気持ちとか思いっきり表現できるようになるかな」そんな希望を胸に演劇に興味を持った。本当に演劇を専攻にするかは1年くらい悩んだが、わざわざアメリカに来てやりたいことをやらなければ意味がないと思い、オーディションを受け、演劇専攻として学び始めた。

パフォーマンスコースに属したため、昼は演技・動作・発声を中心とした授業を受け、夜はリハーサルないし本番。いつも誰かと一緒に練習をしたり、一緒に舞台をつくり上げる経験をし、自分を活かしている感覚や躍動感、そういった生きるエネルギーみたいなものを感じながら、日々夢中で過ごしていた。学年では唯一の留学生だったものの、あたたかく見守ってくれる教授やクラスメイトのおかげで、本当に充実した時間を過ごすことができた。思い返すほど、その感謝は大きくなっている。本当にありがとうございます。

こうして、僕は演劇に出会い、「自分の考えをもって、自信をもって述べること」「さまざまな感情を味わい、表現すること」など、多くのことを体験から学んだ。自分の人生にとっては、演劇に救われたと心から思っている。

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演劇を社会性を持ったものにしたい

大学3年生の時、私のことを特に気にかけてくださっていた教授が「Nao、ワークショップをやってみたらどう?」と声をかけてくれた。「ワークショップですか・・・。それってどうやってやるんですか?」最初はそんな反応だった。留学生の自分が、後輩に演技の指導やスキルの共有をするなど思ってもいなかったし、そもそもワークショップってどういう準備をして、どうやって運営すればよいのかもイメージがつかなかった。

教授は、目的・内容・進め方といった、今では自分のなかにも落とし込まれているプログラム構成の組み方を教えてくれ、相談に乗ってくれながら、プログラムを準備して、やってみることとなった。

実際にワークショップをやってみて、とても楽しかった。参加された人が、何かをつかんで、笑顔になって帰っていくのがとてもうれしくて、その体験が、今の研修やワークショップの活動の原点となっている。

そういったワークショップを重ねながら、「演劇はコミュニケーションの結晶だ」「演劇のさまざまなエクササイズやトレーニングは、きっとコミュニケーションスキルを高めることにつながるに違いない」という思いが生まれてきて、卒業プロジェクトは、チームワークを高めるプログラム、コミュニケーション力を高めるプログラムを作成した。

僕自身も、日本にいたときは、演劇は学校の学芸会や文化祭で触れた程度で、自分の生活に溶け込んだものではなかった。しかし、自分が学んで、体験してきて、これはみんなにとってきっと役に立つものだ!役立てたい!かつ、演じるってハードルが高そうに見えるけど、もっと身近にやってみることができる!という思いが強くなり、大学卒業時は「演劇を社会性を持ったものにしたい」という思いを持っていた。

芸術のような高尚で手が届かないものでもなく、エンターテイメントのような娯楽に留まるものでもなく、私たちの心・身体・生活を豊かにしてくれるものとして、もっと気軽にやってみる機会を作っていきたいと思いを持った。

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目の前の人のために精一杯演じる

社会人となり、上京して演劇から離れたものの、1年くらい経って、また演劇をやりたい気持ちが湧いてきた。とはいえ、大学卒業時の思いとして「よりインタラクティブな演劇がしたい」という思いもあり、どのような演劇をやりたいか、あまり見当がついていなかった。
当時、勤務先のパートナーでもあったインプロを企業研修に取り入れていた会社の無料セミナーに勉強のために参加させていただいていたところ、名刺に「プレイバックシアター」と書かれた方と出会い、「僕、演劇がしたいんです!」とお伝えしたら、「ワークショップやってるのでおいで」と誘っていただいた。何も知らずに行った先で出会ったのがプレイバックシアターだった。

プレイバックシアターは、その場に参加されている方のストーリー(出来事・気持ち)を聴き、アクターとミュージシャンが即興で演じて(Play)、語った方にお返しをする(back)劇のことを指す。ウォームアップのゲームがとても楽しくて、大学時代の楽しい気持ちを思い返すことができたし、即興で演じるなんて無理だと思っていたけれど、実際に演じる際に、語った方が目の前にいらっしゃることで、集中力が研ぎ澄まされ、深い海に潜るような、どこか「無」のような感覚を味わった。一生懸命演じた後、語り手に視線を向けた時に、そのストーリーを噛みしめ、感動されている姿を見て、自分も心が動いた。役作りをして舞台に上がり、洗練された演技・芝居を見せるのではなく、演技の上手・下手ではなく目の前の方のためにただ皆で協力して精一杯演じる、それによって語り手・観客が何か受け取ると同時に、演じさせていただいたアクター・ミュージシャンも受け取る。
そんな相互の助け合い・かかわり合いが生み出す場のあたたかさは、社会におけるセーフティネットのようなイメージが想起され、ワークショップの場は、明日への活力を得る宿り木のような場だなあと感じた。

