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無原罪の聖マリア

L'Immacolata Concezione

「無原罪の聖マリア」の教義はすでに中世10世紀頃から民衆に信仰されていたが、1854年に教皇ピオ9世により宣言され、カトリック教会の公式な教義となった。
無原罪の聖マリアとは、「聖母マリアも母聖アンナに無原罪で宿り、原罪から守られた」という教義である。12月8日の「無原罪の聖マリアの祝日」には、ローマのスペイン広場で早朝からさまざなセレモニーが行われる。

スペイン広場(Piazza di Spagna)」の外れ、スペイン大使館前に「無原罪の聖マリアの塔(La colonna dell'Immacolata)」が立つ。

早朝6時前にスペイン広場は閉鎖され、消防のはしご車、パトカーも出動し、塔頂の無原罪の聖マリア像への献花の準備が始まる。

無原罪の聖マリアの教義は古くからスペインで信仰が篤く、民間に浸透していたことから、ローマのスペイン大使館の前の広場が記念塔建立の場所に選ばれた。
1857年、近くでカプチン派の「無原罪聖母修道院(Nostra Signora della Concezione dei Cappuccini)」を建設中(1777年)に発掘されたローマ時代の神殿の柱を大理石の台座の上に立て、その上に無原罪聖母マリアの像が置かれた。
高さ12メートルの重い大理石の石柱を立てるにあたって、ローマの消防署員220人が従事したことから毎年、消防士たちが塔に献花するようになった。

7時頃、セレモニーの後、消防士たちがはしご車の梯子を昇り降りして、各団体からの塔頂にのせる花輪、花束を献花する。

12月8日、ローマのスペイン広場は早朝から活気づく。
まだ暗い冬の朝6時頃、ローマの消防署からはしご車が用意され、7時頃に塔頂の無原罪の聖マリア像に献花が行われる。まずは消防署員がはしご車を使って、聖母の右腕に白いマーガレットの花輪がかけられ、聖母像の台座にも数々の花輪、花束が置かれる。

無原罪の聖マリアの塔ヴァチカンの憲兵隊(Corpo della gendarmeria dello Stato della Città del Vaticano)から8日早朝に献花があった。

ローマの北部パリオリ地区に本部を置くエルサレムの聖墳墓騎士団(L'Ordine Equestre del Santo Sepolcro di Gerusalemme=OESSG)の面々も献花に訪れた。

大きな十字の四方にさらに四つの十字架を入れた十字は「イスラエル十字(La croce di Gerusalemme)」と呼ばれ、騎士団の紋章になっている。五つの十字はイエスの聖痕を表している。

スペイン階段の上の「トリニタ(三位一体)ディ・モンティ(Trinita de Monti)教会」に隣接して校舎がある「トリニタ・ディ・モンティ・サクレ・クオレ(聖心)学院(Istituto Sacro Cuore Trinita di Monti)」の園児、小学生、学生たちも献花に訪れる。

ローマ在住のシシリア人たちの聖母マリア信心会(Arciconfraternita Santa Maria Odigitria dei Siciliani in ROMA)。

ローマ市営バス社ATACからも献花。

ローマ牛乳社Latte di ROMAからも献花。

11時頃、各種団体、企業からの献花が終わると一般人の献花が始まる。

献花した人たちには、無原罪の聖マリアの教義とご出現の歴史が書かれたパンフレットとメダイがプレゼントされる。

超高級ブランド店がひしめくスペイン広場界隈は観光のメッカで、日中は国内外からの観光客で賑わう。
しかしこの日は、広場の外れスペイン大使館前の広場に立てられた無原罪の聖マリアの塔へカトリック信者たちが朝早くから献花に訪れる。
9時頃から教区内の小さき兄弟の聖母マリア教会の司祭、信者たち、近くに本部がある聖ヨハネ騎士団(Sovrano Militare Ordine Ospedaliero di San Giovanni di Gerusalemme)の団長、聖母マリアを御旗に神に仕える国際的団体レジオ・マリエなどがヴァチカンの憲兵音楽隊に率いられて献花する。
その後、交通、海運業界の団体、イタリア各地の教育機関、信者団体、イタリアの労働組合団体が次々と献花に訪れ、無原罪聖母の塔の台座はみるみるうちに花々に被われる。
正午にスペイン大使館の大使、職員、イタリア在住のスペイン人の信者たちの献花が終わると広場は午後の式典のために閉鎖される。
その頃、ヴァチカンの聖ペテロ広場では、フランシスコ教皇による無原罪の聖マリアへの祈りが行われる。

スペイン階段に整列し演奏するヴァチカン市国の憲兵隊のブラスバンド。

10時頃、ヴァチカン市国から憲兵隊がブラスバンドに率いられてスペイン広場を訪れ、無原罪の聖母マリアの塔に献花。その後、スペイン階段を舞台にヴァチカン市国憲兵隊ブラスバンドの演奏会があった。意外にも宗教色が薄く、ヨハン・シュトラウス(父)のラデツキー行進曲からビートルズまで幅広いレパートリーだった。

