100回の議論ではなく、1つのプロトタイプが開発組織を強くした話
「隣のチームは短期間で多くのリリースをしてるのに、うちらは前に進んでいない…」
年初、そんな焦燥感が僕のチームには漂っていた。
しかしあれから4ヶ月が経った今、メンバーが主体的に動き、背中をあずけ合いながら前進する強いチームに変わった実感がある。
なぜ短期間でチームが変わったのか。
今回は、アウトカムがなかなか出せず停滞していたチームを、1つのプロトタイプが救ってくれた話をしようと思う。
希望に満ちたチームのスタート
Gaudiyでは、2023年末にプロダクト戦略の変更とそれに付随した組織改変があり、僕はPdM1人 + デザイナー2人 + エンジニア2人で構成される、ユーザー初期行動の促進を目的としたチームに所属することとなった。
チーム発足当初は、新プロダクト戦略の中でも中核となる部分を担うチームだったこともあり、全員が希望に満ちていた。
新戦略の方向性について何度も議論をしてスタートダッシュを切れたし、リモート主体組織であるにも関わらずチーミングのために出社したりもした。
「このチームでプロダクトを前に進めるんだ」
僕もいまだかつてないモチベーションを持っていた。
しかし、徐々に雲行きは怪しくなった
それから3週間。
キックオフ系イベントは一通り終わったものの、まだ具体的な新プロダクトの開発はスタートしていなかった。
「戦略も変わったばかりだし、戦術なんてそんなすぐに決まらない」と、この時はまだ余裕を感じていた。
そして、この期間はFigmaのリファクタリングや既存機能の軽微改修を進め、エンジニアは今後負債となりうる箇所の改修などを実施していた。
そんな調子で最初の1ヶ月が終わろうとしていたある日の朝会のこと。僕は何かを感じ取った。
「具体的なリリースを1ヶ月出していないこの状態で大丈夫か…?」
そんな不安がチームの中に漂い始めたのを初めて察知したのだ。
さらに追い打ちをかけた意思決定
不安を抱え始めながら迎えた2月。チームの状況に追い打ちをかける出来事が立て続けに起こった。
1. 戦略の方針転換
これまで練っていた新プロダクト戦略は、去年末に立てた仮説の延長線上にあるものだったが、検証の結果、さらに方針を変えるという結論になった。
1月は具体開発こそ前に進まなかったものの、戦略議論は十分にしていたので、ようやく2月から開発が始まると思っていた矢先の出来事だった。
「今月も1月と同様、リリースが何もできない1ヶ月になってしまうのか?」
そんな不安がまた、ふと頭をよぎった。
2. UXデザイナーの異動
戦略の方針変更に付随し、UXデザイナーの異動も決定した。
これまで体験設計の中核をなしていた方であり、さらにチームの雰囲気作りには欠かせない存在だったUXデザイナーの異動。
不安は募るばかりだった。
結局、この2ヶ月間はアウトプットよりも戦略議論の時間が圧倒的に多く、アウトカムに繋がるようなリリースは少ない状態が続いてしまった。
そして迎えた3月
チームから年初に持っていた【希望】は失われてかけていた。
さらに、隣のチームの活躍が焦りを加速させた。
このチームは開発速度が早く、「この短期間でそれ間に合いますかね?」という開発をすべて予定通りにリリースさせ、すでに複数の検証が同時に回っている状態だったのだ。
しかし焦れども、目立ったアウトカムを出せないまま2ヶ月間を過ごしてしまった負債は想像以上に大きく、開発は思うように前に進まなかった。
課題の表面化
そんな2月下旬のある日、1on1でPdMがこう伝えてくれた。
「このアウトカムが出ない状態が続くと、チームの雰囲気はさらに悪化しそうだと思っています…毎日議論しているのに前に進まないこの状況を僕1人ではどうにもできそうにないです…」
それからというもの、チームのこと・お互いのこと・プロダクトのことを本音で深夜まで話し合った。翌日にはチーム全体にその内容を伝え、2時間以上意見をぶつけ合った。
この2ヶ月間のアウトプットは成果に繋がっていないこと
戦略や戦術の解像度がバラバラであったこと
その状況に目を瞑り、思っていることを伝え合わなかったこと
2ヶ月経って、ようやく全体で課題の認識が合った。
(前回のnoteにも書いたが、思いを正直に伝えてくれるメンバーがGaudiyに多いのは本当に良い文化だと思う)
しかし、その後も解決策を見つけようとチームで様々な議論をしてみたが、なかなか状況は変わらず、悶々とした日々は続いた。
「オタクのワイ、推し活からアイディアを得る」
さて。話は変わるが僕は生粋のアイドルオタクだ。
チーム課題を解決すべく議論を繰り返していたある日、ふとXを眺めていると推しが「手紙を書いてくれるのって、実は一番嬉しいことなんだよね!」といった内容のポストをしていた。
と同時に、生誕祭で推しに手紙を出した際、内容について相談していたオタク友達に言われたことがフラッシュバックした。
オタクA:「Jackさ、構成や内容をうちらにLINEで相談するより、伝えたいことあるんだから、いっそのこともう下書き書いちゃえば?」
オタクB:「雑でもいいから形になってた方が相談乗りやすいし、形にして見たからこそわかる気づきもあるんじゃない?」
一瞬でビビッときた⚡️
そうだ! 毎日の議論や複雑な要件も、全部プロトタイプのように可視化すれば、見えてくることが増えて開発が前に進むかも!?
