うたひめ

 うちには2匹の犬がいる。

 一匹はオスのクロ、もう一匹はメスのチャ。それぞれ性格に違いがある。クロは番犬用にもらわれてきたので、よく吠える。もっとも、「弱い奴ほどよく吠える」という言葉もあるように、おそらく臆病だからよく吠えるのだろう。対してチャは全然吠えない。メスだからあまり吠えないのか、そこのところはよくわからない。

 クロはむやみに触られることを嫌がる。チャはなでてあげると喜ぶ。基本的にクロは僕に対して威張っていて、チャは従順のような気がする。だからクロから見たら、クロ→僕→チャ、の順で順列をつけているのではないだろうか。

 ところが、去年のこと。散歩をしていて、とんでもないことが起きた。

 その日は2匹を連れての朝散歩だった。もうすぐ家に着く手前100mで事件は起きた。突然、チャが獣のように歯を剥き出しにして「ウゥゥ」とうなり始めた。あれ、どうしたんだろうと思ったら、クロがしっぽを下げて縮こまったように見えた。

 そのとき、チャがクロの耳にがぶりと噛みついた。クロはキャンキャン鳴いている。二匹が突然、ケンカし始めたのである。というか、一方的にチャがクロに怒っている。クロの耳からは噛まれて血が噴き出してきた。さぁ、大変ということで、何とか間に割って入って、ようやく家路についた。

 コンクリートは血まみれの流血騒ぎ。いやぁ、あれは凄かった。いったい、チャはどうしたのだろう。それから気をつけて2匹の動向を観察するようになった。

 すると、どうやらチャの所有物(たとえば食べ物)をクロが誤って(?)とろうとしたとき、ものすごく怒ることが分かった。また、なぜか犬部屋にクロが入れてもらえないときがあって、そのときは困ったように僕を見てワンワン吠えることもあった。クロは僕に助けを求めていたのだろうか。

 あんなに従順でおとなしいチャが突如、歯を剥き出しにしてうなり声をあげる姿は本当に驚きだった。いったいどうしたのだろう。チャへの見方が変わった。




 出雲神話に出てくる女神の中でもあまり人気がないのがスセリヒメではなかろうか。スセリヒメはスサノオの娘であり、大国主命の正妻である。大国主命がスサノオの試練を受けたときに助けたのもこの女神。だからもっと人気があってもよさそうなのに、全くもっての不人気ぶり。

 出雲に建てられている神社の数でもそれがよくわかる。大国主命の妻で、スセリヒメと同じく出雲大社の本殿脇の社に鎮座するタギリヒメを祀るのは39社。スサノオの妻であるクシナダヒメを祀るのは49社。それに比べてスセリヒメを祀るのはわずか5社しかない。この一事をとってもスセリヒメの不人気ぶりがうかがえる。

 なぜなのかはおおよそ想像がつく。スセリヒメは嫉妬深いと「古事記」にはっきりと記載されている。それを恐れて、大国主命の最初の妻ヤカミヒメは子供を置き去りにして伯耆に逃げ帰っている。

 さらには、日本初の歌曲(デュエット!)を大国主命と一緒に歌ってもいる。そこでも「大国主命は津々浦々に女がいるけど、わたしにはあなただけ・・・」なんて歌っている。まさに恨み節である。

 これじゃあ、スセリヒメを祀ってあげようという風にはならないのかもしれない。しかし、ほんとうにスセリヒメはそんな女神だったのだろうか。実を言うと僕は少しだけスセリヒメに同情している。みんなにスセリヒメの見方を変えていただきたい。

 スセリヒメは言わずと知れた出雲の偉大なスーパースター・スサノオの娘である。さらには叔母に高天原の女帝・アマテラスをもっている。もう一つ挙げるなら黄泉の軍団を引き連れるイザナミがおばあさんにあたる。まさに貴族中の貴族。とても八十神の下僕であった大国主命が近づける方ではなかった。それなのに、スセリヒメは大国主命と会った瞬間に、その力量を悟り、恋に落ちるのである。身分など関係なく、もっと対等な関係で相手をしっかり見れる人なのである。これは昔では考えられないくらい、というか逆に今こそ理解されるべき女神だと思う。そして、大国主命と日本初のデュエットまで歌っている。まさに神話界の歌姫じゃないか。

 「出雲国風土記」の神門郡滑狭郷(なめさのさと)にスセリヒメは住んでいたと記されている。そしてそこにはスセリヒメを祀った那売佐(なめさ)神社が建てられている。

 ぜひ、日本初の歌姫としてみなさんにもっと認知してもらうために、中島みゆきさんか宇多田ヒカルさんあたりに詣でてもらいたいものだ。



 さて、チャについてである。

 最近はっきりと分かったことがある。ひょっとして、チャはクロより位が高いのではなかろうかということである。つまり順列的に、チャ→クロの順なのではなかろうか。ということは、ひょっとしてチャの頭の中ではチャ→クロ→僕の順ってことに・・・・いや、これ以上考えるのはよそう。明日も散歩が待っている。



 今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。 
 
 よかったら、那売佐神社にもいらしてください。
 特に、日本の歌姫の方は是非!

 それでは、お待ちしています。




こちらでは出雲神話から青銅器の使い方を考えています。
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