待ちに待った教皇(パパ様)の到着。パパ様は、イタリアの国民車といわれる軽自動車フィアット600に乗ってスペイン広場に現れた。

セレモニーの終りにパパ様は、広場を埋め尽くした観衆に近寄り、声をお掛けになられた。

昼の休憩時間にホテルに戻り、14時頃会場のスペイン広場に戻ろうとすると、ローマの旧市街の幹線道路は全て交通止め。沿道は教皇の到着を待つ人たちで立錐の余地もないほどの混雑ぶり。人込みをかき分け何とか会場のスペイン広場まで辿りついたものの、小一時間もかかり慌ててしまった。
あれこれと準備している内に遠くから歓声が聞こえてきた。サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂でローマ市民の聖母子像に「疫病平癒と平和を願う祈り」を済ませた教皇が来る合図だ。
予定された16時、教皇はイタリアの国民車といわれる軽自動車フィアット600に乗ってスペイン広場に到着。
無原罪の聖マリアの塔の聖母マリア像に祈りを捧げ、明るい薔薇の花の大きな花籠を祝別し、献花した。
式典の終りに教皇は広場の信者、観衆に近寄り、声をかけ、最後に取材班のブースに立ち寄り一年間の報道業務の労をねぎらい、再び軽自動車の助手席に乗り、大歓声の中、ヴァチカンの教皇宮殿へと戻って行った。

"奇跡の水"で有名なフランス・ルルドベルナデッタ(Bernadette)の前にご出現なさった聖母マリアは、無原罪の聖マリアであった。
1858年、ルルドの洞窟にご出現なさった聖母マリアは、自ら「私は無原罪の御宿り(Que soy era Immaculada Councepciou)」と土地の方言でベルナデッタに語りかけたという。

無原罪の聖マリアがご出現なさったというルルドの洞窟
聖ベルナデッタが後半生を送り、帰天の地となったフランス中部ネヴェール(Nevers)の聖シールと聖ジュリエッタ大聖堂の無原罪の聖マリア像

聖ベルナデッタに無原罪の聖マリアがご出現なされる約30年前の1830年7月、フランス・パリの聖ビンセンシオ・ア・パウロの愛徳姉妹会の修道院に入会し、入錬していた修道女カトリーヌ・ラブレに聖母マリアが現れた。
聖母マリアがカトリーヌ・ラブレに伝えたお告げをもとに作られたメダイが、数々の奇跡を生み、「不思議のメダイ」あるいは「無原罪の御宿りのメダイ」と呼ばれるようになった。

不思議のメダイのノートル・ダム礼拝堂

フランス・パリ7区の高級百貨店「ル・ボン・マルシェ(Le Bon Marché)」の裏側に位置する愛徳姉妹会の修道院の外観。
中庭奥に「不思議のメダイのノートル・ダム礼拝堂(Chapelle Notre Dame de la Médaille Miraculeuse)」がある。

メダイには無原罪の聖マリアを囲んで「原罪無くして宿り給いし聖マリア、御身に寄り頼み奉るわれらのために祈り給え。(Ô Marie, conçue sans péché, priez pour nous qui avons recours à vous.)」と印字され、裏側には中央に大きなMの字の上に十字架、その下に王冠を冠したイエスの聖心、その周囲を12の星が囲んでいる。

礼拝堂内観。無原罪の聖マリアの主祭壇の右側に聖カトリーヌ・ラブレ(Catherine Labouré)の祭壇、棺が顕示されている。

修道院内に売店があり、不思議のメダイ、無原罪の聖マリアの御宿りのメダイも販売されている。


スペインの無原罪の聖マリア画
中世から無原罪の聖マリアの信仰が篤いスペインでは、17世紀のスペイン南部のセビーリャ派の画家たちが優れた無原罪の聖マリアの絵画を残している。

17世紀のスペイン絵画の巨匠ディエゴ・ロドリゲス・デ・シルバ・イ・ベラスケス(Diego Rodríguez de Silva y Velázquez)の無原罪の聖マリア像。
スペイン絵画黄金時代初期の作品で画家18歳の時の作品とされる。
ロンドン、ナショナル・ギャラリー所蔵
17世紀初頭から半ばにスペイン・セビーリャで活躍した
バルトロメ・エステバン・ペレス・ムリーリョ(Bartolomé Esteban Perez Murillo)は、
生涯に数多くの無原罪の聖マリアを描いた。
無原罪の聖マリアの画家ともいわれる。
セビーリャ美術館所蔵
ムリーリョと同時代に活躍した
セビーリャ派の画家フアン・デ・バルデス・レアル(Juan de Valdés Leal)も
多くの秀逸な無原罪の聖マリアを描いている。
セビーリャ美術館所蔵
1625年頃からセビーリャを中心に活躍した
フランシスコ・デ・スルバラン(Francisco de Zurbarán)の無原罪の聖マリア。
マドリッド・プラド美術館所蔵
作者不詳 セビーリャ美術館所蔵


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