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ジャバラのまどVol.12 怪奇!心霊アコーディオン

今でこそノスタルジックなイメージで語られがちなアコーディオンですが、発明されてから広く普及するまでの時期は、実は産業革命の時代と重なっています。技術革新によりさまざまなニューモデルが次々に開発され、人気を競い合いました。娯楽を持ち運べる最新メカということで、まあ、今で言えばスマートフォンのような存在だったのかも。
アコーディオンがバリバリの新製品だったこの時代には、「科学で解決できないことはない」と考える「科学万能主義」が台頭していました。しかし、なぜか同じ時期に、一大心霊ブームも起こっていたのです。
その要因についてはいろいろな説がありますが、電話や無線通信といった遠く離れた人の声を伝える技術が飛躍的に発展した時期だったため、あの世の人の声も聞けるのでは・・・という期待が生まれたということがひとつあります。南北戦争の影響から「戦死した親族にもう一度会いたい」という思いの後押しもあって、各地でさかんに「降霊会」(亡くなった人の霊をこの世に呼び出す集会)が行われました。しかし、そこは科学万能時代、「霊が存在するなら証明できるはず」という人々が現れ、次第に科学者立会いの降霊会が開催されるようになったのです。この活動に力を注いだ意外な人物には作家のコナン・ドイル、奇術師フーディーニなどがいます。
降霊会では、呼び出された霊が何らかの音を出したり家具を動かしたりと物理現象を起こすことがあるのですが、19世紀後半に行われた降霊会で「霊がアコーディオンを弾いた」という記録が残っています。これらはそのときのことを描いた当時のイラストです。

霊媒師は、このような形でアコーディオンを持ち、

このような姿勢でテーブルの下に置きました。この状態ではアコーディオンの鍵盤にも蛇腹にも触ることができないはず。しかし、霊が呼び出されると楽器は突然鳴り出し、軽快な演奏が響き渡ったのです。ときには蛇腹を動かしながらカゴの中を浮遊することもありました。立ち会った科学者達は頭を抱えてしまいます。
霊媒師の名は「生涯において、一度もインチキだという証拠を掴まれなかった霊媒」として名を馳せたダニエル・ダングラス・ホーム(ヒュームとも)。この心霊アコーディオンについても「影で誰かが演奏しているのでは?」「口ひげのなかに小さなハーモニカを仕込んでいるのでは?」などとさまざまに疑われはしましたが、いずれも証明されませんでした。
とは言え、本当に霊が演奏したという証拠もないので、今ではやはり手品の一種だったのではないかという説が有力なのですが・・・。
霊とアコーディオン、という組み合わせは一見意外に思えます。でも、テレビや携帯電話など新しい技術と心霊現象を結びつけたホラー映画や小説は現代でも珍しくないので、新技術と人智を超えたものを結びつけたがるのはいつの世でもある話。新しい技術というのは正体不明で、あたかも魔法のように感じられるものです。そこに科学では計れない力を期待してしまうのは、時代を問わず人の性(さが)なのかもしれません。

Youtubeで見つけたダニエル・ダングラス・ホームのドキュメンタリー。スペイン語なのでさっぱりわからないのが残念ですが、7分30秒くらいのあたりからこの心霊アコーディオンのことが取り上げられており、そのときに使われたアコーディオンに近いものの実物も出てきます。フルーティナと呼ばれる、ごく初期のアコーディオンだったようですね。


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