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まだ使ってるよ!【#忘れられない一本】

 私は物に感情移入しちゃうタイプだ。
 うかうかしてると自分に関わった物品に架空の人格を持たせ、勝手にそいつと会話しちゃう傾向がある。
 「飽きたから」とか「汚れたから」とかで、ぱっと物を捨てられない。ケチだからではない証拠に(いやまあ、常に財布は軽いし、すぐに「勿体ない!」って思うほうだけど)、壊れたり使えなくなったときはちゃんと新しいのと交換する。でも、これまで一緒に戦ってくれた戦友を簡単には見捨てられない困った人間なのだ。
 例えば、昨今の「使い捨てマスク」なんてやつもどうも困ってしまう。
「捨てられてこそ、マスクとしての任務を全うできるんだ!」
「し、しかし……」
「ああ、捨てて欲しいのだッ!」
 ってな具合に、脳内でマスクと自分とのやり取りが繰り広げられ、なかなか捨てられなかったりする(ここ、多少話を盛ってます。さすがに、だいぶ慣れてきてはいますけど)。
 長持ちする高価なものなら尚更そうだ。バージョンアップした品が出たからというだけで買い換える……ってのが、なかなかできない。
 例えばスマートフォンとか。気に入った機種の新製品が出ない限り(出ても迷うけど)、いつまでも使い続けてしまう。機種交換したあともリサイクルに出せず記念にしまっておくし……。
 だからこそ、衝動買いはなるべくしない。感情移入してしまう物が多いと大変だからだ。
 この例えが適当かどうかは自信ないけど、大奥とかハレムとか一夫多妻とか……みたいな感覚だと思うのだ。ああいうの、こっちが保たない。
 同じ用途のアイテムが複数あると、いかに平等に使うかor使用する機会をどうシェアするか……みたいなことを色々と考えてしまう。
 例えばマグカップとか。
 「こいつはコーヒーを飲む専用で」とか、「こいつは紅茶のときに使ってやることにしよう」とか……無駄に気を使う。
 だから同じ用途のものを幾つも買い集めるのは、あまり趣味ではない。
 使わないままになりそうな道具を買うのも、あまり好きではない。

 って、一番好きなシャーペンについて話す前に、なんだか長々と前置きしてしまったけれど……。
 要するに、私は身近な品物に関して、壊れたり失くしたりしない限り、長いこと親しみを持って使い続けるってこと。
 それでいて、だらしなくてずぼらな性格でもあるので、そうした愛すべきアイテムをうっかり壊してしまったり、いつの間にか失くしてしまったりしてハートブレイクすることも多々あるから困りものなのだけど。

 おっと、いかん。シャーペンの話だった。
 私のお気に入りの一本。
 それは、ぺんてるの「GRAPH1000(0.5mm)」だ。
 ぺんてるさんがシャーペンに関する投稿を募集していたからこの記事を書こうと思いたった、と言っても過言ではない。
 それぐらい、発売当初からGRAPH1000を愛用している。手にしたのは、大学受験の真っ最中だ。
 それまでに、愛用のシャーペンといえるものは、三菱uniの銀色でグリップ部分が黒の縞模様になっている金属のやつだった。父から譲られた中古のシャーペンだが、これもかなりのお気に入りで、こいつで小中を乗り切ったと思う。
 私が小学校のころは、それほどルールが厳しくなく、小学校でもシャーペンは禁止されてなかった(いつ頃からか、小学校では鉛筆を使わせるところが多くなった気がする)。そもそもシャーペンが高価で、使うやつがあまりいなかったのだ。初めて見たシャーペンは外国製で、0.5mmの芯ではなく、鉛筆みたいに太い芯を回して出し入れするやつだったと思う。
 だが、このuniは壊れてしまい(あるいは紛失したのかも)、そのころにはこだわりなく、当時出始めた100円~200円ぐらいの安価なシャーペン(オート鉛筆とかいったような気がする)を何本も使い倒していくようになった。
 安くて買い直しが容易だと油断しがちで、生まれついてのずぼらが勝ってしまい、すぐに紛失してしまうのだ。

 GRAPH1000を知ったのは、高校生の終わり頃だった。店頭で見たのではない。雑誌の広告で見かけたのだと思う。
 製図専用に開発された特殊なシャーペン!
 芯の濃さを表示できるキャップ!
 消しゴムがちゃんと消しやすい材質だし、すごく長い!
 なんか、持つとこの滑り止めの形がかっこいい!
 つや消しの黒が渋い!
 なにこれ、欲しい!
 発売される前だったのか、直後だったのかよくわからないが、その時すぐに店で探したら見つからなかった。見つけたのは、もう年末近くなっていたのではないか。
 今でこそザラッと縦に差し入れるケースに入って売られているGRAPH1000だが、そのときは確か、特別にケースだか紙箱だかに入っていたような気がする(自信ないけど)。
 すでにシャーペンは安く手に入るありふれた文具となっていた。
 私のほうも、月にもらう三千円の小遣いの中から数百円ならひねり出せる――という金銭感覚。
 だが、シャーペン一本に1000円を払うのは、けっこうな勇気がいった。
 千円あれば50円専門のゲーセンで豪遊できたし、文庫本も漫画本も二冊は余裕で買える。
 けれど、広告に魅了されていた私は思い切って買ってしまった。

 思ったとおり、GRAPH1000の使い心地は最高だった。受験勉強の山場も、こいつで乗り切った。
 いや、当時はまっていた「大学ノートに横書きでびっしりとファンタジーやSFを書く」という遊びのほうが使いまくったと思う。ちなみに、製図に使ったことはない。
 ともかく、それまで何十本とオート鉛筆を失くしてきた男が、「こいつは1000円もした特別なシャーペンなのだ!」という思いも手伝って、失くすことも壊すこともなく使い続けたのだ。

 それから30年以上。同じGRAPH1000をずっと使っている。
 つや消しの黒だったボディは摩擦でつるつるの光沢ある黒に……。
 金属部分は塗装が剥げて金色が混じり……。
 キャップは角が取れて丸くなり……。
 でも、使いやすい。これが手に馴染んでいる。
 大学生時代も授業をききながら相変わらず横書きの小説を書くのに使い、ワープロを手に入れてからも、それは続いた。
 2005年ごろ、「GRAPH1000が製造中止になる」という噂が立ったことがある。「まじかっ! こいつが壊れたらもう代わりがないじゃん!」と焦りに焦って、二本ほど予備を買った。
 そのときに、自分のGRAPH1000がどれだけ年季が入っているかを思い知らされた。

グラフ1000b

 使い込んだGRAPH1000。

グラフ1000f

 新品はこのマット感。

グラフ1000e

 下の相棒は、キャップも長年のノックによって角がとれ丸みを帯びている。

グラフ1000c

 クリップ部分の年季の入り具合が、割と気に入っている。
 でも、数年前に比べると全体的に錆が入ってきてしまっているかな。

 たぶん、新しいのと変えたほうがいいんだろうけど……。
 これだけ使ってもまったく壊れないのだから、変える理由がない。
 結局、製造中止はデマだったようで、予備のGRAPH1000は使われないままに15年も経ってしまっている。
 彼らに対しては、「使ってやれなくてすまんなあ」という気持ちで一杯なのである。

 ぺんてるさん、素敵な人生の相棒をありがとう。
 いや、マジで。

 ただ、一度も製図に使ったことはないんだけどもね。

グラフ1000a




 

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