RPGに役立つ?!         続々・背負い袋にこの一冊!

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※2003~2006年に雑誌『季刊RPG』に掲載された記事です。

第十七回:『栄光への飛翔~若き女船長カイの挑戦』

 ~宇宙船で商売はつらいよ~

(本のデーター)
『栄光への飛翔~若き女船長カイの挑戦』
 エリザベス・ムーン 著
 斉藤伯好 訳
 早川書房 発行 980円+税
(※データは掲載当時のものです)

バックパック禁止?!

 先日、『河童のクゥと夏休み(傑作でした!)』の試写会に行った帰り、銀座を歩いていたら、突然ビリッと右腕がしびれて痛み出しました。外科で診てもらうと、鎖骨のあたりで神経が圧迫されているとか。やれストレッチだの電気治療だのと毎日受けていますが、なにより困るのは、医者からの「しばらくバックパックを背負うな」とのお達し……まったくもって冒険者らしからぬ状況です。
 でも、それでもです! 今回はSF-TRPG特集――つまり、トラベラー特集ってこと(あっ、もちろん、カットスロートプラネットも楽しみにしてます!)なのですよ。
 そうと聞いては、じっとしてられません。右腕のしびれも構わず、バックパック背負って駆けつけました。
 この、やけに分厚い一冊を詰めこんで……。

 ……というわけで。
 こんにちは、謎のメカ侍・伊豆平成です。
 いつも、「妙なところでRPGとの関わりを感じる本」を選ぼうとしているので、特集にあわせた本選びには毎回苦労するのですが、今回に限ってはやけにすんなりと決定してしました。
 というのも次のネタとして打診するつもりでいた一冊が、たまたまSF作品、それも飛びっ切りの「トラベラーもの」だったのです。
 私、トラベラー好きのくせに、「ここ数年、宇宙海軍のシリーズがたくさん出ているなあ」と気づきながらも、全くその手の本を読んでいませんでした。
 読まず嫌いなのは承知の上ですが、どれも〈トラベラー小説〉ではないので敬遠していたのです。
 ここで言う〈トラベラー小説〉とは、「読んでるだけでトラベラーをプレイした気分になれる小説」のこと――例えば、以前に紹介した『デュマレスト・サーガ』などは、完璧にこの〈トラベラー小説〉です。
 でも、宇宙海軍の戦艦に乗って任務を遂行――なんて物語だと、当然ながら主人公は海軍を引退してませんよね。これがもうダメ。それじゃどうにもトラベラー気分が味わえない……。
 私の場合はさらに、軍隊ではなくアニメ作品の『宇宙船サジタリウス』みたいな商船が好みなのです。「オンボロ貨物船を所有して、お金のやりくりでヒイヒイ言いながら、しかたなく怪しいもうけ話に手を出して危ない目に遭う……」みたいのが大好き。
 ついでに、主人公の女の子が、「責任感が強くて、やせがまんしつつも健気にがんばる」などときたら、もう言うことなしです。
 そんな、「これぞ〈トラベラー小説〉!」という作品を知ったのは二年前のことでした。
 友人の田中桂が「すげえよ、やたらとトラベラーしてる小説があるよ」と教えてくれたのです。
 どれどれ……と、軽い気持ちで読み始めた私はびっくりしました。
 その小説は、トラベラーを思わせるという点においては、デュマレストをも凌ぐ勢いだったのです。
 前号の『ファファード&グレイマウザー』でも、小説からRPGを想像する――という話をしましたが、あれは「意識して読めば、そう思えなくもない」というレベルの話でした。
 しかし、本作品のRPG度(いやトラベラー度?)は、あれとは比べものになりません。
 なにしろこの作品は、「トラベラー経験者だけが楽しめる特殊な小説」なのです。トラベラーをプレイしていれば普通の読者の百倍、レフリーならば千倍は楽しめるという……。
 てなわけで、今回はトラベラー好きなら始めから終わりまでニヤニヤして読めちゃうこと請け合いの一冊――若き女船長カイ・シリーズの第一巻、『栄光への飛翔』を紹介します。

トラベラーの魅力

 今回はトラベラー好きの人に「すごい楽しめる本がありますよ」と紹介する――だけではないつもりではいますが、トラベラー未体験の方は「メカ侍がやけに嬉々として語っているが何が面白いのかさっぱりわからんぞ」と感じているかもしれません。
 もしそう感じたならば、迷わず他の特集ページにジャンプして、まずはSF・TRPGの大御所である『トラベラー』の色々な楽しさに触れることをお勧めします。
 空間的にも時間的にもジャンル的にも無限に広がっていくSF感覚――が、他のRPGにはないトラベラーの楽しさだと、私は思っています。
 そして、この楽しさを支える大切な要素が「さすらい」と「金(クレジット)」です。
 「旅とか貨幣ならファンタジーRPGにだってあるじゃん」と思うかもしれませんが、トラベラーの場合は少し違うのです。
 魔法もなし、レベルもなしで、普通の人がどんな世界へも行けて何でもできるが、それには金(クレジット)が必要で、なければどこにも行けないし生きてもいけない――ここで大事なのは「金」と「さすらい」がセットだってこと
 旅にはお金が必要で、お金があるから次の旅に出る……その繰り返しこそがトラベラーなのです。それは、二等寝台の一人旅でも、大きな貿易船の乗組員でも同じこと。動くお金の規模が変わるだけです。
 PCは常に旅人であり、たとえ大金を手に入れても、どこかの星に落ち着いて暮らしたりはしない――そんなことするキャラは即座にNPCでしょう(私がレフリーなら、間違いなくそうします)。
 この二つの要素と、SF的な世界観や常識、無防備なほどの自由度が絡み合ったところに、トラベラーの魅力があるのです。

ニヤニヤするところ

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