見出し画像

「日中学生交流の今と未来」日中学生会議×京論壇 座談会【日中新世代対話 登壇者インタビュー③】

2022年12月22日(木)19時50分から豊島区民センターホールで開催される「日中新世代対話 Dialogue & Synergy」。イベントに先立って、ここではパネルディスカッションに登壇するゲストパネラーへのインタビューを掲載します。最終回は日中学生交流を推進する団体から2名の代表を招き、JACCCO youthメンバーと行った座談会の模様をお届けします。


「分からないからこそ、もっと知りたい」

JACCCO youth 最初に各団体の自己紹介をお願いします。

勝隆一 「日中学生会議」で企画・渉外を担当している勝(かつ)と申します。日中学生会議は1986年に結成した学生団体で、日中両国の学生で合宿やイベントなどを実施し、相互理解のための交流を行っています。特に合宿は結成当時から続く伝統の1つで、毎年8月に3週間かけて開催します。参加者は興味のある分科会に参加し、日中英いずれかの言語を使用して議論を重ねます。また、開催国側の学生が相手国の学生を連れて企業訪問をしたり、観光案内したりすることも、合宿の目玉行事になっています。

 合宿以外にも、さまざまな人に中国を深く知ってもらいたいとの思いから、単発の交流イベントを不定期で実施しています。今年は「ガチ中華」「中国のIT事情」といったテーマで交流イベントや講演会を開催しました。合宿と各イベントの参加者を合わせると500人近くになります。

「日中学生会議」企画・渉外担当 勝隆一さん

丸山晴樹 「京論壇」代表の丸山と申します。京論壇は2005年に東大生と北京大生が本気で議論をすることを目的に結成された学生団体です。その年、小泉純一郎元首相の靖国神社参拝を受けて、中国では日本に対する大規模な抗議活動が発生しました。当時、のちに京論壇を創設した東大生が北京に留学していて、知り合いの北京大生に「こんな時だからこそ、お互いに腹を割って議論したい」と持ちかけたのが京論壇の始まりだそうです。今は毎年、両校の学生が相手の大学を訪れ、1週間滞在し、分科会ごとに徹底的に議論します。

「京論壇」代表 丸山晴樹さん

Jy そもそも勝さんと丸山さんが中国に興味を持ったのはなぜですか?

勝 私は生まれが広東省の広州市なんです。2歳までそこで暮らし、その後に東京に来ました。私が中学生だった頃に、周りのクラスメイトが中国のことを悪く言っているのを何度も耳にしたんですね。彼らは中国に行ったこともなかったので、「どうしてそんなことを言うんだろう」と疑問に思い、やがてそうした現状を前に「自分に何ができるだろう」と考えるようになって、日中交流に深く関わり始めました。

丸山 僕は勝さんと違って、そもそも中国とは何の縁もなければ、特別に強い関心を持っていたわけでもないんです。京論壇の特徴の一つに「英語で議論する」というのがあって、漠然と国際交流に興味があった僕は、その点に惹かれて京論壇に加入しました。

Jy 国際交流に興味があったということは、中国は〝外国のなかの1つ〟くらいの認識だったのでしょうか。それでもあえて中国を選んだのには何か理由があったのですか?

丸山 強いて言うなら、中国の政治や経済を前にした時に感じる〝圧倒的な他者性〟に興味があったんです。つまり、中国は日本とは全く異なる仕組みで国家運営をしていて、その違いに強い関心を抱きました。

Jy〝分からないからこそ、もっと知ってみたい〟というのは興味深い視点ですね。お二人は活動を通して同世代の中国人学生と交流する機会が多くあると思いますが、彼らと接する中で強く感じることは何ですか?