1つのプロトタイプがチームを救ってくれた
それから僕は、可視化できそうなものは全てプロトタイプにすることを意識した。
プロトタイプは、一般的に体験レビューやユーザーインタビューとしての利用用途が多い。しかし、今は戦略議論もまだ続いている段階で、それより前のフェーズでチームは停滞している。
であれば…その戦略や仮説までも構造化→可視化して、プロダクトじゃないけど一連のプロトタイプにしてみりゃいい。
そんな気概で、要件定義が決まったデザインタスクに対してはもちろん、ほぼ何も決まっていないような戦略に対しても、「形にした方が早くない?」って思えるものはなんでもすべて可視化してみることにした。
…すると、チームの状況は一変した。
【構造化・可視化されたもの】が存在することで、それを叩き台にして誰でもコトに向かって意見を言いやすい環境ができた。
結果としてチームでの議論がさらに活発になり、要件定義やUIデザイン制作の時間が圧倒的に短縮された。
それをアップデートし続け、全員がそのプロトタイプにいつでもFigmaやnotionからアクセスできる状態を作ることで、認識統一の速度が格段に早くなった。
また、そんな状況が1週間も続くと、役割に関係なく「この目の前にある課題を良くしよう」と意見を出すことがアタリマエになり、さらに開発速度は向上したのだ。
【なんでもいったんプロトタイプにしてみる】という意気込みでやっているので、かなり雑なプロトタイプを共有してしまうこともあったが、
「こうして可視化して早い段階で話せることで、僕たちも動きやすくなってて助かってます!」
とエンジニアが伝えたくれたことも励みになったし、プロトタイプを使った議論が日常になったことでチームでの会話量も自然と増え、こうした本音の会話が増えたことが雰囲気の活性化にも繋がった。
「このプロトタイプを見れば、今取り組んでいることの最新状態が常に可視化されている。そして、それを全員で良くしていきたいよね!」
プロトタイプが長く停滞していたチームを救ったのだ。
構造化と可視化がデザイナーの強み
言われてみりゃ当たり前のことだ。
「Design」は「設計」を意味する言葉であり、複雑な情報を構造化し、視覚的にユーザーに伝えるのがデザイナーの仕事なんだから。
でも、僕はそれをすっかり忘れていた。
どこかしらかで「POが戦略を決めてくれるまで待とう」、「エンジニアがよしなにやってくれるだろう」と思っている節があったと反省した。
そして、この何でも構造化・可視化する動きは、どんな開発規模で働くデザイナーにもできることだと思う。
ビジネス要求が複雑な場合は、「今の要求を構造化して図解してみると、こんな感じになりそうです」とプロトタイプを作って議論の土台とする
クライアントとの認識統一に難航している場合は、「このままリリースされるかはわからないですが、今の議論内容だとこんな感じのサービスになりそうです」とプロトタイプを作って見せてみる
要件よりも先にデザイナーやエンジニアにアイディアがあるなら、プロトタイプを先に作ってPdMと一緒に要件を作りにいく
ちょっと強引だが、具体的な体験設計やUIデザインではなくとも、複雑でゴールが見えないものは何でもデザイナーが構造化・可視化してみると、全員が同じものを見て解像度を高くもちながら会話ができるので、話が早いなと今は思っている。
「100の議論より、1のプロトタイプ」だった
チーム発足から、たくさんの戦略議論をしてきた。
チーミングが大事だと思い、たくさんの会話を心がけた。
課題が明確になってからも、朝会を延長してたくさんの意見を交わした。
しかし、100の議論をしても、チームはあまり前に進まなかった。
そして、デザイナーの自分だからできることはないか?と、複雑な状態のものはなんでもプロトタイプにしてみた。
それは、俗に言う【デザインプロトタイプ】の形をしているものもあれば、そうではなく、今の状況や情報を構造・可視化しただけのものもあった。
そのアクションは、チームで登る山(ゴール)と、それを阻害する谷や川(課題)を可視化することとなり、全員が同じ目線を持ちコトに向かって議論をするチームの礎となった。
そして、今まで抱えていた【議論はするけどゴールが見えずに前に進めない】状況が改善され、多くのタスクが一気に前進した。
プロトタイプの存在が、チームの原動力であるメンバーの主体性を生んだのだ。
「チームに必要なのは、100の議論よりも1のプロトタイプだった。」
この経験で僕は、「デザイナーは構造化や可視化が得意な職能だけど、デザイン制作時以外そのことを忘れてしまいがちだな」と思った。
そして、この能力は開発における全てのフェーズで生きる大きな武器だと改めて実感できた。
あくまでもこの事例は僕の【小さな1つのアクション】だ。このアクション含め、メンバー全員が「自分ができること」を考えて行動し続けた結果、チームの停滞状況を打破できたんだと思う。
これからも引き続きチームでさらなる成果を出し、Gaudiyが目指すビジョンを最速で達成したいと思う。
ぜひ気軽にお話しましょう!
そんな試行錯誤を繰り返しながらも、グローバルで戦えるプロダクト作りに日々邁進してるGaudiyにご興味がある方、ぜひ気軽にお話しましょう!
もし良ければSNSフォローもお待ちしています!
🐤 Xアカウント(Jack): https://twitter.com/yonejiroo
あっ、エンタメ大好きなあなたへ。推し活が仕事につながりましたよ💪