超時空薄幸少女救済基金・12のRe

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※このテキストは「超時空薄幸児童救済基金・12」の有料部分の続きです。手前部分はこちらになります。https://note.mu/izunohiranari/n/n278db985422d?magazine_key=m4e5b246a40ca

※しばらく中断したため、現実の季節とずれてしまっていますが、「返事が来なかった」、「手紙を読んでいなかった」等の強引な調節をせずに、ずらしたままで継続しています。




「やあ、待ってたよ」

 数日後、再び訪れた連絡役の男を出迎えて、少女が無事にコトイシに戻れそうなこと、騎士エンドゥキの無事は今回の手紙からはわからなかったこと──などを告げると、彼は嬉しそうにうなずいた。

「そうでしたか。あの時点では村までの配送ルートしか辿れなかったそうで、砦に着いたかどうかの確認はできなかったものですから……」

「まだ、砦の様子はわからないのかな」

「詳細は把握できていません。ただ、復旧は進んでいるようです。館の再建には少なくともあと二か月は必要でしょう」

 それまで、彼女は借り部屋住まいなのか……。
 今月もこちらから手紙を書いて届けられないか頼んでみたが、男の返事はNOだった。

「申し訳ありません、規則ですから……。それに、あの娘は独立心のあるしっかり者です。後見人が世話を焼いてばかりいては、芽を摘んでしまうことになりませんか?」

 芽を摘む──は言い過ぎな気もするけど、彼の言い分はたしかに正論だ。
 彼女からの手紙は、あくまでも私の寄付が役に立ったことを確認する報告に過ぎないのだから。

「応援の騎士や兵士たちは到着したのかな」

「そろそろではないかと。砦の受け入れ体制は整っていないですが、騎士たちの大半は高潔な人物だそうです。多少の不自由に文句は言わないでしょう」

「いくら費用をかけても、すぐには元に戻せないだろうからなあ」

「はい。寄付金はもう十分です」

 それならいいんだが……。
 こっちは、当てにしていた仕事が不意になくなったので、財政難なのだ。
 余裕があるうちに砦の修繕費を寄付しておいてよかった。余ったり、利益が出たりしているなら返してほしいくらいだ。
 当然、そんなことをしたら「後見人」じゃなく「投資家」になってしまうから禁止事項なんだろうけど。
 とはいえ、この寄付も言い方をかえれば「異世界の少女の幸福な未来に投資している」みたいなものだけど。

「ひとつ教えて欲しいんだが、『中央低地』と彼女のいる砦とはどういう位置関係なの? 少し、あちらの地理がわかるといいんだけど」

「さあ、それは……。私も、あちらの世界について詳しくはないのです。また、あまり細かい説明は規則違反ですので」

「えっ? でも、今だって騎士のことを話してくれたろ。それに、そもそも彼女からの手紙にはあちらの世界のことが事細かに書かれてるのに……?」

「同じ世界の住人に宛てた手紙から知る内容と、初めから異世界と知っていて客観的に告げられる知識とは別物なのです。データとしてあちらの世界を把握するのは、後見人にはあまり好ましくないことなのだとか」

「ふうむ。で、その理由についても……」

「お話できません。ただ、私もその理由を知らないからなんですけどね」

 連絡役の男は、すまなそうな顔をしてそう言った。
 異世界とわかっていてあちらの世界の知識を得ることが、どうしてまずいのだろう? さっぱり理由がわからない。
 彼女の手紙を読んだときだって、私はその内容を異世界の情報として分析してるのに? それとどう違うのだろう……。
 私が考えこんでいると、男が話題を変えた。

「それで、言づてはどうします?」

「う~ん、ありきたりだけど『騎士エンドゥキ捜索の結果を至急、報告されたし』かなあ。あ、それから……」

「なんです?」

「去年、従騎士になれたら渡すつもりだった兜をかぶるのに使う髪飾りを、作ってもらおうと思うんだ」

 手鏡を返されてしまったので、うやむやになってしまったのがずっと気になっていた。もうじき二度目の誕生日だからそのときでもいいし(竜の騒ぎでそれどころではないかもしれないが)、あるいは騎士になれたときのために用意しておいてもいい。

「ああ、それはOKですとも。あちらの腕の良い職人に注文しましょう」

「で、そのとき、彼女の希望するデザインで作ってもらいたいんだが、それも大丈夫だろうか。鏡の時も職人が砦を訪れたんでしょ。私からそうしろと言うわけではなく、職人さんに彼女の希望を取り入れて欲しいと伝えて……」

「なるほど。確認をとってみます。恐らく問題ないと思いますよ」

 連絡役の男はそう言って請け合った。
 だめと分かっていても、返事を出そうとしたり、世界のことを詳しく知ろうとしたりしたのは、(もちろん、上手くいけばそれに越したことはないが)この髪飾りの了解を取り付けるためだったのだ。
 こちらからデザインを指定したりはできなさそうだが、彼女の発案であれば、誰も文句はつけられまい。

 とはいえ、竜の騒ぎが収まらなければ、職人も砦に近づけないのだが……。
 連絡役の男を見送りながら、私はそんなことを考えていた。

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