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お笑いジャーナリスト・たかまつななさんが伝えるSDGsの“ツボ”とは?

「10年後の未来をよくしたい!」という想いで活動する人たちにお話を伺う、「SDGs People インタビュー」。今回は、お笑いジャーナリスト・たかまつななさんのインタビューをお届けします。

お笑い芸人としても活躍するたかまつななさんは、学校や企業で出張授業を行い、お笑いを取り入れながら社会問題をわかりやすく伝える活動をしています。近年はSDGsの普及活動にも積極的で、SDGsの入門書『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』を出版したことでも話題を呼びました。
お笑い芸人、ジャーナリスト、そして若者世代のオピニオンリーダーとして、たかまつさんはどのような想いをいだきながら活動しているのでしょうか。

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無関心な人に伝えるのには、お笑いが一番!

−−たかまつさんが、「お笑いで社会問題を伝えよう!」と思ったきっかけはなんですか?

最初に社会問題や政治に関心を持ったのは、小学校4年生の時です。アルピニスト・野口健さんの環境学校に参加して、富士山でゴミ拾いをした時に、ナンバープレートが外されたバスや、注射器などの危険な医療機器が、あちこちに不法投棄されているのを見て、衝撃を受けたんです。

「ゴミの処理費用を浮かせるために、こんな身勝手なことをしてよいのだろうか…?」
「ゴミを拾うための人件費は税金から払われるの…?」
「そうした社会問題を解決するために政治があるのか!」

目の前の“現実”から、いろいろなことを考えさせられて、社会や政治への関心が広がり、だんだんと「ジャーナリストとして社会問題を発信したい!」という思いが膨らんでいきました。

そこで、新聞社が募集していた子ども記者にエントリー。記事を書く機会を得たのですが、「不法投棄の問題を取り上げたい!」と編集長に相談したら、「もっと子どもらしい記事にして」と言われてしまうなど、自分の企画がなかなか通らない…。ようやく自分の書きたい記事が載っても、ほとんど知り合いが読んでいないという状況で、「反響が薄いなあ…」「もっとダイレクトに、多くの人に、社会問題を伝えられる方法はないかなぁ…」と悩んでいたんです。

そんな時に出会ったのが、爆笑問題の太田光さんと宗教学者の中沢新一さんの共著である『憲法九条を世界遺産に』という本。この本は、憲法という難しいテーマを、「いろんな視点でみていっているのですが、そんな見方があるのかと大きな衝撃を受けました。芸人さんだからこそ、できる視点だと感銘しました。

この出会いによって、「私もお笑いで社会問題を伝えよう!」という考えを持つようになり、お笑い芸人の道に進むことを決意しました。

現在は、寄席で社会風刺を取り入れたネタをしたり、“時事YouTuber”としてYouTubeで活動したりしています。ネタになる情報は取材をして集め、自分の意見を交えながら伝えているので、芸人と同時にジャーナリストとしても活動を続けていることになりますね。

私って「なんで私はこんなに頑張っているのに、みんなは動いてくれないの!?」という、ちょっとイタい学級委員長のような性格があるんですけど、社会問題やSDGsって、情報を欲している人にだけ伝えていても、世の中は変わらないと思うんです。
大切なのは、いかに関心のない人に知ってもらい、行動に移してもらうか。そのためのきっかけとしてお笑いは、とってもよい切り口なんです。

日本も世界も、次世代にツケを回しすぎ!

−−SDGsに興味を抱いたきっかけはなんですか?

持続可能な社会の実現や、未来を良いものにするために、今できることを考えて行動するというSDGsのメッセージに共感したことですね。
もともと、「次の世代にツケを回したくない」という意識が強かったんです。日本の政治でいうと、少子化によって高齢者の力が強まる「シルバー民主主義」なんかに、危機感を抱いていましたし、18歳選挙権がスタートした2016年に、「もっと若い人が社会を動かせるようにならなきゃダメだ!」と考えて笑下村塾という会社を立ち上げたのも、そんな想いがあってのことです。

地球全体に視野を広げてみても、環境や経済が次の世代にまで持続できない仕組みになっている。グレタ・トゥーンベリさんのような若い環境活動家が声をあげるのも、国際社会が上の世代に有利な構造になっているからだと思います。持続可能な社会って、結局は自分の子や孫の世代にツケを回さないことなのではないかと思うんです。

「これは共感できるぞ!」と思えたSDGsに出会ってからは、すぐに自分の活動のテーマに取り入れるようになりました。

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お笑い×SDGsで、日本の問題意識を高めたい

−−SDGsを伝えるために、どんな取り組みをしているのですか?

