大ヒットの「パルワールド」は盗作か? ゲームのパクりパクられ問題を整理する
1月19日、ポケットペアから発売されたゲーム『パルワールド』。発売から4日で販売本数500万本を突破するなど、インディーゲームの規模としては前代未聞のヒットを記録しており、ソーシャルメディアや動画配信サイトなどでも多数シェアされている。
もっとも、『パルワールド』のヒットは必ずしも歓迎されていない。その理由はゲームの参考画像を見れば一発でわかる。そう、明らかに「ポケットモンスター」シリーズに登場する「ポケモン」を意識したデザインの「パル」と呼ばれるモンスターが世界を闊歩していて、それどころか、この「パル」たちをただ戦闘のみならず肉体労働に酷使したり、他人にうっぱらうなどのブラックユーモアも盛り込まれているのである。
開発したポケットペアは公言していないが、本作は明らかに「ポケモン」を意識した上で、それも風刺的に扱っている。これに対して、一部のファンは批判的に攻撃し、開発サイドも誹謗中傷にまで発展した事態を憂いている。爆発的な売上と、その背後にある欲望、そしてこれに対する過激な批判が相まって、本作の評価は賛否どちらにも分かれているといえるだろう。
しかし、盗作を巡るゲームの権利問題は何度も繰り返されてきたし、その間に出てくるのも、法的に正しくない議論か、あるいは快・不快の「お気持ち」の域を出ない持論であり、車輪の再生産が続いていることは否めない。そこでゲームゼミとして、そもそも「パルワールド」の問題を考える前に、ゲームの権利問題における焦点は何か、過去の事例を参考にしながら問題点を洗い出し、「ゲームのパクリを考える上で、念頭に置くべきこと」を整理したい。
法的には権利者がどう動くか
まず『パルワールド」に対して寄せられる批判意見でもっとも多いものが、本作が「ポケモン」を盗用している、つまりパクっているのではないかという問題だ。
前提として、一般にアイディアやデザインの権利は著作権と呼び、これは原則として民事・刑事問わず告訴によるものであり、仮に本作が法に触れるものだったとしても「ポケモン」の権利者が訴えなければ公訴には至らない。要するに、権利がない人が何を言っても公的な問題にはならない。
何故なら、アイディアの権利というものは世界に溢れており、しかも人間社会そのものが常に何かの模倣によって続いてきたからだ。そもそも芸術、アートと呼ぶものも、もとを糺せば技術、アルス、つまり「模倣」(ミメーシス)する技術と考えるのが一般的で、そこに「独創性」を見出す文化すら中世まで存在しなかった。
実際、「ポケモン」も「ウルトラマン」のカプセル怪獣からの影響が指摘されるように(プロトタイプ版のポケモンは「カプセルモンスター」という名前だった)、創作活動は大なり小なり何かしらの模倣に連なるものである。仮に100%オリジナルの創作をできる人がいたとすれば、それはアブラハムの宗教的には天上の神のみである。
とはいえ、批判的な意見を持つ人にとって、こうした建前的な議論は「そんなことはわかってるよ」という話。実際『パルワールド』に向けられた批判の多くは、法的というよりも倫理的な問題であって、筆者としても倫理的な問題、つまり言語化しがたい嫌悪感や、特に自分が好きな作品に対する敬意のない扱いに対して、憤りを覚える気持ちは否定するつもりはない。
では倫理的な論点から『パルワールド』の問題を洗い出しながら、同時に『パルワールド』はそれにどう応答しているのか、弁証法的に検討していきたい。
キャラクターデザインとゲームデザインの「入れ子」的な模倣
まずゲームの「パクリ」を問題にする場合、大きく分けて2つの論点がある。
1つは表象的な問題、つまりキャラクターや世界観などが他のゲームや作品から影響を受けている点と、もう1つがゲームデザイン上での問題、つまりルールやUIなどの影響を受けている点である。
当然ながら表象とゲームデザインは全く異なる問題で、「見た目こそそっくりだがゲーム内容は全く別のゲーム」とか、逆に「ゲーム内容は一緒なのに見た目が違うから問題にならないゲーム」があったりする、という記事は以前『原神』と『ゼルダBotW』で論じたことがある。
この点で『パルワールド』の「パクり方」が巧妙なのは、キャラクターデザインこそ明らかに「ポケモン」から影響を受けているものの、ゲームの内実としてのゲームデザインはむしろ「ポケモン」と対照的に、他のゲームから影響を受けている……つまり、入れ子的な模倣をしている点である。
具体的には、『パルワールド』の戦闘はリアルタイムだし、「ポケモン」にはない生産施設があったり、なんなら現代兵器でポケモンや人間を殺傷できる。むしろゲームデザイン上は「ポケモン」とは意図的に異なることをやろうと試みており、既に指摘されている通り、どちらかといえば「ARK」シリーズなど海外のサンドボックスサバイバルゲームや、『Satisfactory』のような自動化シミュレーションに近い。
そもそも開発のポケットペアはゲームデザイン上の流用を公言してきたディベロッパーだ。初期の作品『Overdungeon』は『Slay the Spire』と『クラッシュロワイヤル』から影響を受けたことを電ファミニコゲーマーのインタビューで証言しており、次に発売した『Craftopia』もルックは『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』ながら『Satisfactory』(および『Factorio』)的な生産要素で対比化させる試みを行ってきた。
つまり表象的には「ポケモン」であっても、ゲームデザイン的にはむしろ「ポケモン」にはない独自性(それも他ゲームの影響なのだけど)があり、それによって本作はある種のブラックパロディ的な批評性を帯びている。
余談だが「表象的にはAのパクリだが、ゲームデザイン的にむしろBのパクリ」という「入れ子」的なパクり方は、昨今のある種のトレンドになっている。最も顕著な例は、2022年のメガヒット『Vampire Survivors』だろう。これはキャラクターや敵はほぼ「悪魔城ドラキュラ」シリーズそのものだが、ゲームデザイン的にはモバイルゲームの『Magic Survival』に強く影響を受けている。
また日本で爆発的なヒットになった『スイカゲーム』も、中国の『合成大西瓜』というアプリのゲームデザインをほとんど踏襲し、表象的には単にフルーツに顔らしき模様をくっつけた「入れ子」だが、これもマーケティングとしては見事に機能し、少なくとも元ネタに対する「パクリ」論争はあまり起きなかった(『VS』といい、元ネタが知名度の低く、SNSで軽んじられやすいモバイルゲームだからというのもありそうだが)。
総合的に、本作はゲームデザイン的には「ポケモン」より海外のサンドボックスゲームからの影響が如実にあり、こうした「入れ子構造」を鑑みるに、少なくとも「ポケモン」だけのパクリとはいえず、むしろ既存のサンドボックスゲームに対して「ポケモン」的な手軽さや遊びやすさを取り入れている点は一定の独自性を認めることができる。
実は『パルワールド』に限らない表面的な模倣
しかしゲームデザインにおける「入れ子」的な模倣を鑑みたとしても、表象部分に限定すれば、「ポケモン」からの影響は否定できないのではないのは明らかだ。
事実、本作に登場するパルたちはどう見てもポケモンであり、その影響を否定する余地はない。しかし、この表象部分に限定した上で『パルワールド』の「パクリ」を問題にするには、いくつかの反証すべき論点がある。
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