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Episode2 「お年寄りの国〝日本〟、若者の国〝フィリピン〟」

出国の思い出

前回、フィリピンに辿り着くまでの経緯をご紹介しました。その後、紆余曲折を経て、フィリピンの首都マニラで働くことになりました。

勤め先は介護や福祉とは全く関係ない業種ですが、この地で腰を据えて日比を繋ぐシニアビジネスを模索するために、フィリピンの地で働くことを決断しました。

さて、出国の数日前に、私がフィリピンで働くことを知った大学時代からの友人が会いに来てくれました。開口一番、「生きて帰って来いよ」と言われ、彼が小脇に抱えていた紙袋を手渡されました。中には、何の変哲もないTシャツが一枚、無造作に入っていました。

「フィリピンに行ったら、服なんて買えないだろうから」

と真顔で言う彼は、フィリピンには世界でも最大級の大きさを誇るショッピンモールがいくつもあることを知らないのだろう。日本人が、フィリピンという国を正しく理解していないことを如実に物語っている、思い出のワンシーンです。

フィリピンの首都マニラの様子

最初に、私が活動している首都マニラについて簡単に説明をします。マニラは、国内の政治・経済の中心として機能し、1千万人を超える人口を抱えている大都市です。

特に中心地であるマカティには、高層ビルや巨大ショッピングモール、高級ホテルなどが立ち並び、貧しい国というイメージを持つ日本人を驚愕させるのに十分な迫力があります。

前述の友人には申し訳ないのですが、Tシャツが欲しければ、ユニクロで購入することもできます。

フィリピンの大きな魅力の1つに、若者が多いことが挙げられます。この国の平均年齢は23歳で、日本の平均年齢45歳と比べると、大人と子供くらいの違いがあります。

マニラを歩いていると、たくさんの妊婦に出会います。この国のビジネス街にはお腹の大きな女性がそこかしこで働いています。新しい命が次から次へと誕生するフィリピンは、まさに若いエネルギーで満ち溢れています。

一方、世界最速で最高齢国にのし上がった日本は、背中を丸めた高齢者で溢れかえっています。平日の昼間に電車やバスに乗ると、高齢者専用車両に乗ってしまったのかと勘違いしてしまうほど、まぎれもなく日本は高齢社会に突入しています。

「お年寄りの国から」遊びに来た〝お年寄り〟

そんな「お年寄りの国」から、私の知人がマニラに遊びに来ました。彼は60代前半でリタイアし、悠々自適の生活をしています。英語が堪能なため。英語圏であれば自由に生活することができます。そこで、フィリピンでのリタイア生活を検証するべく、マニラにやってきたのでした。

彼がマニラでの生活を始めて2週間くらい経ったある日、一緒に食事をしないかと声を掛けてみました。彼にどこで食事をしたいかと尋ねてたところ、ショッピングモールにあるフードコートとの答えが返ってきました。

せっかく一緒に食事をするのだから、ちゃんとしたレストランはどうかと提案しましたが、彼はフードコートでの食事を強く主張しました。仕方なく、人ごみでごった返す休日のフードコートで待ち合わせ、1食100ペソ(200円)くらいのフィリピン料理を食べることになりました。

フードコートでの食事風景

案の定、フードコートは人で溢れかえり、空いている席を探すのもひと苦労でした。やっと席に着き、一息ついている彼に、なんでこんな騒々しいところを選んだのか尋ねてみました。すると、

「この騒々しさがいいのです」

という。そして、怪訝な顔をしている私に周りを見るように促してきました。仕方なく視線を上げてみると、隣では子連れの若い夫婦が、家からタッパーに詰めて持ってきたご飯と、フードコートで購入したおかずを囲んで、一家和気あいあいと食事をしています。

後ろを覗いてみると、10代の女の子グループが、紙コップに入ったジュースを片手にみんなで大声で笑いながらおしゃべりをしています。

テーブル横の狭い通路には、食事に飽きた子供たちが走り回ってキャッキャと騒いています。

そんなフードコートの喧騒を眺めていると、ふと、私が小さい頃に、よく母親に連れていってもらったデパートの屋上遊園地を思い出しました。私が幼稚園だった頃だから20年以上も昔になります。そういえば、いつからか日本のデパートから屋上遊園地が姿を消してしまいました。

そんな自分の幼少時代のことを取りとめもなく考えていると、彼がフードコートを選んだ理由を説明してくれました。

「ここにいると若いエネルギーが得られるのです」

という。確かに、食事をする場所としては騒々しくて落ち着いていられませんが、この喧騒と雑踏の中から湧き上がる人々の熱気は、その空間にいる人達を元気にしてくれるパワーがありました。

最近、日本では老人ホームに幼稚園や保育園を併設するという話をよく耳にします。これは、元気いっぱいの子供達との交流を通じて、お年寄りの単調な日常生活に彩りを与えること、また、子供たちも、親以外の他者から豊富な知識を得ることで人間形成の良い土台創りとなること、このような相乗効果を期待しての取り組みかと考えられます。

核家族化が進む日本では、社会が意識的に作り上げなくてはお年寄りが子供や若者と交流することが難しくなってしまったようです。

お年寄りの国「日本」、若者の国「フィリピン」

話を戻して、マニラのとあるフードコート。60代の知人は、騒々しいが活気に満ちたこの空間での食事をすることで、食物からの栄養素だけではなく、周りの子供たちや若者たちからのエネルギーを同時に摂取しているようでした。

そう考えると、彼が選択したフードコートでの食事は、贅沢なランチだったのではないでしょうか。平均年齢45歳の現在の日本ではなかなか味わうことができないからです。

今回、彼との食事を通して「お年寄りの国」日本にとって、フィリピンの可能性を実感することができました。平均年齢23歳と若く活力のあるこの国は、成熟した日本が失いつつある、元気を与えてくれるのではないでしょうか。

「お年寄りの国」日本と、「若者の国」フィリピンが交わる点にビジネスの可能性があると確信した出来事のひとつでした。

Written in October 2013

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