芸人さんと一緒にSDGsを面白おかしく伝える「笑って学ぶSDGs」というプログラムを出張授業や企業の研修、講演会などで提供しています。例えば、SDGsの17の目標に関係する写真を出して、芸人さんに、「写真で一言」的にボケてもらってから、解説をする大喜利形式のものや、ババ抜きをしながらSDGsを学ぶ「SDGsババ抜きカードゲーム」などがあります。

SDGsババ抜きカードゲームは、どこでやってもとっても盛り上がるんです。カードに書かれているのは、17の目標に対する課題。それを1枚ずつ隣の人が引いていきます。例えば「飢餓をゼロに」のカードには「私を含め、日本人は一日当たり、毎日おにぎりを1個捨てている」という記述があって、引いた人は、カードの内容を読み上げるのがルール。さらに、自分の次のターンが来るまで、「全身でおにぎりを表現し続けてください」といった罰ゲームの要素が入っているので、一般の方でも自然と笑いが生まれるんです。

SDGsに興味を持ってもらったら、実際に行われている取り組みを紹介します。ここで一番強く伝えるのは、「一人ではできない、協力が必要なことがたくさんある」ことです。そして最後に、グループ内で協力しながらアイデアを発表してもらい、自分ごととして捉えていただくきっかけを作っています。

一連の授業は私が直接行うこともありますが、他の芸人さんにやってもらったり、カードゲームを購入して学校現場だけで楽しんでもらったりと、このプログラムがなるべく多くの人に広まるように工夫しています。

その中で私がこだわっているのは、しっかりと機能する教材をつくることです。もちろんお笑いも大事なのですが、笑いがなかったとしてもSDGsへの理解が深まることのほうが大事。本質を理解してもらいたいので、かなりSDGsを勉強して教材をつくりました。SDGsは奥が深いので、結構大変でした。

子どもの方が、しっかりと現実に向き合っている!?

−−SDGsの普及活動をしていて、反響はどうですか?

2〜3年前は、プロデューサーの人にSDGsの企画を持っていっても無反応でしたし、お客さまもキョトンとしていた気がしますが、今は、「SDGs」という名前くらいはみんな知っているし、テーマ自体のウケも良くなってきています。

授業をしていて感じるのは、大人よりも子どもの方が、“社会を変えることに向き合っている”ということです。例えば、学生にジェンダーについて解説をすると、「自分の学校には、ジェンダー平等に反する校則がありますが、どうすれば変えられますか?」と積極的に質問してくるんです。
大人が最初にSDGsに触れると、とても遠い存在のものだと思ってしまってなかなか自分ごと化できないことも多いんですけど、子どもたちは、まず自分の周りの問題と結びつけて考えようとしている。
これは、SDGsの抽象的な側面にこだわってしまいがちな大人が、見習うべき姿勢なのかもしれませんね。

−−実際に、身近なところから始められることはあるのでしょうか?

もちろんあります。大人であれば、最も有効な手段は、買うという投票行動で、企業を選んでいく「消費」です。どんなにセンスのいい洋服でも、児童労働で生産された商品だとわかったら買いませんよね? 共感できない企業の商品は買わない。そうした行動が、企業活動という大きな力を動かしていきます。
SDGsは目標。実現しなければ意味がありません。

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必要なのは、問題をわかりやすく伝える“翻訳者”

−−SDGs Peopleとして、今後どのようなことをしていきたいですか?

SDGs Peopleはいろいろな立場の人が集まっていて、とても面白いですよね。私は、まず芸人として、そうした人たちが集まる空間を、「ファシリテーター」として盛り上げたいです。同時に、ジャーナリストとして多くの情報や知見を集めてきたので、それぞれの問題をわかりやすく伝える「翻訳者」としても頑張っていきたい。
環境や社会の問題は、あらゆる場所であらゆる活動・議論がされていますが、それらを知らない人のためにしっかりと伝える人が不足していると思います。今回のジャパンSDGsアクションは、多くの問題を、みんなで俯瞰しながら考えられるチャンスなので、ぜひいろいろとチャレンジしたいです。


「ごめんなさい」と謝るより、「ありがとう」と言われたい

−−最後に、たかまつさんが描いている「10年後の未来」とは?

今の社会のままでは、自分が次の世代に謝っている未来しか訪れないと感じています。10年後、出張授業で「たかまつさんは何を伝えてきたんですか?」と問い詰められて、「ごめんなさい。何もできませんでした」としか答えられなくなってしまう可能性があります。そうならないように、SDGsのこれからの10年に全力で取り組んでいきたいです。

SDGsという概念自体は広まりつつあるので、持続可能性の「何が大事なの?」「どこが本質なの?」という問いに答えていくことが、次のステップだと思っています。自分の活動を通じて社会を少しでも良くして、10年後の授業で「ありがとう」と言われるようにしたいです。

以前、私の著書を読んだ高校生から「社会はこのままでいいのか」というメッセージが書き込まれた手紙をもらいました。一生懸命もがきながら、共に活動する仲間を探している人が、次の世代にいることを知り、何より励みになりました。私ももっと頑張らなければいけません!

●たかまつなな
お笑いジャーナリスト/時事YouTuber/株式会社 笑下村塾 取締役
フェリス女学院出身のお嬢様芸人としてデビュー。近年は、若者と政治をつなぐため、株式会社笑下村塾を設立し、全国の学校で出張授業を行うほか、お笑いジャーナリストとして、YouTubeやイベント、講演などで、お笑いを通して社会問題をわかりやすく発信するなど、精力的な活動を展開中。 近著に『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』がある。

Twitter:@nanatakamatsu
YouTube:たかまつななチャンネル
オンラインサロン:SDGs体験型オンラインサロン 「大人の社会科見学」
note:https://note.com/takamatsunana