超時空薄幸児童救済基金・A
(はじめに)
マガジンの冒頭でも簡潔に説明していますが、奇妙な慈善団体に寄付をし、異世界で暮らす恵まれない少女の後見人となった「私」の日記です。
ただし、こちらのアルファベットがついたシリーズは、「私」が新たな寄付をして後見人となった、「ふたりめの少女」のシリーズで、「ひとりめの少女(数字がついたほうのシリーズ)」とはシステムが異なります。
約二ヶ月の間に、時々届く少女からのメッセージ部分と、それに伴う「私」の感想部分が有料となります(今お読みの10~11月のみ、初回のメッセージは無料部分に書かれています)。
メッセージは、Twitterのつぶやき的に毎日……は厳しいかもしれませんが、数日に一回は届く予定です。
「ひとりめの少女」のほうを読まなくても、こちらだけで独立して楽しめるものにするつもりですが、両方読むほうが楽しめます(絶対に!)。
では、奇妙な「ひとりPBM」的創作物をお楽しみください。
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「超時空薄幸児童救済基金」に勧められて、もうひとり、異なる世界の恵まれない少女に寄付をした。なに大した額ではない。一ヶ月くらい、不便な生活を我慢すれば払えるぐらいの金額だ。
たいして裕福でもなく、いや、むしろ万年金欠状態である私なんぞがそんな寄付をして少女を苦境から救えたのは、払った金額が高額に相当するような異世界への寄付だったからだ。例えば、ひとりめの「騎士見習いの少女」がいるコトイシ砦の世界では、砦の修繕と運営再開に必要な費用が私の寄付ですべて賄うことができた。
ふたりめの少女――まだ名も知らないし、どんな世界の子かもわからない――は、大学の学費が捻出できずに困っているらしい。
「超時空薄幸児童救済基金」の連絡役の話では、彼女は幼い頃に両親を船の事故でなくして孤児となった。父母の保険金とアルバイトで生活費や学費を捻出してきたが、卒業を目前に学費が足りなくなり、父母の形見の貿易船を手放すしかない――らしい。
彼女が商船の大学に入ったのは、船乗りとなって父母の後を継ぎ、貿易会社を立ち上げたいから。そのために卒業して資格を得る必要がある。だが、船を売って学費を工面すると、今度は肝心の船や、会社を始める資金もなくなってしまう……。
その費用が、私が最初の少女に寄付したのと同じぐらいの額と聞いて(他にも交換条件があったのだが、それはまあ別の話)、結局こちらにも寄付金を出してしまった。
それから数日後のこと――。
電話が鳴ったので出ると、聞き覚えのある声がした。
「お電話で失礼します――」
「やあ、君か」
もう声でわかるくらい顔なじみの、いつも家に訪ねてくる連絡役の男からの電話だった。電話のディスプレイには「超時空薄幸児童救済基金」の番号が表示されている。
名前といい寄付の方法といい妙な団体だが、たしかに恵まれない異世界の少女のために役立っているのだ。その証拠に、ひとりめの少女から、あちらの世界の見たこともない文字で近況を綴った手紙が、後見人の私宛に月に一度は届く(もちろん訳文と一緒にだ)。
「そろそろ、もうひとりの子からも手紙が届くんじゃないの?」
「ええ。お電話したのはその件です。お手数ですが、現在パソコンを操作できますか?」
「ああ。自宅だからね」
「メールを調べて頂けますか?」
「ちょっと待ってくれよ……」
言われるままにパソコンを立ち上げ、メールチェックをする。
最初に寄付をしたとき、手続きの書類にメールアドレスを書く欄があった。スマートフォンだと、広告メールが来たら面倒かな――と思ったので、パソコンのメアドを書いたのを思い出す。
ただ、それっきり「超時空薄幸児童救済基金」からメールが来たことなどなかったので、完全に忘れていたのだ。
「当方からのメールを、ご確認頂けますか」
ふむふむ、確かに「超時空薄幸児童救済基金」からのメールが届いている……が、なにかおかしい。
「これ、そちらのメールじゃないみたいだよ。どう見ても、女性からの私信みたいなタイトルだけど……?」
そういう目で見たら、内容を確認もせずに「ありがちなスパム」として処分してしまうようなメールだ。
なにしろ……。
メイシアより おじさまへ。 投資の件です
こんなタイトルなのだ。
全く縁のない証券会社からの広告メールか、もっと怪しいなにかのスパムにしか見えない。
アドレスを見て初めて、「超時空薄幸児童救済基金」からのメールだとわかる(いや、それでもスパムっぽいが)。こうして電話で教わらなければ、中も見ずに削除していただろう。
「今後、彼女からの近況報告はメールで届きます。いつものように訪問してお伝えしたかったのですが、お渡しする手紙もなかったものですから……」
「ええっ!? このメールが、ふたりめの少女からの手紙なの?」
「はい。あちらの世界からの『近況報告』は、こちらの世界のメールに近い形で届くのです。ですから、原文のままお届けすることが難しいため、このような形をとらせて頂くことになりました」
「ははあ、なるほど……」
異世界の文字を、こっちのパソコンやスマートフォンで表示するのは手間がかかるだろう。
ていうか、それってつまり……。
「あっちも電子機器の――いや、科学の発達した世界なの?」
「ええ、おそらく。私も担当するのは初めての世界で詳しくはないのですが、どうやらそのようです」
「へえ、世界の担当とかって、決まってるんだ」
そう言うと、連絡役の男は口が滑ったというように短く息を吸ってから「後見人の皆さんに紹介する孤児によって決まりますので……」と、当たり障りのない答えを返してきた。
「ふーん。それで、彼女への言づてはどうしたらいいのかな」
最初の少女への簡単な返事は、連絡役の男に直に伝えていた。今回はメールで返信できるのだろうか?
「すみません、こちらは近況報告のシステムが違いますので、こちらからの言づてはしばらく保留ということでお願いします」
彼によると、メールは月一回ではないらしい。詳しくは、届くメールを見ているとわかってくる――とのこと。
「わかった。まずはメールを読んでみるよ」
「そうしてください。では、また近いうちにお伺いします」
最初の少女の用事では、今後も直に訪ねてくるのだろう。あっちだって、言づてくらいは電話で済ませられそうなものだが……などと思いながら電話を切り、パソコンに向かう。
本文は思いのほか短かった。スパムだって、もう少し長いだろう。
彼女からの第一報は、こんな感じだった……。
はじめまして。メイシア・モーゲンストルです。超光速通信回線が極めて高価なため、報告書が最小単位の文書パック送信なのをご容赦ください。先月、ブリエスト星系のミラーエ商船大学を卒業し、唯一の財産である老朽船で起業しました。ジョン・スミス様の我が社への投資に、深く感謝いたしております。
こ、これは……!?
超光速?
星系って……?
まさか……。
船というのは、もしかして……?!
気になってしょうがないが、次の報告を待つしかないのだ。
超光速で届くメッセージを――。
メイシアより おじさまへ。航宙報告1
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