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大学生警備員の小砂12:無心にテンポよく作業をする

ここの話は私が20代の頃のしょうもない経験と考えたことを元に回想し、解釈しているだけで、必ずしも正しい知識ではないことが含まれていることをあらかじめおことわりしておきます。
1992年、夏。私は朝の新聞配達以外は「引きこもり」のような生活から少し歩みだし、20歳の時に江東区にある高層ビルで警備員のアルバイトになりました。夜間のアルバイトです。そして、夜勤の警備員アルバイトをしながら、21歳の時に大学生になりました。
さて、かなり時間をすっ飛ばしてしまいます。すっ飛ばした時間の出来事についてはまた別の機会に書きたいと思います。
24歳で就職をせずに一年更に浪人して大学院に合格しました。今思えば、入学までの間に、他にやることいろいろあるだろうと思ったのですが、貧乏性だったもので、神戸での研究生活に集中できるように資金調達をすることにしました。大学の同期はよく聞く名前の企業に就職し、一年目からボーナスが出たというキラキラした話を聞く中で私が選んだのは「自動車の期間工」でした。

さて、愛知田原工場に配属された私は、高級車のフェンダー(車の前の横)とピラー(前のドアと後ろのドアの間の柱)の溶接を担当しました。私は高校生の時にガス溶接と電気溶接の資格を取得していましたが、これらの資格の知識はさほど関係なく、工場のラインに備えられた設備をつかってスポット溶接をしていきます。下手糞な溶接をしてしまうと、火花がはじけたり黒く焦げたりします。溶接の場所、傷などを品質(品質をチェックする社員)さんがチェックして回ります。

ジャスト・イン・タイム。カンバン方式で指示どおりの件数を捌かなくてはいけないし、手が空く時間は無駄になるので、そこにその他の作業工程を組み込みます。とにかく、リズミカルに動くのが本人も気分がいいし、作業の流れ的にも良いようです

難しい作業ではないのですが、力加減が分からずに、溶接の際に余計な力が入ってしまいます。するとですね、やがて指が固まって動かなくなるのです。そういう時には、休憩場所に溶かした蠟がたぷたぷと入っている容器があります。そこに指を浸すと指の凝りが和らぎます。

やがて慣れてくるとですね、力の抜き加減も分かり、指も固まらなくなります。そして、テンポよく無心になって作業を進めていくのです。この作業中、昨晩本を読んでいてわからなかったところなどについてひたすら考えていると、ある瞬間にふとわかったりします。無心の時間は大切ですね。

作業の休憩時間、私の日課はチームが集まる休憩スペースで超甘いホットココアを飲むことです。不思議なもので、毎回皆、だいたい同じ場所を休憩場所として占拠するのです。私の隣は少し前までヤンキーだったであろう金髪君です。眉毛も見事になかったです。この作業場で一番仲良くなったのも彼です。見かけはインパクトがありますが、よくよく考えたら、若いときから関連会社で正社員として働いていて真面目で、とても親切な人なのです。

私はこの間に、金髪の彼や私のように期間工としてやってくる若者の行動を分析してみることにしました。よく言えば、参与観察ですけれど、私の暇つぶしです。

さて、作業が上手になってくると、少しずつ違う役割を任せてもらえます。私的には、仕上がった部品を乗せたカートを蛇のように長くつなげ、牽引車で次の工程に運べるようになった時が、何だか嬉しかったです。

そして、休みの日に味噌カツを食べに行くのが幸せでした。人間、そんなことが幸せなんだなあと噛み締めるのでした。

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