プレイバックシアターには、「Social Change(社会変容):一人一人のストーリーから、社会の歪みをよくしていく」という目的があり、この願いは私が国連職員を志した際の「世界平和」を、演劇を通じて足元から実現していくものだと実感し、スクールオブプレイバックシアター日本校に通いながら、研鑽を積み始めた。

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尊重と感謝が生み出す奇跡

時間は飛んで、昨日のワークショップに戻る。

昨日のワークショップは、還暦を超えた人生の先輩から社会人になりたての若手まで、幅広い年代の人が参加した。
ストーリーを演じる際やワークショップの最後のシェアリングまで、場で語られること・起こることを尊重して受け取り、お互いのかかわりに感謝を述べる瞬間に多く立ち会った。

私は、からだが浮かぶようなふわふわとしたあたたかい気持ちになった。老若男女が、世代や立場を超えて、その場に心を寄せ、お互いに精一杯ベストを尽くし、こんなにそれぞれの存在がもたらすことに感謝を伝え合うなんて、なかなかないんじゃないかと。
きっと、ワークショップに参加されていた方は、年齢とか立場とかそういったことを意識せず参加されていたと思うのだが、皆がいるからこそ生まれた幅と深みのある重層的な場に、ただただ胸がいっぱいになった。

また、今回のワークショップは、私自身のターニングポイントとも言える大切な時間にもなった。それは、私が以前所属させていただいていた劇団の諸先輩が、私のワークショップに興味を持って参加してくださったことだった。私の未熟さゆえに、当時迷惑をかけてしまったこと、その後はなかなか一緒に場を過ごす時間を持てなかったことを思い返しながら、伸びやかな演技や美しい音楽に触れながら、懐かしい気持ちとともに、またこうして一緒に時間を過ごせることを本当にうれしく思った。

一人ひとりの存在がもたらすもの、お互いにかかわりあうことで生まれるもののパワフルさに、身の回りのことが小さく見えるような広がりを感じ、生きることは素晴らしいと強く感じる時間となった。

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ストーリーが組織にもたらす意味を探る

私は企業研修を提供する会社に勤めており、社内やお客様にプレイバックシアターを活用した場を提供することを模索している。

実際にお客様の研修で実施させていただいた際にも、参加者から「研修の目的は何か?」「演じることや自分のストーリーを他者と分かち合うことの目的は何か?」といった質問を受けた。プレイバックシアターそのものの成り立ちや目的、テラー・アクター・ミュージシャン・コンダクターと各役割でどのようなことを受け取れる・感じ取れるのか、それらが実務にどのように接続するか、といったことを整理して伝えることは必要であると感じた。
特に、プレイバックシアターは、分解していくとかなり複数の要素が入り混じった「総合格闘技」的な側面もあり、文脈のつくり方などもいろいろできる分、何に絞り込むかといったことを重要だ。

プレイバックシアターでは「ふつうの人が語るストーリーに叡智が宿る」と言われているが、例えば社内の同じ部署のなかでストーリーを分かち合い、そのストーリーに潜むエッセンスを受け取るといったまなび方を、どのように体感的に得ていくか。それは、プレイバックシアターを活用することだけでなく、相互学習・体験学習のプロセスを学んだ行くことと併せて必要なのかもしれない。

プレイバックシアターをずっとやっていることで、私のなかで暗黙の前提となっていることを自覚して丁寧に説明することや、どのような目的で、どのようなプロセスで、企業のビジネス活動においてプレイバックシアターを活用していくかをより明確にしていくことなど、引き続き試行錯誤をしながら取り組んでいきたいと思う。

アルー株式会社 プレイバックシアターについて(Youtube動画)

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さいごに:道は続く

プレイバックシアターに出会った直後から、「一生やろう!」と思い、これまで約10年間取り組んできた。ビジネスシーンにおいての試みも、種をまいて5年間かけて芽が出たところなので、これから育てていきたいと思っている。プレイバックシアターにも、場づくりにも終わりがない世界ですし、私はこの自分に一番あった表現方法で、自分とみんなの幸せをつくり出していきたいと思います。

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