丸山 先ほど、日本と中国の違いがきっかけで中国に興味を持ったと話したのですが、北京大生と交流していると「意外と自分たちと近い価値観を持っているんだな」と感じることが多いです。近い価値観というのは、たとえば、ファッションなど普段の生活に関することから、それこそ政治や経済の話まで、価値観や考え方に意外と共通点が多いなと感じています。

勝 丸山くんの意見には同意するところもあるのですが、一方で日中学生会議の活動をしていると、特に中国人の学生は議論を根底からひっくり返したり、日本人の学生とは全く異なる切り口で議論を始めたりすることが多いなと感じています。日本人だけのグループで話していると議題に対して現状肯定的な議論に終始することが多いのですが、そこに中国人学生が加わると、議論が急速に進んでいく感覚はあります。

多層的に存在する日中関係

Jy 普段から日中交流をしているお二人の目には、今の日中関係はどう映っていますか。

丸山 「どのレイヤーの話をするか」によって大きく変わってくるのではないかと思います。ニュースで取り上げられる政治や経済を介して見る中国は、僕たちが普段、文化交流をしている時に見える中国とは大きく乖離しているという印象が率直にあります。

勝 同感です。学生同士に関して言えば、日中関係は極めて良好なのではないでしょうか。もちろん学生同士の交流なので、政治から距離があったり、利害関係が生じにくかったりするという事情が働いているのもあるでしょう。また、2000年以降に生まれた今の大学生たちにとって、自分たちが小さい時から中国はすでに経済大国としての地位を確立しているという印象が強いんです。要するに中国を経済的な競争相手としてあまり見ていないということです。その分、若い人たちの方が中国のカルチャーなどに目が行きやすいのではないかと個人的には思っています。

Jy 学生同士の交流には利害関係が生じにくいというのは先日取材した佐野史明さんも仰っていました。若い人に向けて、「社会人になったら、利害関係を含めて、中国人ともう一歩深い関係を築いてみよう」という趣旨のことを仰っていました。

丸山 色々な形の交流があるのが理想だと思うんですよね。たとえば、京論壇に参加する学生には、「政治や社会問題などの真面目な議題について、真剣に議論を交わしたから仲が深まった」と感じる人が多いんです。でも、一般的に人が仲良くなる時ってもう少しソフトな話題から入りますよね。そういう意味では京論壇は少し浮世離れした団体なのかもしれませんが、1つの交流の形を示せているのではないかと思います。

勝 交流のあり方に関連して、私が最初に話した中学のクラスメイトの件にも言えますが、やはりもっと直接の往来を増やすことが大切ではないでしょうか。中国に対して断片的な情報しか持たない日本人は多いですし、一方の中国人も日本に対して必ずしも正しい認識を持っているとは限りません。まずは自分の目で直接相手の国を見つめて、そこから人と人との交流が始まるのが理想だと思っています。

日中学生会議の活動の様子


学生交流は学生団体だけのもの?

Jy 今年は日中国交正常化50周年で、22日のイベントには〝次の50年の日中交流をデザインする〟といったテーマも盛り込まれています。日中交流を行う学生団体の立場から、お二人の考えを聞かせください。

丸山 僕は「成り行きで中国に興味を持ってしまった」くらいが実はちょうど良いのではないかなと思っているんです。誰でも好きなものは必ずありますよね。そこをきっかけに中国に興味が生まれれば良いのではないかなと思います。

勝 私でしたらやっぱり「食」かなあ。飲茶が自分のソウルフードなので。色々な「ガチ中華」を推していきたいですね。

丸山 僕は言語が大好きで、実は小学生の頃は『漢字辞典』を読み物として好んで読んでいたほどです。今、大学で第二言語として中国語を学んでいる最中で、そうすると中国に関する情報に自然と触れるようになり、少しずつ中国への理解が深まっていくのを実感しています。

Jy 同じ質問について、勝さんはどうお考えですか?

勝 先ほど丸山さんから「日中関係といってもさまざまなレイヤーがある」という話がありましたが、学生団体が行う活動に社会の様々な層を巻き込むことが大切だと思っています。学生交流が学生だけのものである必要はないのではないかと実感しています。それこそ経済界であったり、メディア界であったり、色々な業界を巻き込みながら、学生交流の理念や影響力を広く社会の各層に伝えていければ、何か変化が起きるのではないかと思っています。そうした意味で中国関係の仕事をされているOB・OGとのつながりも大切にしています。

京論壇の交流の様子


取材&文:河内滴  写真提供:勝隆一、丸山晴樹

※12月22日のパネルディスカッションには勝隆一さん、丸山晴樹さんの他、中国情報を日本語で発信している大人気YouTuberヤンチャン、北京のベンチャー企業で長年環境ビジネスに携わってきた佐野史明さん、元中国大使の宮本雄二当財団理事長も登壇します。以下のQRコードから参加申込みができます。