和泉直人

和泉直人と申します。 小説をいくつかのプラットフォームで発表中。 とある素敵な小説家様…

和泉直人

和泉直人と申します。 小説をいくつかのプラットフォームで発表中。 とある素敵な小説家様に触発され、Twitterにて140字の小説も書いております。

最近の記事

140字の世界24

『ノイズ』 遠距離恋愛も月日を重ねれば慣れていくもので、「久しぶり」にこもる感慨も浅くなった。ビデオ通話をしていたからというのもあるが、最初の再会はドラマの様に盛り上がったというのに。手を繋ぐのは互いに自然。でも君が自然な様子で歌を口ずさむ不自然に気づく。ねえ、そのラブソングは誰と聞いたの? 『これ以上失わない』 君との思い出を物語に仕立てて描いた。リアリティがあるとか、重みがあるとか、高評価を受ける。だけどその度に寂しく、苦く感じる事に気づく。そりゃあ、そうか。君との思い

    • 140字の世界23

      『どうせ』 あふれる野次馬の中、独りで見上げた流星群。そっと願った。「一粒ちょうだい」そして僕に降ってきて。無慈悲に冷徹に物理法則に従って、木っ端微塵に吹き飛ばしてくれ。きっと美事な最期になる。なんて。宝くじの大当たりより非現実的なのは解ってる。だから帰りに万札はたいて宝くじを買ってやった。 『決着は右ストレートでKO』 ええ。見てましたよ。坂の上からあっちの車がちょっとずつ、ずり落ちて来ましてね。パーキングブレーキのかけ忘れかな?んで、停まっていたこっちの車にぶつかりまし

      • 140字の世界22

        『君の素敵なところ』 声は確かに一つの要素ではある。その声にしても単一の要素ではなくて、囁く柔らかさ、笑う可愛らしさ、照れる可憐さ、などなど。他にも努力する姿、多少の理不尽も受けて立つ強さ、責任感。中には言語化の難しい、心地よい気配というものもある。だから「どこがですか?」と問われても謎になり得ない。 『精算』 体積を減らし摩擦が減って氷の縦列が崩れる。君が飲み残したアイスコーヒー。僕の分のミルクを合わせて二つ、ガムシロップも二つ。いつもの飲み方だけど、君はもういない。薄ま

        • 140字の世界21

          『匙を投げる』 蝋燭の火が好きだと君は言った。真っ暗な部屋にぽつりと灯して、ゆらゆら揺れるのを眺めるのが好きだ、と。僕はその火にスプーンを晒した。知ってるかな。真っ黒い煤が着くんだ。君が綺麗と讃えた火にこんなにべったり貼り付く汚い黒が含まれている。これがきっと、僕と君との恋の正体だったのかもね。 『罪を踏む』 雨上がりの歩道を歩いている最中、足裏に妙な感触があった。くしゃり。慌てて足を上げて見れば、殻が砕けたカタツムリの姿がある。蠢いているが、もうじき死ぬだろう。罪悪感が心

        140字の世界24

          140字の世界20

          『春色の鉤爪』 冬が好き。寒さに晒されてなす術も無く震えていれば、「こうするしかないのだ」と言い訳ができるから。停まって動こうとしない身も心も許される気がするから。でも季節は簡単に巡っていく。蓋をしてくれた雪を日射しが食い尽くす。思うがまま閉じ籠らせてくれた寒さを強い風が蹴破る。春が襲ってくる。 『初プレゼン前』 毛穴が誤って出す汗で指先の熱が引いた。背筋に貼り付く焦りと不安で固い唾は一向に喉を潤さない。「これ飲みなよ」突然差し出された缶に視野が狭まっていた事を知らされる。

          140字の世界20

          140字の世界19

          『ゆっくり越そう』 こたつにすっぽりはまり、半ば眠る様な怠惰な感覚にぼんやりと身を任せる。天板に頬を載せて僕を見る君もそうだ。「今年もよろしくね」半眼で笑う君が囁く。「え。来年じゃなくて?」とつっこみを入れるが、返るのは寝息だった。「来年もよろしくね」優しく頭を撫でて、大きな毛布を二人の背にかける。 『高鳴り』 言葉がもどかしくて、抱き寄せた。力加減に困って腕が震えて、柔らかい感触に脳が痺れる。すっぽり腕に納まった君を優しく眠らせたいのに、暴れる鼓動は邪魔にならないか。そっ

          140字の世界19

          140字の世界18

          『寒い舌』 歯磨き粉にしか思えない僕は理解できない。チョコミントアイスを美味そうに頬張る君が。しかも冬の屋外で。でも「口の中冷えちゃった」とくっつかれると「暖めてあげる」と濃いキスで応えてしまう僕も、他人から見たら理解できないだろう。舌伝いに移った香りはやはり歯磨き粉で、僕は舌を寒風に晒す。 『秘密』 些細な事でもつい、「二人だけの秘密だよ」と囁いてしまう。悪い癖だなと思うも、無意識にしてしまうから『癖』なのであって。今日も、耳のふちをなぞるような繊細さで、丁寧さで、言い含

          140字の世界18

          140字の世界 17ページ

          『運命』 何に影響されたのか、哲学的な質問が多い彼女。「運命を信じる?」覗きこむ様な目。「文字通りの意味なら」そっけなく返す。「え?」彼女の目が見開かれる。「命を運ぶ。なら産まれた事自体が運命だ」斜に構えた答え。「私達の事よ?」「それは運命だ」即座に答えたこの口に、自分自身がびっくりした。 『解放』 君とのデートの後は頬が痛い。毎日の仕事は退屈だ。飯は雑に済まして、愛想笑いを貼りつけて、方々を駆けずり回って頭を下げて。そんな繰り返し。でも君との時間は違う。仕事で削られた

