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LassLos - 無碍 (2-Pure tone)

無碍

多分1度死んだ。

前世でなにか強い決心をした感覚だけ、身体が覚えている。


次、どうすればよいのかは自然とわかった。

いいね。とても冴えている。

方位磁針が見事Nを差したときのように照準が合っている。


ぎこちなさはない。

運転席の裏を通って、1号車からホームに降りた。


ベンチと目が合って「まあ、お座りなさいな」と目配せされたので

厚意にあずかり腰をかけた。


・‥…━…‥・‥…━…‥・


高揚とは真逆の、
虚無感より無個性で味の薄い、
温泉卵の黄身のようなまんまるい気分だ。


やらなくてはいけないと思えることが一つもなくなってしまった。

そして、やりたいこともなにひとつ。

見当もつかない。


・‥…━…‥・‥…━…‥・


身体を染める光の色が気持ちいいな


手の形を変えるたびに、グラデーション/違った色に染められ直し、肌への浸蝕を許す。

同化しそう。溶けてしまいそう。


・‥…━…‥・‥…━…‥・


業はまだ思い出していない。
縁はまだレベル0。
今なら素直に何にでも純粋な興味を持てそうだ。


全部知っている

ここのことは全部知っている。

ここは、どこでもあってどこでもない。


見に行かなくとも隅々までどうなっているかわかる。

今なら世界のどこで何が起きてもすぐに気づけそうだ。


もしも何か想ったなら、その祈りはすーっと通っていって

世界の端までタッチできそうな感じがする。


転がり落ちたペンと床が衝突して、どこまでも無限遠に反響していく残響音を聞いた。


わたししかいない。

ここでは最弱で居られる。


さっきから確信めいたことしか浮かんでこないし、

質問は一つもなくて、思い浮かんだこと、それがそのまま答えなんだ。


穏やかと静けさ。

紫色の炎はおさまり、弱火になっている。

紫色の炎と出会った日のことはまだ思い出せていない。


派手なことをする気は少しも起きない。

ただ、ありのまま平熱でいればよさそうだ。


自分と空間の境目はもう不確かで、

さっき光の浸食を許した手の先からほわほわと滲んで溶けていった。


悪くない気分だ。

嬉しいとか楽しいとかそういう種類のものではなくて

ただ心地よい。


・‥…━…‥・‥…━…‥・


わたしの意思と関係なく動くものは1つとして見当たらないし

どうやらみんな味方みたいだし、

全部に触れたいし、全部に頼ればいいと思った


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深く力が抜けていく。

空間と同化していく。

呼吸のリズムもこの際、預けてしまおう。


ここをホームポジションとする


・‥…━…‥・‥…━…‥・


ずっと座っていたらベンチになってしまいそう。

だけど、時が来たら何の抵抗もなくきっと立ち上がれる。


考えが何も浮かんでこないな。

時が役割を終えて

他者が業務を終了して

考える必要がなくなってしまった。



「自由とはこんなに静かなものだったのか」


そうやって、わたしという主語が価値を失って崩壊し、意味をなさなくなるのを眺めていた。


穏やかで、静かな、素直で純粋にひどく冴えた日。

宇宙を独り占めしたままで

無碍

Produce: バラエティショップ・レットゴー

illustration/text : サカキ (@hisui0)

Special thanks: C's naoki


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広大な仮想空間の中でこんにちは。サポートもらった分また実験して新しい景色を作ります。