フィクション日記『裕司』
優しい人だとよく言われる。でも決してそうじゃない。
俺は自分が快適に過ごしたいだけなんだ。
今日も乱暴にドアが開く。
「ただいま。」
きっとそこにいるのは、眉間に皺を寄せた見るからに不機嫌な彼女。
「おかえり。」
めいいっぱい、優しい声を飛ばす。
リビングから見えた彼女は、想像通り眉間に深く皺を刻み込んでいた。
これ以上不機嫌になられると面倒だ。
めいいっぱい。優しい顔を作る。
「ご機嫌ななめだね。」
「そうかもしれない。」
彼女の眉間はなかなか伸びない。
なんだってんだ。何がそんなに気に入らないんだ。
どうして俺が理不尽な不機嫌に晒されないといけない?
腹が立ちそうになるが、そんなことを口にしようものなら、
眉間どころかこめかみに青筋を立てて怒り狂うだろう。
そんなことになっては俺がしんどくなるだけだ。
ここは一旦感情を抑えて彼女をソファに座らせる。
温かいココアを渡してみる。
こんなもので機嫌が取れるはずもないが、
やってみないよりはマシだ。
「はいおまけ。」
ココアの上にマシュマロを浮かべてみた。
「はい、飲んで。」
言い返す暇を与えないのがコツ。
「ありがとう。」
よし、ひとまず落ち着いたようだ。
俺は彼女の前にしゃがんで、眉間の皺をみょんっと伸ばした。
「おつかれさま。」
ああ、面倒臭い。
優しい人だとよく言われる。でも決してそうじゃない。
俺は自分が快適に過ごしたいだけなんだ。
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