          140字の世界 17ページ

          140字の世界 16ページ目

          まとめてお届けいたします。 『繰り返す大丈夫は君の嘘』 君は嘘が下手なくせに騙したがる。「大丈夫よ」僕も自分も。笑みに仕立てきれない表情の中で泳ぐ目。所在無げに触れては離れる両の指。「大丈夫」声も震えてる。否定しても認めないのは良く知っている。「大丈夫だって」必要なのは言葉じゃない。強引に抱き寄せる。「何も言うな」やがて嗚咽が漏れる。 『本当は、僕も』 生き苦しい、君が吐き出した文を見て、通話を始める。「大丈夫。僕が居るよ」ゆっくり、柔らかく、優しく囁く。好きだと

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          140字の世界 15ページ目

          いつものまとめです。 『同心円』 そこに『終わり』が転がっている。記念日に贈り合った一対の指輪。君が外して去って、僕も外した。君の指に合わせたそれは、僕の節くれ立った指に合わせた物にすっぽり収まってしまった。この指輪達の様に君と同じモノを共有していたなら、こんな瞬間は訪れなかっただろうか。にじむ視界で指輪は光る。 『終了手順』 何が救いになるだろう。言葉。刃。音楽。時間切れ。結局行き着くのが『終わり』となるこの心の弱さ。そして『終わり』に体を導けないのも心の弱さ。

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          140字の世界 14ページ目

          今回もまとめていきます。 『在るべき姿』 貴女を愛したい。率直な気持ちです。でも僕は自分が嫌いで、こんな僕に愛されても貴女には損しかないと考えました。だから身を引きました。逃げたと同義です。貴女は泣きました。足りない所を教えて、と。僕は首を横に振った。貴女に足りない所なんか無い。この度は結婚おめでとう。率直な気持ちです。 『正しい嘘の処方箋』 私が悔やむのは、たった一度嘘が吐けなかった事。嘘を吐いていれば、貴女は今も私の隣に居たかもしれない。家庭だって持っていたか

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          140字の世界 13ページ目

          140字小説のまとめです。今回もお付き合いください。 『目も見られなきゃ物言えぬ』 「貴方が何を考えてるか解らない」それが捨て台詞。昔から表情筋が怠けてて、目つきは悪く、威圧的なまでの長身。それでも良いって言ってくれたよな。目を見ればだいたい解る様になってきた、とも。そっか。最近俺の目を見てくれなくなったのか。俺は来週の結婚記念日のサプライズを考えてただけだよ。 『雨女と晴れ男のあれこれ』 雨垂れが視界を裂いて、耳を塞ぐ。飽きもせず降り続いて、世界を沈めたいのか。

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          140字の世界 12ページ目

          今回もまとめていきます。 どうぞお付き合いください。 『可愛いが過ぎる』 ふふっと貴女が笑った。首をひねると、「可愛いアイス持って、嬉しそう。君は可愛いね」アイスと僕の顔を交互に見て、また笑う。恥ずかしくなって頬が熱い。彼女に釣り合う様に、と大人な服を揃えた僕が馬鹿みたい。でも。「貴女も可愛いよ。クリーム付いてる」唇の横を舌で拭ってやった。ほら可愛い。 『手』 乾いている。それが真っ先に伝わる感触。握った手から。歳を重ねて抜けた脂、水仕事で抜けた水分。それが

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          140字の世界11ページ目

          今回もお付き合いください。さっそく、いきます。 『乞食に等しくとも』 あなたが涙ながらに捨てた愛は、私が一番欲しいものです。私ではダメですか?あなたを愛する事だけは誰にも負けません。相談を受け、助言をし、勇気づけ、関係が続く様に一緒に考えた。その間もずっと、私はあなたを愛してきました。あなたの幸せが私の幸せだと言い聞かせて。捨てる愛なら私に下さい。 『風速40m』 例え様もない空白が心に在った。誰の言葉も風の様にすり抜けて、風鳴り音にしかならない。意味の無い音。そ

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          140字の世界10ページ目

          キリのいい回ではありますが、特別な事は致しません。それでは、どうぞ。 『とらえたのは』 偽物のシャッター音が響く。「ズルいよね。自分は撮らせないくせに」彼女が口を尖らせる。「僕は君ほど綺麗じゃないから」しれっと返すと「キザ」いー、と歯を見せる。それも可愛くて、撮る。君がフォルダに溢れる。画面を撫でる度に違う君。行き止まりの一枚は僕に背を向けている。僕はまだ動けない。 『写真』 夕陽に目を細めた笑顔、煌めく流し目、花火が照らす横顔、贈ったピアスを着けた耳、唇噛んだ拗

          140字の世界10ページ目

          140字の世界9ページ目

          前回に引き続き、『フレーズ泥棒』からも多数まとめていきたいと思います。 『メキシカンスタンドオフ』 君は薄く笑んだ。俺もつられた。共に飲む珈琲の香り。共に食べた飯の味。共に包まれたシーツの温度。全て得難いもの。でもどうせこうなる運命なら、知らない方が良かったか。片目を塞ぐ程近くに突きつけられ、また突きつけている銃口。いや違うな。これは幸せな終末だ。俺達の人差し指が銃声を招いた。 『般若と晩餐』 帰宅すると揚げ油の香ばしい匂いがした。「お帰り。今日は良い豚肉が安かっ

          140字の世界9ページ目