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赤ちゃんがギャン泣きするのはヒトの特徴ーみんなで共同養育してしあわせホルモンをいただきましょうー

はじめに

私たちヒトは、ホモ・サピエンスに分類される動物です。そして、不思議なことに、動物でありながら自分を含めた社会を俯瞰する「視点」も存在しています。このような特別な「視点」を獲得したことがヒトのヒトたる由縁かもしれません。しかし、このことが、私たちが動物であることを、忘れさせてしまうこともあります。

40万年前のモデル

ヒトの進化のスピードは緩やかで、現在の私たちの脳の容量(1400~1500cc程)や仕組も40万年前に150人の集落で暮らしていた時とさほど変わりません。「150」はイギリスの人類学者であるダンバー博士が算出した数字で、ダンバー数とも呼ばれます。私たちが相手の顔を想い浮かべながら親身になれる人の数は150人(マジックナンバーともされます)くらいだそうです。私たちはSNSで何百人、何千人の人と「つながる」ことのできる時代に生きていますが、生身の感覚で共感できる人数は、やはり150人程度とのこと。現代に生きている私たちも、その身体は結構旧式のままのようです。

ヒトの乳児死亡率は高かった

私たちは、遺伝的に近いゴリラやチンパンジーと比較して、赤ちゃんを未熟な状態で出産します。例えば、ゴリラは赤ちゃんを産むと、次の出産まで4、5年ほど期間を置きます。子育てにお母さんがつきっきりになるからです。ところが、ヒトの赤ちゃんは超未熟な状態で産まれ、育児も大変なのにもかかわらず、何故か年子での出産も可能となっています。一説では、ジャングルから飛び出したヒトは、サバンナで猛獣に襲われることが多く、赤ちゃんがその犠牲になったため、ヒトは出産の間隔を短くして赤ちゃんをたくさん産む必要があったと考えられています。

離乳を早め、次の出産の準備をする

お母さんが赤ちゃんに授乳させていると、プロラクチンというホルモンが分泌されます。このホルモンは排卵を抑制し、次の妊娠を妨げる働きがあります。つまり、長いこと赤ちゃんにおっぱいをあげていると、お母さんは次の妊娠をしにくくなります。だから、赤ちゃんを早く離乳させることで排卵を回復させるというわけです。さて、ゴリラの赤ちゃんは離乳すれば、大人のゴリラと同じ食事を摂ることができます。一方で、ヒトの赤ちゃんは(早くに離乳するので)離乳した後にも離乳食が必要です。離乳食の準備は大変ですね。しかし、「お母さんじゃなくても離乳食は用意できる」という利点もあるようです。

小さく産んで大きく育てる

ヒトの赤ちゃんが未熟な状態で産まれてくる理由は、他にもあります。ジャングルを離れ、二足歩行ができるようになったヒトは、道具を作り、狩や食糧を運ぶことも容易にできるようになりました。一方で、お母さんの骨盤は狭まり、赤ちゃんは頭蓋骨が小さいうちに産道を通る必要性が生じました。出産時の赤ちゃんの頭蓋骨はまだくっ付いていませんよね。赤ちゃんは頭蓋骨をずらし、重ね、身体を回転させるという工夫をしながら、この世に出てくるのですね。そのため、脳の前頭前野(コントローラー)の部分の成長は後回しにされます。以前の記事で、イヤイヤ期についてお話したのはこのことです。

栄養満点のぷくぷく赤ちゃん

ヒトの赤ちゃんはぷくぷくです。私の娘もボーンレスハムのようにくびれた腕をしていました。分厚い脂肪に多大な栄養をため込んで生まれてきます。ヒトの赤ちゃんの体脂肪率は15%~25%で、ゴリラの赤ちゃんの体脂肪率が5%であるのと比較すると、そのぷくぷく感が伝わってきます。何でこんなに脂肪が必要かと言えば、ヒトの赤ちゃんは生後1年で脳を2倍に成長させるるからです。骨盤をすり抜けるために後回しにした脳の成長の遅れをここで取り戻したいのかもしれませんね。

赤ちゃん、重いです

赤ちゃんは1年で脳を2倍に成長させると言いました。確かに、小さく産まれるのですが、それでも、ずっと抱えていることを考えればけっこう重いですよね。チンパンジーやゴリラのお母さんは、赤ちゃんを抱えて離しません。でも、ヒトが赤ちゃんをずっとか抱えているのはつらいです。私の娘も3.5キロ位ありました。テストステロン多めで筋肉が多い私ですが、ずっと抱えていることは無理でした。腕がしびれてしまいます。「寝たかなー」と思ってベビーベッドに置こうものなら、娘はギャン泣きです。

ギャン泣きするのはヒトの証拠

チンパンジーやゴリラの赤ちゃんがギャン泣きしているところ、あまり記憶にないですよね。聞くところでは、彼らはギャン泣きしないそうです。ヒトの赤ちゃんがギャン泣きするのは、赤ちゃんを置く前提があるからだと言います。チンパンジーやゴリラは自分の赤ちゃんを他人に預けないのだそうです。ところが、ヒトの場合、血縁・地縁の親族に赤ちゃんを預けたり、面倒を見てもらうことが「デフォルト」としてメカニズムに設定されている。ヒトの場合、赤ちゃんのギャン泣きを聞くと、「なんかしなきゃ」と思います。そんな周波数を発しているそうです。

みんなで子育ての意味

皆さん、もうおわかりですね。ヒトの場合、育児のデフォルトは共同養育のようなのです。お母さんが一人で赤ちゃんの世話をするようには出来ていないわけです。私は社会科学実験を通じた幸福研究(happiness studies)をしています。おもしろいことに、誰かの世話をする、ご飯を分け合う、小さい子どもに何か教える、じゃれ合う・・・。幸福度を測る尺度(いくつかありますが、SWLSやSHSなどが有名です)の数値を従属変数に、小さい子に教える(Generativity)等を独立変数にして回帰分析をしてみます。すると、「みんなで育児すること」に関係してくるこれらの要素が幸福度を上昇させていることが見て取れます。もちろん、くじで10万円当たった時も、競争に勝った時なども幸福度の上昇は確認できますが、縦断的に(時間を追って)分析してみるとそれらは「ぷしゅ」と短い時間で消えてしまったりします。

幸福ホルモンはヒトのデフォルト行動のご褒美か

ヒトの成熟には次世代を想う力、ジェネラティビティが大切です。発達心理学者のエリクソンは、これを持たなくなった大人が経験する不安や孤独を、ジェネラティビティ・クライシスといって警告しました。ヒトの赤ちゃんの脳は5年で大人の90%に成長します。5年間、みんなから助けてもらうことで子供は成長します。そして、実は、子どもの成長を助けることで大人も成長します。もちろん、自分の子どもでなくて良いのですよ。親戚の子ども、近所の子どもでも良いのです。私たちのデフォルトの設定されていることをすると、幸福なホルモンの恩恵をちょっと得られるかもしれませんよ。

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