140字の世界6ページ目

 Twitterでの140字小説のまとめも6ページ目となりました。

 それでは、どうぞ。


『逆さまの教え』

指と指の間に挟む、ビー玉。光の屈折とか理屈は脇に置く。見慣れた、土に根を張って佇む木を逆さまに、空に浮かぶ様に映すのは妙に楽しい。実際は一所に縛られ、動かす事が困難なモノでも、見方を変えれば自由になる。そんな事を教えられた気がした。小さな教師を握り、おはようと広葉樹に目を細める。


『BPMゼロ』

「よく生きた」誰からであれ、そう言われたらゴールだと思っていた。でも「あなたは頑張ってよく生きたわ。ありがとう」俺の手を握り、泣く妻の言葉に、満足できなかった。「死にたくない!お前を置いていきたくない!子供達とも一緒に居たい!」もっと生きたいと思う人生、それが真のゴールだと知る。


『アイの二乗』

「アイが虚数ってなんか嫌」唇を尖らせる。「アイ同士掛けたらマイナス1ってのも嫌」「日本人しか解らないけどな」笑う彼。「でも何からマイナス1かって考えてみろ」言葉が続く。「『辛い』からマイナス1したら」彼は黙る。「逆じゃない?」「日本人しか解らないけどな」笑い合えるだけで充分かな。


『原典回帰』

「あんなんロマンチストの大喜利だろ」一笑に付す男友達。冴え冴えとした月夜の帰り道、意を決す。「月が綺麗ですね!」声量調節失敗。彼を見られない。「よく解りません」ややあって返ってきた言葉に泣きそうになる。「君しか見ていなかったので」火傷しそうな眼差しが胸を射抜いた。「I love you.」


『落ちる』

夕陽に照らされて、濡れた長いまつげから白い頬に光る粒が落ちて、でも表情は無くて。ぞくりと背筋に冷たい電流が流れた気がした。「何?」瞳だけ私に向けて問う貴方に「なんで」と口を開くと「聞いてどうする」ぴしゃりと閉じさせられた。視線だけ繋がって、数拍。「失恋」小さな声に私は恋に落ちた。


『変化に触れる』

限界よ。「好きじゃないならもう、触れないで」シャンプーを変えた髪、新しいピアスを着けた耳、塗り直したネイル。貴方は軽薄に誉めては触れた。私に気持ちが無いなら苦しくなるばかり。「好きならもっと触れて良いんだな?」聞いた事の無い真剣な声が、色を明るくしたリップを塗った唇から注がれた。


『スクリーンより煌めく』

感動モノ映画を観る。感受性が強く、想像力が高い君は誰よりも早い段階で泣き始める。彗星の様に頬を滑る涙。ああ、乱暴に拭っちゃだめ。私のハンカチを手に握らせると、君はそっと涙を吸わせる。困った人。こんなに綺麗な泣き顔は見逃せない。そのせいで私はいつも泣きそびれて、微笑んでしまうんだ。


『シンクロナイズド』

ことん、と同時にコップを置く。「雪が降った数日後に冷房つけたくなる天気って、頭おかしくね?」ぼやく。「天気に頭は無いでしょ」にべもない返し。「いや、そういう話じゃなくて」「そういう話じゃないの?」数秒の沈黙。同時にコップを手に取り、冷えた紅茶を飲んだ。ページをめくる音が重なった。


『枷の要らぬ従属』

するり、と胸元を掠める様に撫でる指先。対の指先は僕の指を絡め取る。ほぅ、と熱を帯びる吐息がうなじを濡らす。すん、と小さく吸う冷たい鼻先が耳たぶを弄ぶ。「捕まえた」質量を持った甘い囁きが三半規管を打つ。細波の悦びに粟立つ首筋に、ざり、と荒い舌が這う。この蠱惑的な磔に、僕は身を任す。


『言っちゃった』

急に俯いた同級生に戸惑っていると、どん!と胸に重い衝撃が来た。ベッドに突き倒される。「どうせあの子みたいに可愛くないよ」いつもの口喧嘩のつもりで、こんな反応は予想外。目を伏せて唇を噛む表情に、心が騒ぐ。「俺、お前が好きみたい」不意に漏れた言葉に「ば、バカ!」彼女の頬が赤く染まる。


『積年』

漫画みたいにわんわん泣きじゃくる君をそっと抱き締める。背が低くて、華奢で、背に回すこの腕に力をこめるのすら躊躇う。「辛かったね」囁くと、胸元に当たる君の頭が縦に振られる。どれだけ悩んで、不安に思っていたのか。申し訳ないと思うけど、「これからよろしく僕の恋人」ごめん、にやけちゃう。


『義務ではない。自然な事だ』

命が尽きれば止まる。肉体が。だが魂は違う。時が与えた重みが持つ慣性に似た力が、命が尽きた程度では止まらせない。残される者達はその魂に轢かれる事となる。骨が軋み、内臓が歪み、脳髄が震える。彼らの重みの一部に住み付く。こうして死しても生きてしまうのだ。双方に選択権は無い。絆と想い故。


『貴方が私の世界だから』

微睡む。覚醒の床が抜けて、睡眠の微温湯に沈む。意識を手放す解放感と手放すなと騒ぐ危機感の間で、えもいわれぬ悦楽を得る。でも何か確かめないといけない事があったような。重い瞼を辛うじて半分持ち上げると、「ここにいるよ」笑顔の貴方が囁いた。良かった。私が眠っている間も世界は続いていた。


 今回は色々な、今までした事が無い試みに挑んでみたり、作風を変えてみたりと、楽しんで書いたものばかりです。

 やや調子に乗ってる感はありますが。

 仲良くさせていただいている物書きさんから素敵な、宝物の様な文章を頂いて、お返しに捧げた作品があり。

 私の死生観を練り込んだもの、女性一人称視点で書いた連作、気温と天気があまりに激しく変わる事に対する文句から生まれたものもあります。

 そして新しい試みとして、『他の方の小説に使われたフレーズを拝借して書く』という手法を取り入れました。あ、もちろん使用許可は頂いております。

 あとは、『アオハル書きたい!』という衝動のままに書いてみたものも多いですね。

 今回はこのくらいで。ではまた。

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