『野良犬の値段』を読んだ話

百田尚樹の『野良犬の値段』を読んだ。

全体の感想としては、すっきりまとまった話だなあと思った。しかし、まとまっているだけではなくて、初盤の臨場感や登場人物の息遣いまで聞こえてくるような文章力にはやはり驚かされる。

この小説ではホームレスになってしまった男たちが行動を起こしていくのだが、彼らの苦悩や絶望感が読者にひしひしと伝わってくることで、社会の現状が垣間見えたようだった。私自身、住んでいる町には何人かホームレスがいる。この小説の読後、考えてみれば彼らは生まれてからずっとホームレスなわけではないのだろうという、当たり前にも思える考えが浮かんだ。この考えが浮かんできたことに驚いた。今までの私は、どこかで彼らを「ずっとああして暮らしているのだ」と決めつけていたらしい。少しは大人になった気でいた私に、この事実はまだ子供の真っただ中にいるのだと教えた為に、私はひどく衝撃を受けた。

大多数の人々と同じように教育をしっかりと受け、そこそこの優良企業に就職がかなったとしても、何かの弾みでホームレスになったり、社会保障を受けるようになることが誰にでも起こりうるという事実。正直、全く実感は湧かないが、人生はその人次第でいいようにも悪いようにも転ぶ教員から耳にタコができるほど言われた言葉が、今になって重く響くようになった。

いつか何度か見直すべきなのは、この世界には自分のようにパッとしない人間もいれば、大成功を成し遂げ金に溺れる人もいれば、一度の失敗から家を失う人もいれば、どんなに貧乏でも愛の深い家庭で生活できる人もいるということだ。現状に不満を持つか、妥協をするか、向上心を持つかも自分達次第である。当たり前のことだが、それをしっかり理解していることと理解していないこととでは、やはりその一瞬一瞬の豊かさが違うのではないかと思う。


百田尚樹さんの小説は、恥ずかしながら多くは読んだことがありませんでした。しかし、一度読み始めると止まらないし、例外なく小説のラストシーンが好きになります。今までミステリーのイメージがなかった分、余計に楽しむことができました。

私が特に考えを巡らせたのはホームレスのことだったので、ここにはそのことしか書けませんでした。バズりたい一心でネットにURLを載せた男の心境や、事件を追った刑事はどういう思いでラストシーンの場面にいたのかなど、気になる場面は多くあり、心に残りました。

小説から、現在の世界の問題を知ることはとてもいいことだと思っています。時には気が付かなかったようなことが問題だったり、自分の平凡だった考えを大きく壊すようなことがかかれていたり。それらを自分で読もうと思った本から吸収できることはとても名誉なことなのだと感じました。

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